第5話 転校生と今後について

 俺たちは公園から家に戻ってきた。

 先ほどと変わらない所もあるのだが、全く違うところは瀬川が気分がウキウキになっている所だ。


「さっきからなんでそんなに嬉しそうなんだよ」

「だって、何年振りかに出会えたんですよ?」

「そ、そうか……」

「はい、一真くんは会いたくなかったらしいですけどね」

「そ、そんなことは……」


 男の子だと思ってたし、特別また会いたいと思っていたわけではない。

 嘘をつくべきか……つかないべきか。


 俺が迷っていると、瀬川ははぁっとため息を吐くように口を開く。


「大丈夫です、最初から分かっていましたから」

「分かってた? 何をだ」

「一真くんが私に興味がないという事がです」

「興味がないってわけじゃないんだが……」

「じゃあなんなんですかっ?」


 瀬川は食い気味に俺の言葉に反応する。

 顔を急に近づけられるので、俺は反射的に後ろへ下がる。


 しかし、瀬川はそんな俺を見ても引いたりすることなく真っすぐ目を見ている。


「言っても怒らないか?」

「怒るようなことを言うんですか?」

「いや……もしかしたら怒るかなと」

「じゃあ、とんでもなく酷かったら怒りますね?」


 瀬川に対し、保険をとった言い方になってしまうが、仕方ない。

 ここで平気で嘘をつくようにはなりたくないしな。


「俺は、瀬川が男だと思ってた……前に遊んでた時はな」

「だから、私だけ反応がおかしかったんですね?」

「というより、分からなかったんだ、忘れてたわけじゃない名前も聞いてなかったしな」

「そうですか、ですがよかったです」

「よかった?」


 その言葉が気になり、つい聞き返す。


「忘れられていた方が悲しいですから」

「そっか、そうだよな」

「はい、あの楽しかった日々がまるでなかったように、嘘のようになってしまいますすから」


 瀬川はそう言うと、寂しそうな表情をした後、苦笑いを向けてくる。


「学校ではあまり俺に話しかけるなというか仲良さげにしないでくれると助かる」

「ど、どうしてですかっ?」

「そりゃ、俺みたいなダメな奴と転校生の美少女様が仲良くしてるなんて知られてみろ、周りからどんな目をされるか」

「美少女……じゃなくて、学校じゃだめなんですか……?」


 瀬川はそう言うと、シュンと尻尾が垂れ下がった犬のようになる。

 これに関しては仕方ない。


 俺だって周りの目を気にせずに仲良くしたいさ、それだと瀬川に迷惑がかかる。


「そりゃあ、俺みたいな周りからダメだと言われてる人間と接してたら誰でも……」

「ダメなんかじゃありません! 私が仲良くしたいんですっ!」

「せ、瀬川……」

「――――ッ、ご、ごめんなさいっ、声を荒げてしまって」


 瀬川はそう言うと、再び眉を下げ、シュンとなっている。

 その姿を見て、俺の良心が痛む。


 したくてしているわけではないんだがな。


「せっかくまた会えたのに……仲良くしてはいけないだなんて、あんまりですっ」

「そ、それは、そうだなー」

「それなのに……学校では話しかけるなだなんて」

「話しかけるなとは言っていない、必要以上に接するなと……」

「同じことです」


 プイッと頬を膨らませてムスッとしている瀬川を見て、俺は頭を悩ませた。

 その悩みとこの異様な空気から早く解放されたかったからなのか、とんでもない提案が自分の口から出た。



「――――そのかわり、学校から帰って、この家にだったら、いつでも来たらいい、そしたら昔の様に遊んだり話したりできるだろ」

「い、いいんですかっ?」

「あぁ、別に家だったら困るようなこともないしな」

「それじゃあ、お邪魔させていただきますねっ」


 微笑むようにくしゃりと笑うその表情に俺は見惚れてしまった。

 いや、男子高校生でこの笑顔に見惚れない方がおかしい。


「それでは、また明日、お邪魔いたしました」

「はいよ」


 瀬川は一礼綺麗なお辞儀をしてくる。

 頭が下げられ、つむじが見える。


 瀬川が自分の部屋に帰ったあと、俺はなぜ彼女の自分の家に招き入れるような言葉を言ってしまったのか自分でもわからない。


 後悔しているのか……それとも恥ずかしいと感じているのかはまだわからなく、答えが出るのは時間がかかりそうだ。


 

 


 

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