第3話 気になる観客
出会ったのは高校生になってから。同級生の響とユメ。二人は親しい友人として常に一緒に過ごし、楽しい高校生活を送っていた。
ある時からユメに恋人ができた。ユメは有頂天だったが、恋人を優先して響と一緒にいる時間は少なくなった。
響は気づく……自分がそれをさびしいと感じていることを。ユメのことはただの親友と思っていたが、どんな時でも隣にいたユメはそれ以上の存在だった。
でももう遅い、ユメの隣には別の人がいる。
「俺は、俺はっ、ユメのことが大好きなんだ! ユメを、いつかっ! 俺のものにしてみせるぅぅぅ!」
誰もいない学校の屋上で響は叫んだ。恋人がいて幸せな時間を送るユメに、それを伝えてはいけないとわかっている。
でもあきらめきれないから――。
というのが第一話の流れ。実はこのアニメは五話仕立てになっているが他のメンバーの披露もあるので時間の都合上、一話分しか放映できない。
続きが気になる方はDVDに録画してあるのでそちらへ〜というアナウンスがされた後、観客席にいた観客がこぞってDVD購入を挙手したものだから、これまた大変な騒ぎだ。
「日々希、准。予想以上の売れ行きで、この時点で全員に売ったらこの後の客分がなくなるってよー、どうする?」
「それはこの後に観てくれるお客さんに失礼だろうな。後半分は確保しておこう。日々希、いいよな」
「そ、そうだな。っていうか、何枚販売用に用意したんだ?」
「アニメーター科の連中が言うには五百枚はダビングしたらしいけど。なんか観覧してないやつも購入してるらしいからな」
……五百っ! それがもうなくなるっ⁉ 人気が出るのもここまで来ると恐怖を感じる……いや、ありがたいことなんだよな。
とりあえず准に同意。後半のお客さんのためにある程度のDVDを確保し、休憩がてら校内をうろつくことにした。
校内には多くの客がいるが「さっきの演劇科のアニメアフレコよかったなー」という声も聞かれ、嬉しくてこそばゆい感じだ。
「俺、近くに住んでたけど、こんな学祭あるなんて知らなかったよ。そんなにすごいんだな、aBc学園の演劇科って」
階段を登っていた時、背後からそんな話し声がした。どうやら自分達のアフレコの感想がそこらで飛び交っているのを聞いたらしい。
「そうなんすよー、オレが在校してた時から演劇科は結構力入ってましたからねー」
「へー、
「オレの夢はゲーマーなんすけど、募集してたのがたまたまツクルGだっただけなんです、ぶっちゃけね。安月給を除けば良い会社っすけどね」
「ぶっちゃけ過ぎだな」
あははと笑い合う声。内容からすると、どうやらゲーム会社に所属している二人らしい。
ツクルG……聞いたことあるような、ないような。多分メジャーでないけど、マイナーでもない会社だったかも。
(ゲーム会社……)
そこが気になる。自分の大好きなあの人もゲーム会社勤務だから。
そんなわけはないよな、と思いつつ。
「あ、というわけで。その大人気な演劇科のイベントの整理券、コネでゆずってもらったんで、後で行ってみましょーね」
「由真、ちゃんとしたコネなんだろうな?」
「なに疑ってんすか!」
残念だが、そこで後ろの二人は階段から離れてしまったのか会話は途切れた。
だがイベントに参加してくれるようだ。
(ゲーム会社か……声優として力を見せるチャンスになるかも)
よし、と気合いを入れ直し、他クラスの出店でのどに優しいハチミツハーブティーを飲んでから、後半イベントに望むため、戻ってきた。
B教室前に着くと混雑は相変わらず……いや、むしろ客増えた? 整理券をもらった人は入っているが、それ以外の客はなんとか中の声が聞こえないものかと廊下に陣取る人もかなりいる。
見かねた生徒会役員が「他の方の通行ができなくなってしまうので止まらないで下さーい!」と声を上げる姿に、申し訳なく思う。盛況なのはありがたいことだけど、こうなりゃ校内放送した方が良いレベルだったりして。
教室に入り、再びスクリーンの後ろに行くとすでにスタンバイ済みの陽平と准がいた。
「おっかえり、日々希。なんか前半よりすげーな?」
「どうやらただの生徒だけじゃなく、本当にアニメやゲームの制作者もいるらしいぞ。さっきアニメーター科のやつらが話していた」
二人の会話に同意し、日々希は再び深呼吸する。観客席から声優陣が見えないように、こちらからも観客席は見えないが。さっき話していた演劇科のOBらしき人もこの回に来ているのだろうか。
(ゲーム会社か……夢くんが……なんているわけはないよな。というか、いたら大変なことになるじゃん……一生表歩けなくなる)
だってキャラにユメって名前つけちゃってるし。しかもお相手は響だし……昔母親が言っていた。
『あんたの名前、本当は響にしようと思ったんだけど。漢字が面倒かなと思って日々希にしちゃったのよー。でも簡単でしょ?』
……しちゃったのよー、じゃない。確かに簡単だけどさ。
(と、そんなこと考えてる場合じゃない。もう一度成功させるんだ。この後もアンコール回あるんだから)
もう一度。大好きな人への想いを、本気で声に出す。キャラを通じて、届けられないこの気持ちを――。
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