第4-15話 あるエルフの郷の話
その世界には不思議な力をもつ【樹】が存在した。
創造神の賜物か、その【樹】はその土地その土地に生きる種族へ霊験あらたかな恩恵をもたらした。
いつしかその【樹】は
その世界樹の
世界樹から発する
そして【樹】の精霊のそばには自然と二つの相反する属性の精霊も存在した。
まず【光】の精霊である。
【樹】は光を浴びて育まれ成長する。それは光を恵みとして吸収し糧としているという事にほかならない。
そしてもう一霊。【闇】の精霊である。
だがその郷の
【樹】と【光】が相思相愛過ぎたその郷は【闇】の精霊を追い出してしまう。
その結果――。
――【闇】の精霊がいなくなったその郷には『夜』がなくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ゼランのエルフの郷には『夜』が無いと?」
炎の仮面冒険者はゼランからのエルフの郷の現状を説明された。
『そうなんだ』
「『夜』が無いと何が困るの?」
『世界樹の一幹の成長が止まらない。適度な成長から外れてしまえば世界樹全体に
「成長し過ぎても駄目って事か?なんでヤバい事になるのに【闇】の精霊を追い出したんだ?」
『そ、それは……』
ゼランも自分の代で起きた事柄ではなく、返答に戸惑う。
『――揉めたんでしょうね。元々【光】と【闇】ってその霊質からして正反対だもの』
火の精霊を統べる象徴的存在といえるイルフェノが代わりに見解を示す。
『――人間でいう同性――男と男とか女と女とかの場合、精霊の場合は同霊ね?【光】と【闇】の同霊なんて友好的にやれてる方が珍しいわ』
「そうなんだ」
『――更にその郷の場合、おそらく【樹】は異霊だったんでしょうね。男と女と女の組み合わせになれば修羅場は目に見えてるわ』
「要するに【樹】の精霊と【光】の精霊と【闇】の精霊の痴話げんかの結果、ゼランのエルフの郷には『夜』が無いと?」
炎の仮面冒険者はイルフェノの説明から率直な感想を述べた。
ゼランは郷に棲む精霊達の内情を晒され、顔を覆ってしまう。
「じゃあダークエルフは【闇】の精霊と共にエルフの郷を離れた人達の現在の姿って事か?」
『闇の精霊を放っておけなかった守人たちの末裔なんだろう』
ゼランは闇の精霊についていった同胞たちがその髪を金から銀へ、肌を白皙から褐色へ変化させながらも今もなお種族を繋いでいた事に驚く。
「じゃあダークエルフの人達が闇の精霊と一緒に郷に戻りたいと言ったら郷の人達は歓迎するの?」
『俺は構わない。……ただ長老の許可を得る必要がある』
「長老ねぇ。まあとりあえずエルフの郷を見つけ出してからかな?【闇】の精霊にも会いにいかないとだし」
炎の仮面冒険者はまず【闇】の精霊と対峙する事を決断した。
『炎さーん。ダークエルフのジャルナさんが今の拠点に辿り着いたようです』
撮影ドローンから麗水ちゃんの声が。
「その映像、俺達も見れる?」
『海咲ちゃんのタブレット端末で見れるようにしますね』
戦闘用3D-AI海咲ちゃんがどこからかタブレット端末を取り出した。
『――こちらです』
彼女のタブレット端末には確かにダークエルフのジャルナの姿が映っていた。
『これは……』
エルフのゼランが絶句する。
何処かの洞窟だろうか?豊かな暮らしとは程遠いダークエルフの
ジャルナは薄暗い洞窟の中を進んでいく。
洞窟の中は数少ない松明の火で全く見えないという状況を避ける程度の明るさを辛うじて保っていた。
ジャルナは仲間のダークエルフに事情を話す。
宙に浮かぶ撮影ドローンが魔導具と聞かされ、驚く者も。
ジャルナはある部屋の中へ通される。
その部屋の中にいたのは母親と思わしき女性だった。
彼女が大事そうに抱きかかえているのは赤子ではなく黒い球体だった。
「もしかしてあれが【闇】の精霊?」
炎の仮面冒険者はタブレット端末の映像を凝視する。
『――そうみたいね。大分魔力を失ってるみたい。その銀髪の種族を守る為に闇の魔力を分け与え続けた果てね。……凄いわ』
イルフェノの言葉はある種族を守り続けたその精霊への敬意を感じさせた。
『闇の精霊があそこまで力を失っているなんて!!どうすれば元に戻るんだ?火の大精霊よ教えてくれ!!』
ゼランは懇願した。
『――闇の精霊が力を取り戻すには良い闇に包まれる事ね。この階層の闇は良い闇とは言えないわ。瘴気が濃いもの。今、闇を飲み込めば瘴気まで吸い込み、狂い自我を失ってしまうから耐えてるんでしょうね』
闇の精霊は瘴気吸収による狂化で寄り添い続けたダークエルフを傷つけたくないようだ。
ダンジョン内で闇の
「じゃあ解決法ってもしかして?」
炎の仮面冒険者はある答えに辿り着く。
『――このダンジョンから出て地上の闇に紛れる事かしら?』
闇の精霊の日本観光が確定した瞬間だった。
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