第4-1話 宣言
女性配信冒険者パーティー【黒猫ハーバリウム】メンバー・綾覇の暴走と言っていいダンジョン配信騒動から数日後。
彼女が無事に保護された事でSNSでは焔霊剣皇イルフェノのその類のない美貌に対する話題の方が勝っていたが、やはりあれだけ世間を騒がせてしまった以上、何も弁解しないというのは許されず、
大手配信冒険者事務所【研能】は『彼女の行動の原因は病気による自暴自棄』と公表し『メンバー綾覇の配信冒険者活動休止』を発表した。
彼女の死期が近い事を伝えられた黒猫視聴者、特に綾覇推しのリスナーは悲嘆に暮れた。
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【綾覇ちゃん】黒猫ハーバリウムpart224【死なないで……】
:名無しのリスナー
綾覇ちゃんがまさか病気だったなんて……
:名無しのリスナー
推しが死ぬかもしれないとか人生初なんだが
:名無しのリスナー
いったい何のために黒猫リスナー有志の【肉壁】隊を作ったんだが
:名無しのリスナー
病気が相手じゃ【肉壁】になれん……
:名無しのリスナー
黒猫リスナーの中に不治の病を治せるお医者様はいらっしゃいませんかー?
:名無しのリスナー
医者だが呼んだか?
:名無しのリスナー
本当に現役医師がいるのかよ
:名無しのリスナー
そもそも俺ら綾覇ちゃんが何の病気なのかまで教えてもらえてないんだが
:名無しのリスナー
そりゃただの視聴者・ファンに病状を伝えたりはしないだろ
:名無しのリスナー
ただの医師の予想にすぎないがダンジョン時代の昨今で不治の病となると十中八九心臓関連だろう。癌細胞すら治癒魔術で快復させられる時代だからな
:名無しのリスナー
お医者様、出来たら
:黒猫の医師
これでいいか?
:名無しのリスナー
心臓なのか?これはリアル『心臓を捧げよ』展開か?
:黒猫の医師
いや心臓移植は不可能だ。人間の心臓が【魔力心臓】に更新されてからただでさえ
:名無しのリスナー
くそ……結局ただのファンは黙って綾覇ちゃんが寿命を迎えるのを待つしかないのかよ
:名無しのリスナー
いや!俺達と綾覇ちゃんはクラン【炎麗黒猫】の仲間だろ!クランメンバーが死にかけてるのに傍観者でいいのかよ!!
:名無しのリスナー
おお。クラン加入がそういう解釈になるとは
:名無しのリスナー
入っててよかった【炎麗黒猫】
:名無しのリスナー
俺、原宿ダンジョンの【炎麗黒猫】の拠点に行ってくる!クランマスターに会ってくる!!
:名無しのリスナー
たしかにあの炎の仮面冒険者が綾覇ちゃんを見捨てる訳ないわな
:名無しのリスナー
それでも炎なら……炎ならなんとか(略
:名無しのリスナー
俺も関西住みでクランにも入ってない黒猫視聴者だけど原宿ダンジョン行くわ。行かないと後悔しそう
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原宿ダンジョンにある【炎麗黒猫】のクラン拠点のエントランスがある51層には綾覇の身を案じた、多くの黒猫視聴者が殺到した。
押し寄せた人々に対して、アナウンスが流れる。
『今回の配信騒動・そしてクランメンバーである綾覇の事でクランマスターから話があります。マスターの言葉を聞きたい方は原宿ダンジョン75層【旧巨人決闘場】への移動をお願いします』
原宿ダンジョン75層――。
ダンジョンコアが破壊されるまでは巨人エリアとして上級冒険者に苦戦を強いた階層だ。
その階層にある【旧巨人決闘場】は人間ならば十万人をも収容できる巨人専用の巨大コロッセオだった。
【黒猫ハーバリウム】を推す事で生活を活力をもらえていた視聴者達がその場に一堂に会する。
コロッセオの賓客席に登場したのは類のない美貌の炎の女帝――焔霊剣皇イルフェノ。
視聴者達は皆、用意された巨大スクリーンに映し出された炎の仮面冒険者の言葉を待つ。
「まだクランに加入してない黒猫視聴者の方も遠方から駆けつけてくれたと聞いています。綾覇ちゃんの現状を知り、居ても立っても居られず今日この場に来てくれた方も【炎麗黒猫】の一員だと俺は思っています。なのでこれを」
コロッセオの上空に浮かぶ炎の雲。
炎の仮面冒険者の言葉、そして炎の雲に視聴者達は沸いた。
まだ幼き火精霊たちが今回駆け付けたクラン未加入の黒猫視聴者と契約を結ぶ。
契約が終わると再び炎の仮面冒険者は口を開く。
「クランメンバーの皆さんにお伝えしないといけない事があります。綾覇ちゃんは【魔力心臓疾患者】です」
【魔力心臓疾患者】という言葉を聞き、取り乱し大声で嘆く者や涙を堪える者も。
炎の仮面冒険者はコロッセオを見渡し【綾覇ちゃんに心臓捧げ隊】という文字が加工されたカラーボードを持つ人達の姿を視認する。
「改めて皆さんに伝えたい事があります。残念ながら世の中には我欲を満たす為なら他人を傷つける事も厭わない人物も存在します。だけどその
じゃあどうやって綾覇ちゃん助けるんだよ!!と野次を飛ばす者も。
「俺はこれから原宿ダンジョンの更に深層へ潜って【奇跡の霊薬――エリクサー】を探します」
エリクサーという言葉に苦笑する者も。
「『このダンジョン時代ならエリクサーも探せばあるやろ』なんて地上から星を掴むような
クランマスター自らの命を賭けた宣言を笑うような者はいなかった。
「俺はそのうち死ぬかもしれないですが、その代わり、地上の事は皆さんにお任せします。精霊のコたちと協力して地上の平穏を守ってください。以上です」
クランの仲間達に地上は任せると伝えると、焔霊剣皇イルフェノの姿の仮面冒険者はその場から去った。
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