第2話 転校生とダメ兄の家
「ねぇカズくん?」
「なんだよ」
「結婚って知ってる?」
「知ってるよ、好きな人同士がする奴だろ?」
「う、うんそうなんだけどさ、ぼくカズくんと結婚ってのしてみたい」
これは夢か……?
そういえば昔、よく遊んでた男友達が変な質問してきてたよな。
「ば、ばかっ、大人にならねーとその結婚ってやつはできねぇんだぞ」
「じ、じゃあ大人になったら結婚してくれる?」
「そ、それに俺はボンキュッボンのおねーちゃんと結婚するからお前みたいなぺったんこ男とは結婚しないねっ」
我ながら本当にクソガキだったと思う。
昔の俺よ、ボンキュッボンのおねーちゃんどころか、俺と付き合ってくれる女性はいないぞ。
「じ、じゃあ僕がその女でボンキュッボンになったらしてくれるの?」
「そ、そん時は考えてやるよ、ま、まぁ無理だと思うけどな!」
「無理じゃないもん、これからだもんっ」
「これからって……」
◆
そこで夢が覚めた。
あー、学校があと10分で始まる。
それにしても、懐かしい夢だったな。
なぜ今このタイミングでこの夢を見たのかはわからないがきっと何かあるって思うのは都合が良すぎるか。
「あ、おはようございます」
「おはよー」
隣の席の転校生は大勢の生徒に囲まれている。
それなのに、俺が登校すると挨拶を欠かさない。
「毎日、そんなに話しかけられて大変じゃないの?」
「皆さんお優しいですから……」
「ふぅん、そんなもんなのね」
そう言いながらだるそうな目で見ると、苦笑いしていた。
「あ、そうだえっと、瀬川さん」
「はい? なんでしょうか」
「なんで俺の名前知ってたの?」
「え……あ、あの」
「初対面だったのに」
「――――ッ、初対面ですか……」
なんだ? 俺変なこと言ったか?
瀬川は表情が暗くなったが、すぐに笑顔になる。
「それはですね、皆さんが教えてくれました」
「あー、あれだろ、ダメな方の古賀って紹介されたろ」
「皆さん酷いですね、ダメな方なんて……そんなわけないのに」
「いや瀬川さんは俺のことを知らないからだよ」
俺がそう言うと、瀬川さんはますます表情が暗くなるというか、頬が膨らんでいるような……。
「――――知ってますよ」
「え? 何か言った?」
「なんでもないですっ」
そう言いながら、プイっとそっぽ向く。
なんだろう、とんでもなく機嫌を悪くさせてしまった気がする。
「まず、肩の力抜いたら?」
「え?」
「俺と話すときは全然力入れてないのに、他の人と喋るときは固くなってるじゃん表情とか、口調とか」
「そ、そうですかね……?」
「ま、自分では気づけないよな」
俺がそう言うと、彼女はフッと息を吐く。
深呼吸をしているようだ。
「あ、そうだ今日お邪魔してもいいですか?」
「はい? 何言ってるの?」
「いえ、まだちゃんとご挨拶できていなかったなと」
「いや、別にいいよ……この間ので十分」
「ダメですよっ!」
なぜだ、なぜこの子はここまで挨拶をしたがるんだ……。
大きな瞳でまっすぐこちらを見る。
あぁ、何を言っても聞いてもらえない目をしている。
俺はため息を吐きながらオッケーを出した。
「でも周りには内緒ね、何かと面倒だし」
「一真くんに迷惑が掛かるなら隠しておきます」
「そうしてくれると助かる」
お互いのために隠すしかない。
俺の隣なんて知れたら学校で大騒ぎになるだろうし、俺だって無事じゃない可能性が高い。
こんな美少女が隣に住んでたら誰しも羨ましいだろう。
「それじゃあ明日の休みに行きますね」
「はいよ」
転校生の美少女が明日、挨拶に来るのが確定した。
◆
俺の睡眠がインターホンによって邪魔される。
俺の幸せの時間が強制的に終了させられる。
なんだよ、こんな朝早くにと思いながら、モニターを見ると、そこには吹き出しそうになるほどの美少女がいた。
いや待て、このモニターそこまで画質良くないのに……。
とんでもない美少女が転校してきたもんだ……。
整っていない爆発した髪の毛を揺らしながら玄関から出る。
「あ、おはようございま…………す」
「まったく、来るの早すぎるんじゃないか? 何時だと思って……」
俺がくどくどと小さな文句のようなものを言った時すっと顔の前にスマホを出される。
「読み上げてください、今何時ですか?」
「え、えっと……ぷん」
「もっと大きな声で」
冷めた口調で時間を言わされる。
うん、完全に俺が悪い。
だって今の時刻は……。
「12時30分です」
「はいよろしい」
10秒間くらい俺は黙り、口を開こうと思うが、何も言えない状況が続いた。
そのとき瀬川が口を開いた。
「なんか意外な一面って感じがして面白いですね」
「いや、意外過ぎない一面でむしろ面白くないだろ」
「可愛いと面白いがあります」
「そんな事実はないのでやめてください」
冗談っぽく瀬川が言ってくれたおかげで、最悪の空気にならずに済んだ。
「待たせるのも悪いし中に上がる?」
「じゃあ、上がらせてもらいます……お邪魔します」
転校生の美少女が俺の家に足を踏み入れた。
俺が気が気じゃないのは察してほしい。
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