第9話 昔の思い出

 小学生の夏休みいつも通り公園で遊んでいると、一人ぽつんと木陰にいる男の子がいた。

 俺はそんな子を放っておくことはできずに、なぜか最初あった時から惹かれていた。


「おい、お前……そこのお前だよ!」


 この時のセリフは今でもガキ大将というか、不良みたいな声のかけ方だったなと反省する点だ。


「……なに、あんまり大きい声出さないで」

「ドッジボールやるんだけど、人数がさー合わなくて一人足りないから入ってくれない? 見たところひとりっぽいし」

「余計なお世話だよ、ボクは好きで一人でいるの」


 髪の短いその男の子は可愛らしい見た目をしていた。

 どこかで聞いたことがある、これが美少年というやつだと。


「でもさー、この場所に一人ってちょっと寂しくねぇか?」

「別に……寂しくなんかない、一緒に遊んだほうが悲しくなる」


 俺は積極的に周りに話に行く性格だった。

 色々な人間と関わった方が楽しいと思っていたからだ。


 学校でも中心的な人物だった。

 まぁ自分で言うのもアレだが……。


「あ、なるほどね、そういうことか」

「なに」

「お前負けるのが怖いんだろ、

「――――ッ! ボクは弱くなんかないっ!!」


 その男は俺に飛び掛かってきた、顔に一発パンチを食らった。

 痛いというより、驚きの方が強かった。


「やったなこのやろ!」

「うわぁっ」


 俺はその子のことを投げ飛ばす。

 軽かったため少し力を入れたらコロコロと転がった。


 そのあとは友達に抑えられて、正気に戻り、話を聞くことにした。


「なんでそんなにやるのが嫌なんだよ」

「ちがうよ、手加減されるのが嫌なんだ」

「手加減?」

「ボクに遠慮して、みんな手加減をする」


 俺は最初女の子と知らなかったからお金持ちか何かかと思っていた。

 話を聞くと、学校ではいつもなにかしら、遠慮されたり、手加減とかされることが多いらしい。


 同じ学校ではないのでそういうのは詳しくはわからないが。


「そして、合奏のパレードでのオーディションで、ボクは実力で勝ち取った、それなのにその男子はなんて言ったと思う?」

「なんて言ったんだ?」

「ボクが……ボクが女だから手を抜いてやったって」


 その時の表情はものすごく怒ったような、それでいて悲しんでいる表情だった気がする。


 女……女っぽいからからかわれているのだ。


「女……たしかにお前は女っぽいけどよ」

「女っぽい?」

「みんながみんな、手加減するわけじゃない、特に俺なんかは勝負は全力でやるから、負けて泣いても知らないぞ?」

「い、言ってくれるじゃん」

「じゃあ入ってくれるよな?」


 俺の誘いにソイツは乗った。

 ドッジボールのチーム分けはもちろん、敵チームにアイツを置くことにした。


 そしてそいつは中々にやる相手だという事が分かった。


「残るは……ボクと君だけだね」

「ったく、ここまで強いのか……甘く見てた」

「ふふんっ、ボクはすごいんだ!」

「あぁ、でも今日はここまでだ」

「ど、どうして?」


 その子はものすごく寂しそうな顔をしていた。

 楽しんでもらえたのなら嬉しいが、もう帰る時間だ。


「もう帰る時間だろう、外も暗くなってるし」

「そっか……」

「まぁ? 明日もここで遊ぶ予定だから、いたら混ぜてやってもいいけどな」

「うん、うん! 絶対遊ぶっ!」


 そう言った時の笑顔は可愛いと思うほどに、綺麗だった。

 男にドキッなんてしてんじゃねーよ俺。


 そして、俺とそいつは名前もちゃんと聞かないまま遊んでいた。

 夏休みがとても楽しく彩られた。


 しかし、終わりは来るもので夏休みの終盤、ソイツと遊ぶことはなくなった。

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