第3-28話 主役は遅れてやってくる(いや誰かさんが異常に早いだけ)

魔族都市に潜入するも見つかってしまい、袋小路に追い詰められた綾覇。


死を覚悟し配信終了の操作をしようとしたその刹那。


彼女を囲い込んでいた数十もの【魔族】の紫色の体躯が宙に吹き飛んだ。




「……え?」



予想だにしない場面に直面し、呆然とする綾覇。


それは配信中のコメント欄でも同じだった。




:なんだなんだ?

:何が起きた?

:突然【魔族】が吹き飛んだぞ

:炎が間に合ったのか?

:それなら【魔族】は燃やされるのでは?

:別属性かもよ?

:風精霊で吹き飛ばしたとか?

:確かに風精霊に頼った方が移動し易いし、救援も間に合いそうだ

:綾覇ちゃんの救援、間に合って良かったあぁぁぁぁぁあぁ!!!

:推してるヤツらは本当に良かったな

:自分の推しが【魔族】に嬲られるとか耐えられんわ




コメント欄の予想とは裏腹に綾覇の前、配信画面に登場したのは眼鏡をかけた社会人スーツの女性だった。


その社会人スーツの女性がまともではない事は一目瞭然だった。


何故ならその手に【魔族】の頭部の角を握りしめ、彼女の足元には意識を失っているのか完全にのびている【魔族】が地面に突っ伏していたから。




「あ、貴方は?」



綾覇の問いに彼女はこう答えた。



「【研能】新人マネージャーの一刃いちばです」




:炎じゃないぞ

:新人マネージャーが【魔族】を吹き飛ばしたのか?

:マネージャーでもそんな事出来るのか?配信冒険者事務所ってすげぇんだな

:所属配信冒険者を守るこれぞマネージャーの鑑




訳も分からず吹き飛ばされた【魔族】に加え、騒ぎを聞きつけた【魔族】が新たに加わり、百体以上の集団が生まれる。




:むしろ状況悪化してない?

:やべぇぇぇぇぇ!!!

:やっぱり炎が来ないと無理だぁぁぁぁぁ!!!

:早く来てくれぇぇぇぇ!!!



同族を地に這わせている一刃と名乗る彼女への敵意を膨らませる【魔族】たち。



瘴気を凝縮した呪術による攻撃態勢に入る【魔族】よりも先に動いたのは彼女だった。



『――――ッ!?』



呪術を放とうとしていた【魔族】は何故か自身の紫の体躯が再び宙に浮いている事に気づく。



同様にまたしても訳も分からず吹き飛ばされる【魔族】たち。




『『『『『――――――ッ!!??』』』』』




理解不能な現象が徐々に【魔族】たちに恐れを与えていく。



目の前の人間が危険だと判断した【魔族】は何度も石壁に叩きつけられた体躯をなんとか動かし逃げ出し始める。




:なんかわからんけど【魔族】が吹き飛んでいくぞ

:速すぎて見えないんだけど

:ていうかこの速さ……『師匠』じゃね?

:……

:……

:……

:……

:『師匠』、【研能】に就職したんか?

:一時的な採用かもしれんけど

:【魔族】のからだ、剣にして吹き飛ばしてるのか?

:これが『無刀流』か

:なんでも剣に出来るって事か?




逃げ出す【魔族】もいるものの【剣聖】の恐ろしさをまだ体感していない【魔族】は自身らの縄張りを荒らされて黙ってはおらず尚も増え続ける。



:これだけ吹き飛ばしても全然減らん……

:都市中の【魔族】が集まってくるんじゃないかこれ?

:あんまり時間かけたら【城の主】まで出てくるんじゃね?

:それは見て見たくもある




「流石にこれは場所を変えた方が良さそうですね」



新人マネージャー・一刃も周囲の上空を全包囲されてしまった状況に危機感を覚える。


上空から瘴気を凝縮し呪術を放つ準備をしている【魔族】の数ももはや数えきれない。



「綾覇さん。一旦逃げましょう」



一時撤退を伝えるも綾覇は従おうとしない。



「……嫌。【城の主】が来るまで粘る」



:なんでこの子はこんな風になっちゃったの?

:助けに来てくれた相手にこの態度は何?

:流石に理由聞かせてもらいたいわ



「じゃあ城へ逃げましょう」

「え?」




:まさかのフロアボスの城が逃亡先wwww

:所属配信冒険者の望みを叶えるマネージャーの鑑

:この新人さん仕事できるね!(違う

:【城の主】の時間だ―!!!

:いや流石に『師匠』でも120層フロアボスは無理ゲーじゃね?

:まずどんな相手がわからん事には対策も取りようが無い




『――――――ッ(この場から逃がすと思うか)』



これまでと異なる【魔族】の殺気に一刃は周囲を一瞥する。


それまで石の建造物だったモノは突如高い石壁に変化し、一刃と綾覇はまるで深い井戸の底に閉じ込められたような状況に陥ってしまった。



そしてその井戸に蓋をするかのように【魔族】たちが創り出した禍々しい漆黒の瘴気の呪球。



「これはなかなか……壁も簡単には壊せないようですし」




:アカン。ただ【魔族】を壁に叩きつける映像になってる

:【魔族】を剣代わりにしたのがここでアダに

:でも『師匠』ならきっとなんでも斬れちゃうんでしょ?




一刃は奥の手を出そうとするも、やめた。



「どうやら助けに来てくれたようですよ」




次の瞬間、漆黒の呪球が炎に包まれ、燃え上がり霧散した。



:助け来たの?

:おおおお!!!仮面冒険者炎くるー!?

:ようやく来たのかよ。おせーよ!!

:『師匠』が速すぎる定期



瘴気の呪球が消失し、顕れたのは自然界に存在する森羅万象の中で最も美を極めたといっても過言ではない炎の女帝。


綾覇は焔霊剣皇イルフェノのその類のない美貌に見惚れて言葉が出ない。



「これが炎の大精霊。その真紅の剣で是非手合わせ願いたいものだ」


口角を上げ、そう呟く一刃。





:なにあの炎の美女ぉぉぉぉぉォォォォォォ!!!!

:仮面冒険者炎、性転換TSしたん?

:録画して永久保存版ですわ




配信視聴者も初めて見る焔霊剣皇イルフェノの美貌に沸いた。





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