追い詰められた人、苦しい自分、でも捨てられないもの
第16話 デレデレから一転
学校生活は残り数ヶ月という中でも授業が行われ、それが終わって夢くんから呼び出しがあればツクルGに向かい、ゲーム制作を手伝う。
そんな毎日でも疲れなんか全くない、だって夢くんの仕事を手伝えるんだ、気分はウハウハだ。
自分が選んだ“ヒビキ”というキャラは自分と同じく学生で、その中で助けてもらった夢くん似のキャラに一目惚れし、両想いを目指して学校生活を送る一般的な恋愛ゲーム。
他とちょっと違う感じがするのは、その他キャラが全員妨害してくるところだろうか。ヒビキはモテモテで、全員が総攻撃のようにアタックしてくるのでそれを避けながら夢くんを――じゃなくて目的のキャラを目指す。でもプレイヤーによっては他キャラも攻略可能で自由度は高い。
『なんかモテモテなところが日々希みたいだなー』
制作しながら夢くんがそんなことを言っていた。いやいや、モテモテじゃないし。むしろ夢くんだけに好かれていればいいんだよ、と思う。
(あー学校、早く終わらないかな……夢くんに会いたいなぁ……)
教室で机に肘をつき、時計を見上げる。まだまだ終わりは遠くてため息が出る。時計をぶっ壊したい、夢くんの声を聞きたい、あー夢くんかっこいいよな……そんなことを思っていると。
「おーい、何ニヤけてんだよ、日々希」
「これは夢彦さんのことを考えてる顔だ。最近、四六時中こんな顔見かけるけど、これはまたひどいな」
「……あ? なんだよ?」
机で妄想にふけってしまった自分を目の前で見ている二人の視線があった。陽気な男は面白がり、冷静な男はあきれたように目を細めている。
陽平と准はヘラヘラ笑うと「楽しそうだな」と言い、からかってきた。
「日々希、今が一番楽しそうだな。いいなぁ、俺も今さらだけど恋したかった! 大学で頑張るんだ、俺はっ!」
「この三年間、恋人を取っ替え引っ替えという最低行為をしたくせに。成人してもまだ続けるのか、お前は」
今度は二人で言い合いを始めている。こんな光景が見られるのも卒業までのあと数ヶ月、貴重なものだ。からかわれたことなど水に流してやろうと、日々希は携帯を手に取る。
すると画面のランプが点滅していた。
(あ、夢くんだっ)
夢くんからメッセージだ。また仕事の打ち合わせかと思って見てみると。
『日々希にちょっと相談したいことがある。夜は空けておいてくれるとありがたい』
……なんて鼻血が出そうな文面だ!
思わず鼻を押さえると目前の二人が大笑いしていた。
「あははは、日々希! 今のメッセージ、口に出ちゃってるから! いやぁ、お熱いねぇ! 夜の約束じゃん、キャーッ」
「日々希は隠し事苦手だもんな。それにしてもお前も恥ずかしいやつだな」
鼻血出すどころじゃなくて血圧上昇で頭が吹っ飛びそうだ。最近、制作でセリフを読み上げる機会が増えていたから、知らず知らず文を見ると声に出してしまったらしい。
(しまったぁぁぁ、超汚点だぁぁ!)
顔が熱くてたまらない、いやいや二人のことはさておき。あらたまって相談とはなんだろう。朝に家にいたんだなら話せば良かったのに、朝には話しづらいことだったのか。
夜か、夜……ドキドキしてきた。
「あ、そういえばさ、日々希。夢彦さんが付き合ってるっていう人のことなんだけどさ――」
恥ずかしさから一転、陽平の言葉に自分のこめかみがピクッとした。そいつは聞き捨てならない、聞きたくもないけど。
「俺のねぇちゃん、そいつの同級生だったんだって。昨日家でそのことを電話で准と話してたらさ『その名前知ってるー!』ってなって」
なんだと! こんなところにヤローの情報が。やはり二人に相談しておいて正解だ。
「お前も知ってると思うけど、まぁ親は金持ち。性格は悪いけど好きな人には甘え上手……でも気に入ったやつはどんな手段を取ってもモノにしちゃうやつ、なんだと」
「陽平と同じでそいつも最低じゃないか」
准の言葉にうなずくと、陽平は「うっせー」と軽くふてくされたが、続きを話してくれた。
「んでな、鈴城隼汰が当時いじめていた同級生がいんだけど、そいつが高卒後、ゲーム会社に務めていたんだと。
ゲーム会社に務めていた、とは……その話の流れからわかる。そのゲーム会社のことが。
准もわかっていたらしく「ツクルGだったんだよな」と話を促した。
「そうなんだよ。日々希の大好きな夢彦さんのいるツクルG……でも会ったことないし、話も聞かないだろ?」
陽平の問いに日々希はうなずく。その言い方には何かしらの意味を感じる……まさか。
「成海優は一年前に自殺しちゃってるんだよ。ねぇちゃんの話によれば学生の頃から鈴城隼汰にめちゃめちゃいじめられていたらしい。それが偶然にも成海優が務めるツクルGは鈴城隼汰も関わっていた。当然自殺にはそいつが関わってんじゃねぇかってのが、ねぇちゃんの推理だけど」
「まぁ、そうだろうな。当時からいじめてたやつがまたいたんだ。根っから気に食わないってことだろうし、鈴城隼汰自身も性根が腐ったまま変わりないし……再会したらまずいじめられるな」
そうなのか、そんなことが。いつの間にか夢くんにデレデレしていた頭が真剣に物事を考えていた。
その成海優という人は夢くんと何か関係はあったんだろうか。
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