第3-27話 透魔の消衣≪グラシャラボラス≫

女性配信冒険者パーティー【黒猫ハーバリウム】――人気メンバー綾覇の120層ゲリラ配信は瞬く間にSNS上で拡散された。



≪え?何?なんで120層にいんの?≫

≪そのうち120層のフロアボスに無謀凸するヤツがいるんだろうなとは思ったが……完全に予想外≫

≪【城の主】見れるのか?≫

≪いや彼女の実力じゃ辿り着く前に【魔族】に囲まれて終わりだろ≫

≪【研能】って大手でこんな命知らずなダンジョン配信やらせるような事務所じゃなかったはずなんだが≫





冒険者界隈のみならず黒竜騒ぎで一躍ブレイクした彼女を知る日本国民は少なくない。


SNS上も大混乱となっていた。



配信チャンネル越しに彼女が言葉を紡ぐ。



「今回の配信は私――綾覇の独断であり、配信冒険者事務所【研能】様は全く無関係です。勿論メンバーも知らないです。この配信に関しての責任は全て私にあります」



:綾覇ちゃん戻ってきてくれよおぉぉぉぉぉ!!!

:本当に死んじゃうって!!

:推しに死なれたら俺、明日からどうやって生きていけばいいのよ……



綾覇推しの視聴者からの悲痛な懇願。



「配信冒険者デビュー以来、私の事を応援して下さった皆さんには本当に感謝しています。でも私の事はもう忘れてまた素敵な女の子を推してあげてください」



:忘れられる訳ないって!!

:俺は綾ちゃんの為なら【肉壁】にだってなれるぞ!嘘じゃないぞ!!

:ていうか炎はどこにいるんだよ!?女の子が配信で死ぬところは絶対見たくないんだろ!!お願いだから今すぐ彼女を止めてくれ!!!



「たしかに急がないと炎さんに止められそうですね。では120層の魔族都市へ潜入したいと思います」




彼女が黒竜素材のドレスアーマーを覆い隠すようなフード付きマントを羽織ると彼女の姿が画面から消えた。



:え?何?

:いきなり消えたんだけど

:もしかして認識阻害ローブか?

:ここまではっきり消える事なんてある?

:羽織る前に見えた感じだと【透魔の消衣】か?

:ダンジョン有識者きた



認識阻害効果アリの隠密用マント――【透魔の消衣グラシャラボラス】とは。


そのマントを羽織った者の姿を見事に透明化させる能力から【透明化の能力を持つ悪魔グラシャラボラス】の名を拝借した冒険者アイテムだ。




:【透魔の消衣】ってダンジョンオークションに出したら数億くらいする代物だろ?

:まあCM出演とかしてる彼女なら数億でもキャッシュで買えるか

:すげえマントみたいだけど【魔族】に通用するのか?

:通用する事を願うのみだな。じゃなきゃ命を失う



何も見えなくなったところから突然手が伸び、スマートドローンを掴む。



:ひぇ……

:今の映像、ホラーだったな

:画面真っ暗になった

:【嗚桜真月】どうしたら彼女を止められんだ?

:8大クランマスターも来とる

:【舞雫征英】こんな急展開、北海道からじゃ無理ぃぃぃぃ!!!

:【鳳薫琥おおとりかおるこ】もう炎はんにどうにかしてもらうしかあらへんなぁ……どうかご無事で





   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




原宿ダンジョン119層――。


綾覇の暴走を止める為に既に120層へ繋がる階段に向け、動き出していた炎の仮面冒険者。


『――【炎爆瞬移】』


炎の爆圧による高速移動で階層移動を続けるもそれでも120層への階段に辿り着くのは数分はかかる。


「どうにか間に合ってくれええええぇぇぇぇぇおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」



炎の仮面冒険者は階段への直線距離に存在する、【既に戦意を喪失している】魔物達を後目に救出へと向かう。




   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「ハァハァハァ!!!」



綾覇は息を切らしながら石の建造物で構成された魔族都市を走り続ける。

彼女の背後には数十体の【魔族】が下卑た笑みを浮かべて彼女を追跡していた。




:もうバレてるし……

:救援嫌ってずんずん進むんじゃ隠密潜入になってない

:それに認識阻害と言ってもそこら辺に転がってる石、不用意に蹴っちゃったらバレるわな

:なんで彼女、急に体勢崩したの?

:体調悪いのか?息の仕方も変だぞ?

:とてもじゃないが【城の主】にまで辿り着ける感じじゃない

:囲まれた瞬間、終わりじゃん……



綾覇は狭い路地に入り、何度も右折左折繰り返した先に辿り着いたのは袋小路の行き止まりだった。


彼女の姿を視認した【魔族】が瘴気の暗雲を空へ飛ばし、仲間を呼ぶ。


次々とその場に現れる【魔族】たち。




:オワタ

:俺、女の子がグロい姿になるの耐えられんから落ちるわ……

:俺も……


(所詮私なんかじゃこの程度か……皆ごめん)



獲物をどう嬲ろうか愉悦の笑みを浮かべる【魔族】たちがじりじりと距離を詰める。



「わたしが死に様を直視して嫌な思いをする方も多くいると思うので配信はここで終了させていただきます」



:綾覇ちゃん死なないでくれよぉぉぉ!!!!

:うわあああああああああ;;;;;

:(´;ω;`)ウッ…



綾覇は配信終了の操作をしようとしたその刹那――。




「――どうやら間に合ったようだ。私の兎耳欲がキミの自殺行為を助長してしまったようだからね。決して死なせる訳にはいかない」




その場にいた【魔族】たちが全員その瞬間、斬られ吹き飛んだ。



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