第4-2話 踏破禁止令?

原宿ダンジョン【炎麗黒猫】拠点――。


Sランク冒険者などのクランの主要人物や政府関係者が参加する【炎麗黒猫】定期活動報告会&指針検討会にて。



「皆、既に知っての通り、俺は綾覇ちゃんの病気を救えるかもしれない霊薬探しの為にダンジョンの深層へ潜ろうと思う」



猫姿の炎の仮面冒険者がその場にいる者達へ再度自身の方針を伝える。



「クランマスターの方針に口を挟むつもりはないのですが……その……120層のフロアボス――【城の主】に対する勝算はあるんですか?」




女性ソロ冒険者の最強格【花龍の姫】――雅乃鈴は若干目を潤ませている。


死期が迫っている女の子の為とはいえ、マスターに死んで欲しくないのが彼女の本音だった。



「未踏破層はどんなに優れた冒険者にだってリスクはあるよ。でも誰かが道を切り開いて未踏破層にどんなフロアボスがいるのか?どうすれば攻略できるのか?に挑戦しなければ新しい可能性が見えてこない。だったら焔霊剣皇イルフェノと契約している俺が先陣を切るのが一番妥当だと思う」


「だったらせめて120層の魔族都市に私も連れて行ってもらえないでしょうか?マスターがあの城に辿り着く為の【魔族】に対する露払いで構いませんから……」


「それくらいだったらまあ。でも絶対城の中にまで入ってきちゃ駄目だよ?雅乃さん」


「はい……」


「それなら俺にも露払いくらいはさせてください」



Sランク冒険者【獅剛】――藤嶌信ふじしまあきらも露払いを申し出た。


他のSランク冒険者達も魔族都市への興味があるのか続々と名乗りを上げる。




クラン【炎麗黒猫】の主力メンバーによる120層討伐への機運が高まっている最中――。




「待ってください!」



それを制したのは桂城和奏だった。



「桂城さん?」



炎の仮面冒険者はクラン会議では久々に桂城和奏に視線を向けた。



「これは防衛省全体の見解なのですが、今や日本の冒険者の一番手と言える仮面冒険者――炎さんに無謀な踏破をしていただきたくはないのです。本日は防衛大臣――仲弥厳なかやげんがこの原宿ダンジョンに馳せ参じております」


「防衛大臣が?」



これまではあくまで日本政府を形成する各省庁から官僚が派遣されてくる形ではあったが、防衛大臣すわなち政治家自ら【炎麗黒猫】のクラン会議に足を運ぶのは初めてのケースだった。


政治家の介入を想起した冒険者たちは【日本国ダンジョン法】のある項目を思い出す。



「まさかクランマスターに【ダンジョン踏破禁止令】を発動するつもりなのか?」




ダンジョン踏破禁止令――。




国の趨勢にも影響を及ぼしかねない実力者の命を無為に失う事がないよう、政府がその冒険者のダンジョン踏破計画に制限をかける事が可能な法令だ。



暫くして部屋に現れたのは防衛省ダンジョン対策支部局大将野心鬼ともう一人。



紺色のスーツ姿のロマンスグレー白髪初老の男性


しかしその立ち姿はとても初老とは思えない、スーツ越しでも分かる逆三角形で厚みのある肉体の持ち主による威風堂々としたものだった。




「ほぉ。本当に炎の猫の姿をしているとは。私は内閣総理大臣より防衛省の統率を任じられている仲弥厳だ。仮面冒険者――炎殿。これからはよろしく頼む」

「はじめまして。仮面冒険者――炎です。防衛省の大臣自らが来訪なされた用件とは?」


「単刀直入に言おう。君を死なせる訳にはいかんのだよ」

「ですが、何もしなければ大事なクランメンバーの一人が死んでしまいます。そしてそれを悲しむ人も大勢います」


「【魔力心臓疾患者】の彼女の事も勿論聞いている。だがそれは医学に携わる人間が心血を注ぎ解決すべき問題だ」

「現代医学ではまだ解決できない問題と聞いています。彼女を見殺しにする訳にはいきません」


「こちらも君を無謀なダンジョン踏破で見殺しにするわけにはいかんのだよ?君が死んで悲しむ人だって当然いるだろう?」



炎の仮面冒険者は押し黙る。


頭に浮かぶのは『冒険者にだけはなるな』と息子に懇願し続けた両親の事。そしてすぐ傍にいる、兄を喪った彼女の事も。


どちらも主張を曲げる事はない平行線を辿る議論に終止符を打ったのはAIな彼女だった。



「失礼します」

「なんだね君は?」

「ワタシは防衛省ダンジョン対策支部局開発班で開発された戦闘用3D-AIです。今は防衛省を退省し、クラン【炎麗黒猫】に加入させていただいています」


「戦闘用3D-AIが退省?私は初耳だぞ。野心鬼どういう事だ?」

「あー。大臣も御存知の開発者、麗水海咲がですね。高性能な3D-AI作ったら、そのAIが自己判断で防衛省辞めるって言い出しやがったんですよ」


「自分で制御できないAIとか作るんじゃねぇよ……これだから才能を持て余した天才ってヤツは……」



野心鬼も仲弥も呆れ気味だ。



「ワタシの提案を聞いて頂けないでしょうか?」

「どんな提案かね?」

「まずワタシが斥候として120層の魔族都市に潜入し、フロアボス【城の主】の情報を集めてこようと思います」

「海咲ちゃんが?」



戦闘用3D-AI海咲ちゃんの提案に炎の仮面冒険者は面を喰らう。



「はい。ワタシはただの戦闘用3D-AIです。そして【魔族】と闘う為に創られました。これこそワタシのミッション使命なのです」

「ソロでフロアボスに接敵するのは無謀だよ?まずそこまで辿り着けるかどうか」



炎の仮面冒険者は千体以上いた【魔族】の事を思い出す。




「心配しないでください。記憶回路メモリーと思考アルゴリズムを事前にバックアップしておけばたとえ全身を破壊され、失ったとしても私は再起動可能ですから。何度でも挑戦できます」



ワタシは不死身なのです。エッヘンと自慢げに語るAIな彼女。


バックアップ可能と言われてもクランメンバーである彼女を120階層攻略の『駒』としてフェニックスプレイをさせるのは抵抗感があった炎の仮面冒険者はある決断をする。



「わかった。まずは斥候役を海咲ちゃんに任せる。でも一人では行かせない」

「どういう事です?」

「キミとロイヤル・スピリット皇衛精霊と引き合わせる」


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