第4-5話 魔族都市踏破開始

原宿ダンジョン120層――。



魔族都市を一望できる岩場の高台に炎の仮面冒険者と焔霊剣皇イルフェノはいた。



「それじゃあ配信もスタートしますか。海咲ちゃんお願い」

『――了解です』



戦闘用3D-AIな彼女が撮影ドローンとダンジョン配信チャンネルをリンクさせ、地上の視聴者への配信が可能となる。



炎の仮面冒険者によるダンジョン配信チャンネル【炎麗黒猫のマスターですがこれを攻略法にされても困りますチャンネル】にてゲリラ配信が開始される。



配信に気づいた視聴者はまだ少ない。




:なんだなんだ?

:またゲリラ配信?

:平日昼間だぞ?



「配信視聴者の皆さん、配信ではお久しぶりです。仮面冒険者――炎です」



炎の仮面冒険者が軽く会釈をする。




:いきなり炎の美女精霊きてるー!!

:その美貌からの男声、本当に脳がバグる

:今日は何でいきなり配信?

:平日昼間じゃ人来ないでしょ?




「配信視聴者としては平日昼間に配信しない方がいいとは思ってるんですけどね。『平日昼間に見に来てるこの人はどういう方なんだろ?』みたいな話になってしまうとお互いあんまりいい感じにならないのを社畜をやめた直後に経験してるので」



:ガチな体験談きた

:お、俺は土日に働かないといけない飲食系の仕事だから!!

:俺だって夜勤明けの社会人だよ!

:ごめん。俺、今仕事してない……色々あって鬱で……

:気にするなよ!誰だって人生に休みが必要な時はある!!

:コメ欄の人達、優しくて(´;ω;`)ウッ…




「今日に関しては本当にゲリラ配信なので。防衛省の人達に怒られるレベルの」




:え?なんかやらかしたん?

:防衛省とズブズブじゃなかったの?



「俺は今日、120層を攻略します」



炎の仮面冒険者の踏破宣言にコメント欄も驚きを隠せない。




:マジか

:【城の主】に挑むのか

:でもなんで?



「大事なクランの仲間の為に奇跡の霊薬エリクサーを探す旅を始めるからです」



:エリクサー探しキターーーーーー!!!

:やっぱりそれって綾覇ちゃんの為なん?

:あるかもわからない霊薬探しの為に無謀なダンジョン踏破とかそりゃ防衛省も怒るか

:病気の女の子の為に命賭けるのすげえよ。アンタ漢だよ




「もしかしたら皆さんが俺の配信を見るのは今日で最後かもしれませんが、【城の主】の情報だけは絶対にこれからの日本の冒険者の為に残すつもりなので応援よろしくお願いします」



:絶対死ぬなよッ!!

:無事に120層踏破してくれ

:もう仮面冒険者――炎の配信が無い配信冒険者界隈なんて考えられねぇよ!絶対生きて帰って来てくれッ!!

:もし撤退したって俺達は失望しないからな!命大事にッ!!




コメント欄からの激励に炎の仮面冒険者は深々と礼をした後、岩場から飛んだ。





     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





炎の仮面冒険者と戦闘用3D-AI海咲ちゃん、そして【花龍の姫】――雅乃鈴、【獅剛】――藤嶌信ふじしまあきらの4人は魔族都市を囲む外壁の門を難なく通過する。



焔霊剣皇イルフェノ直々の頼みという訳でもなくロイヤル・スピリット皇衛精霊に認められた2人・鈴とアキラも同行している。


魔族都市突破の段階でクランマスターが疲弊しないよう露払い役として。



4人の後ろを追うように撮影ドローンが浮遊している。





:なんか全然【魔族】いなくね?

:この前の時は街のそこらじゅうにいたのにな

:あの時はぱっと見でも数千体はいたぞ




コメント欄の視聴者も前回の暴走配信の時とは異なる閑散とした状況を不気味に感じていた。



それは当然【炎麗黒猫】のメンバーも同じだった。




「どうして【魔族】がいないんだ?」

「もしかして城の中に集まっている?」




4人はこの魔族都市の中心部に聳える荘厳な白亜の城に視線を向ける。




「籠城戦だとしたら危険だ。どんな罠が待っているかも分からない」




:城攻めってどうすればいいの?

:現代人に城攻めの知識とかあるわけない

:兵糧攻めとか?

:【魔族】に兵糧攻めとか意味あんの?

:ないだろな。ていうか時間かかり過ぎ

:投石機みたいに城自体にダメージを与えて破壊するしかないのでは?



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】ふむふむ。城自体を破壊と。



:おっと防衛省の人が来たぞ

:配信強制終了きちゃう?



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】そんな事しないですよ。ただ炎さんには日本国ダンジョン法に基づいたダンジョン踏破禁止令が出てるのでこの配信に協力したらボク、防衛省クビかもしれないです



:サラッと爆弾発言来たな

:この配信、ダンジョン法違反配信なの?

:でも踏破禁止令といっても法的拘束力は無いって聞いたぞ

:拘束力はなくてもペナルティーはあるはず

:麗水ちゃんクビになっちゃうの?



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】仲間の女の子の為に命賭けてる冒険者のダンジョン配信、このチャンネルの配信協力者モデレーターであるボクが逃げる訳ないでしょ!!辞表なんていくらでも出してやりますよ!!!



:おおおおお!!

:これぞ配信協力者モデレーターの鑑ッ!!

:ただ激務の防衛省を辞めたいだけだったりして




:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】炎さん、聞こえますかー。麗水ちゃんです。



「え?麗水ちゃんの声?」



撮影ドローンが発せられた彼女の声に炎の仮面冒険者は驚く。



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】コメント欄の皆さんから伝言です。『城ごとぶっ壊せ!!!』だそうでーす!




どうやって城へ潜入し攻めればいいのか悩んでいた炎の仮面冒険者はその言葉を聞いて笑みを浮かべた。



「成程。視聴者さん達のリクエストに応えるのが配信冒険者の務めだよなぁ。海咲ちゃん、雅乃さん、そしてアキラ、此処まで一緒に来てくれてありがとう。今から城に強烈な一撃を与えるから3人はもう119層へ戻れる準備を」



『「「承知しました」」』



クランマスターからの指示に従う3人は一礼しその場を離れた。



『じゃあイルフェノやってくれ』

『――わかったわ』




焔霊剣皇イルフェノの右手から真紅の大剣が顕現し、その焔の大剣は徐々に巨大化していく。




:おおおおお!

:炎の剣がでっかくなってる!!

:マジで城に一撃かますつもりで草

:これが日本最強の冒険者やでぇぇぇぇぇ!!!!




イルフェノは巨大化した真紅の大剣を大上段から振り下ろす。




『――城をひらけ【焔刃溶斬】』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る