第4-14話 ダークエルフのジャルナ

ダンジョン121層――紫の森でダークエルフと【魔族】の戦闘を終わらせた炎の仮面冒険者。



一旦、121層の出発点で待機しているはずのエルフ族のゼランと戦闘用3D-AI海咲ちゃんの元へ戻ろうとするが、ひとりのダークエルフが追いかけてきている事に気づく。


このままだとダーフエルフである彼女とエルフのゼランが鉢合わせてしまう事になるので、飛行帰還を中断し彼女と対話する事にした。



花魁サキュバス・アイウェールに加え、百を超えていそうな【魔族】たち――。



もはや魔王軍と遜色ない集団に対し、銀髪褐色肌の彼女は若干震えていた。




『震えてるじゃん……それでも俺に伝えたい事があるのか?イルフェノ。彼女はなんて?』

『――どうもダークエルフを庇護している【闇】の精霊の力が最近弱ってきているみたい』

『闇の精霊ってイルフェノと同格なのか?』

『――それは対峙してみない事に分からないわね』

『闇の精霊か』




【精霊術師】である炎の仮面冒険者はまだ闇属性の特級精霊・上級精霊とは対峙した経験はなかった。


ダークエルフを庇護してきた闇の精霊との対話もしてみたい気持ちはあるが、今は死期が迫っている綾覇の為に一刻も早くエルフの郷を見つけ出し、エリクサーの原料になりえる樹雫を譲ってもらわないといけなかった。



ダークエルフの彼女の訴えは一旦保留にさせてもらう事にした。



『その闇の精霊は今にも消滅してしまうような状態なのか聞いてくれ』

『――わからないみたい。でも私達にも命を救わないといけない仲間がいるからそれが解決するまで待ってくれない?と伝えてみたわ』



今すぐ力にはなれないと炎の大精霊イルフェノから伝えられた彼女は落胆していた。


それを見た炎は――。




「麗水ちゃん。見てる?」

『はい』



炎の呼びかけに浮遊している撮影ドローンから彼女の声が響く。



「このダークエルフの彼女に撮影ドローン1機あげてもいい?いや念の為2、3機」

『炎さんが必要だと感じたなら構いません』

「ありがとう。じゃあ彼女の元にドローンを」




彼女の元に撮影ドローンがまず一機、接近していく。


初めて見る物体にダークエルフの娘は後退りする。



「これは遠くの光景でも見る事を可能する魔導具なんだ。まずこれで闇の精霊の状態を見させて欲しい。イルフェノ伝言思念を頼む」

『――ちゃんと伝えたわよ』



イルフェノから一種の魔導具である事を伝えられると彼女も興味深そうに撮影ドローンに視線を向ける。



「何か窮地に陥る――また【魔族】との戦闘になるとかその闇の精霊が大変な状況になったらその魔道具に向かって【た・す・け・て】って言ってくれる?」

「【タ・ス・ケ・テ】?」



ダークエルフの彼女はたどたどしくも日本語の4文字を発音した。



「それじゃあ。あ。キミの名前は?」

「……ジャルナ」

「ジャルナか。じゃあまた」



炎の仮面冒険者はジャルナに別れを告げ、再び飛び立った。


ジャルナも更に追いかけてくる様子はなかった。




『なあ?ジャルナって真名なの?』

『――嘘ではなかったわね。多分真名の一部だけ教えたんじゃないかしら?』

『成程。名字だけ名乗った感じか』



善意や悪意に敏感な精霊に対し、偽名を名乗ればもう相手にされなくなってしまうのは彼女も理解している。


全てを明かすというのも躊躇いがあり、一番現実的な対応をしたのであろう。



「炎さん、ダークエルフの彼女を映している撮影ドローンの映像はどうしますか?」


撮影ドローンからの麗水ちゃんの問いに炎は答える。



「いや。一応非公開にしよう。ダークエルフがどんな暮らしをしているのかまで晒すのはよくないかな?」

「了解しました」


ダークエルフちゃんとの別れにコメント欄の視聴者の人達はガッカリしていた。






その後、炎は問題なく121層の出発点に戻るも、エルフのゼランには大量の【魔族】を引き連れて戻ってきた事で驚かれた。



「なあゼランに聞きたい事があるんだけど」



イルフェノに通訳してもらいながらエルフの彼にダークエルフについて聞いてみた。



『ダークエルフ?』



どうも日本人・いや世界中の神話・伝承・物語が表現の都合上『エルフ』と名付けているだけで彼らは自分達の事を【森人・守人もりびと】だと思っているらしい。



なのでゼランそっくりの容姿ながら銀髪で褐色肌の種族と先程遭遇した話をした。



『森の外にそんな種族が……』



ゼランの様子から察するに今の彼の代で何かトラブル起きた気配はない。

そういえばまだ何歳なのか聞いた事がなかったがゼラン自身にはダークエルフへの悪感情はなさそうだった。


これならゼランとジャルナが対峙しても大丈夫なのかなと炎は思った。



なのでポロっとジャルナの事情を話してしまった。



『【闇】の精霊だって!!ホノオ!!!お願いだ!!今すぐその精霊の所へ連れて行ってくれ!!』



ダークエルフという種族にはピンと来ていなかったゼランだったが【闇】の精霊という言葉を聞いた途端、態度が一変した。


「いったいどうしたんだ?」


『私達の郷には【闇】の精霊の存在が必要なんだ!!!』



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