第4話 転校生は昔遊んでたあの子かもしれない

「ご馳走様でしたー、ふっーお腹いっぱいだ」

「お粗末様でした」


 料理を入れてきたタッパーやお皿を回収し、瀬川はそのままキッチンへ行き、それを洗っている。


「なにか手伝う事あるかー?」

「ううん、大丈夫ですよ、ゆっくりしていてください」

「で、でも……」

「大丈夫ですから、ね?」


 そう言いながら長いロングヘアーが揺れる。

 今は皿洗いをするために髪の毛を縛っている。


 いわゆるポニーテールというやつだ。


「あの……食後で悪いんですけど……このあと散歩でもしませんか?」

「え、今から散歩?」

「はい、だめ……ですかね?」

「ダメというか……」


 うっ、そんなウルっとした目で訴えてくるな。

 本人にはその気はないんだろうが、男はあの目をされたら絶対に要求を呑んでしまう。


「わかった、もう少し休憩してからな」

「はいっ! ありがとうございます」


 もう少し休憩しないとさっき食べた美味しい物がすべて出てしまう気がした。


 それにしてもどうして散歩なんて急にしたがるんだ……。

 まぁ健康とか身体動かしたいとかそんな理由か。


 俺はあまり深く考えずにシューズを履く。


「うっ、日差し強すぎだろ……」

「春なので桜が見えるかもしれませんね」

「桜ねぇ……」

「ほら行きますよっ」


 そう言われて腕を引っ張られる。

 あれ? なんで俺散歩なんか行ってるんだ?


 普段なら絶対に断っているのに。


「あぁ~、公園に桜咲いてますよっ」

「そう……だな」

「綺麗ですねっ」

「そうか? まだ満開ってわけじゃないけど」

「だからいいんですよ」


 そういうもんなのか……。

 俺は満開でないとどこか寂しさを感じてしまう。


「懐かしいなぁ……」

「懐かしい? この公園が?」

「この公園がってわけじゃないけど、この町の公園で遊んだ記憶が蘇ってくるよ」


 この町の公園って……瀬川は東京から引っ越してきたわけだよな。

 東京の前はこの町に住んでたってことか?


「だから一真くんのことも知ってるんですよ」

「は? 何言ってんだよ」


 いきなり何を言い出すんだ、俺と瀬川が前にあっていたなんてことはありえない。

 そう、こんな展開はおかしい、おかしいに決まっている。


 それに、俺の記憶にあるのは公園で遊んだなんて、男子か幼馴染の女の子しかいないぞ……。


 幼馴染の女の子にはフラれたけどってそんなことはどうでもいい。


「嘘つくなよ」

「嘘じゃないですよ、一真くん……いやって言った方がわかりやすいですかね?」


 カズくんこの呼び方に俺は覚えがあった。

 小学生の頃、夏休みくらいになると他の学校の子と一緒に公園や駄菓子屋などで遊んでいた記憶がある。


 その中にいた一人の男の子が俺のことをカズくんと呼んでいた。


「でも、あの子は……男の子じゃ」

「その男の子だと思ってた子が本当は女の子だったとしたら?」

「それは……ありえるかもな」


 瀬川と思い出話をしていると、本当なんだろうと思う。

 本当はそんなことはありえないと断言したいが、現に起こってしまっている。


「仮にだ、お前があの時の男の子だとしてだな……普通、俺のこと覚えてるか?」

「覚えてますよ、ずっとずっと……」

「あぁー! 言いたいこととか聞きたいことが多いな……」

「はいっ、私もですっ」


 くしゃりと胸の内を明かしてすっきりしたのか、迷いのないきらきらとした笑顔を振りまいてきた。


 その正のオーラを振りまいて俺を殺しにかかるのはやめなさい。

 

 このまま公園で話すという事にはならず、一度家に帰ることにした。

 その時の瀬川はなぜかずっとルンルンで距離が近かったのが俺には不思議に思えた。

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