第6話 こんな日も悪くない

 多少驚いたことあったところで、俺の今まで通りの日々は変わらない。

 ――――そう思っていたのに。


 ピンポーン、という突然のチャイムに俺は飛び起きる。

 宅配なら置き配にしているし、そもそも時間指定で午後にしている。


 じゃあ、今のは聞き間違いか? そう思いもう一度眠りに入ろうとすると、またチャイムが鳴る。


 間違いではない、俺は慌てて玄関から出ると。

 そこにはあの美少女転校生がいた。


 長く艶のある髪の毛を靡かせ、大きな瞳を見開いた様子で立っていた。


「あ、あの……失礼かもしれませんが今起きたというわけではないですよね?」


 恐る恐る聞いてくるその姿に、あぁ俺はこの後どう返事すればいいのかと朝の動かない頭で考える。


「いや、今起きましたよ? ――――ってなんでそんな目をする」

「本当に今起きて、学校に間に合うのか不思議です」

「チャイムで起きただけで、本当は起きるのはもっと後だぞ」


 そのことを言うと、本当に大丈夫か? と心配な目をされる。

 やめろ、それ以上は俺が哀れになるだけだ。


「俺が今起きたことはいいから、何の用だ」

「一緒に登校したいなって思ってダメですか?」

「却下」

「なんでですかぁ!」

「登校なんて生徒がいつどこで見てるかわからんだろ」


 俺がそう言うと、しゅんとして顔を下げながら玄関に立ち尽くしていた。


「はぁ、ちょっと時間がかかるぞ」

「――――! はい! 大丈夫ですっ」

「……そんなに行きたいかねぇ」


 一緒に登校するということに俺はあまり魅力を感じない。

 学校に行くのは憂鬱になり、朝からクラスメイトやなんやらに気を遣っているともっと嫌になりそうだ。


 それなのに瀬川は俺なんかと一緒に登校できるというだけで満面の笑みを向けてくる。


 おい、やめろ直視できないし、しようとも思わなくなる。


「言っとくけど、今日だけだからな」

「そうなんですか?」

「当たり前だっ、そんなしょっちゅう一緒に行ってられるか」

「私はしょっちゅうでも構いませんけど」


 そんな言葉をさも当然のように話す。

 恥ずかしくないのか? それとも天然なんだろうか。


 すると、瀬川の耳が赤くなっているのが分かった。

 あぁ、アレだ……段々と恥ずかしさに気づくタイプか。


「まさか一真くんと一緒に登校できる日が来るなんて」

「やめろよ、なんか恥ずかしい」

「どうしてですか? 恥ずかしいですか?」

「高校2年生にもなって、そんな感じなのは恥ずかしいだろ」

「そんな感じとは?」

「やめろ、深堀するな」


 反抗期の息子みたいで嫌だ。

 というか、瀬川の言い方だと俺がずっと人を避けてるみたいな言い方じゃないか。


「大体、朝から一緒に学校へ登校なんてカップルしかやらないんじゃないか?」

「カップル……」

「聞いてるのか?」

「んふぇっ、ふぁいっ!」


 なんだ今のんふぇって……、頬を明らかに赤らめているが俺も赤くなってしまいそうで、必死に風を仰いで防ぐ。


「あっ、あー! もう学校が見えてきましたよっ!」


 話を逸らすかのように、学校を指さしてくる。

 これには俺もびっくりだ、予想以上に学校に着く時間が早い。


「なんでこんなに早いんだ? 歩く速度か?」

「私は歩くのがゆっくりなのでそれはないと思います」

「……じゃあ考えられるのは一つか」

「なんでしょうか?」


 瀬川の歩く速度がゆっくりでもし俺がそのペースに合わせていて、こんなに学校に着くのが早いと感じる。


 その理由は瀬川戸の登校が少なくとも俺には


 だからこそ、早いと感じて驚いた。

 それなら納得がいく。


「あの、一真くん?」

「たまには誰かと登校するというのも悪くはないなという事だ」

「――――っ! そ、それってどういう意味ですかっ!」


 言葉の意味を教えてもらいたく、感情がぴょんぴょんしている瀬川を置いて俺は一定のペースで学校に向かっていく。


 それを後ろから瀬川が追いかけてくる。

 たまにこんな学校の始まりがあってもいいだろう。


「兄さん?」


 俺はその言葉に振り向き、最高になるはずの朝が、一気に反転してしまった。


あとがき

ごめんなさい、深夜に投稿しようとしてましたが、寝てました。

ゆるしてください、あとそんな作者にハートや星、感想、ブクマしてくれるとありがたいです。

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