第3-19話 日本最高峰の白魔導士ー【皎雪】

【魔族】の呪いにかけられた人魚と遭遇した翌日。


原宿ダンジョン105層。106層へ繋がる階段前――。



『――本日開催の【人魚ちゃんの呪いを浄化出来るのは自分だ!聖女・白魔導士コンテスト】の待機所はこちらとなっております。挑戦者の方は先着整理券の順にお呼びさせていただきますので待機場に設置されているスライムソファでお寛ぎください』



呪いをかけられた姉の人魚を放置し続ける訳にもいかず、急遽決まったコンテスト(オーディションからコンテスト方式に変更)だが、それでも人魚見たさに集まった聖女職・白魔導士の冒険者の数はなんと2000。



完全先着挑戦制の浄化魔法自慢コンテストは既に始まっており、106層の目的地へは【炎麗黒猫】のSランク冒険者達がエスコート付き添いをしている。




『――水の精霊よ。穢れを祓え!【アクア・ディスペル】!』



106層で人魚の呪いを祓おうとしている冒険者の映像は巨大スクリーンで105層の待機所でも見る事が出来る。


どうやら水精霊使いのBランク冒険者の彼の浄化魔法では解呪出来なかったようだ。



「水の精霊魔法での解呪は無理なのか……」

「もっと上位の精霊ならいけるのかもよ?」



経過を観察している挑戦者たちも真剣にその映像を見て、どうすれば解呪可能なのか議論をしていた。


自身の浄化魔法が通用しなかった彼はがっくり肩を落とし、その場を離れようとするも――。



『本日の御参加、誠にありがとうございました。こちら残念賞となる妹人魚ちゃんのチェキです!!』



その上半身は人間と遜色ない、それどころか息を吞むほどの美貌の人魚のチェキをプレゼントされ、Bランク冒険者の彼は今日此処に来て良かったと思いながら原宿ダンジョンを去った。



炎の仮面冒険者は焔霊剣皇イルフェノに種族間仲介をしてもらい、姉に掛けられた呪いを浄化する為に多くの人間の冒険者を集ってもらう事を告げ、その報酬として【人魚チェキ】の配る事を妹人魚に伝えた。



姉の為ならばと彼女は協力を惜しまなかった。




((((((((((いいな。あのチェキ欲しい……))))))))))




元々人魚ちゃん見たさで集まった聖女・白魔導士軍団なので【人魚チェキ】の効果は抜群だった。


浄化魔法自慢コンテストが続いてる中、105層の待機所はある人物の登場により騒然となる。




「お、おいアレ見ろよ!!」

「あれは【東魔天譴】の嗚桜真月!!」

「いやもっとレアなのはアッチだろ」

「北海道を拠点とする国内8大クラン【祓魔皎雪ふつまきょうせつ】のマスターだッ!!!」


「【天譴】だけじゃなく【皎雪】もいるのかよッ!?」



待機場にいた冒険者たちは【皎雪】の異名を持つ、その男、舞雫征英まえだゆきふさの独特の存在感に言葉を失う。



金髪姿に逞しい肉体、そしてその背には巨大な雷槍。

とにかく目立つ嗚桜真月とも違う異質な容貌――。



――全身が白いのだ。



白髪に白皙の肌、中性的な顔貌。白魔導士としての正装である白いローブを和装にアレンジした召物。その肩には可愛らしい鳥のシマエナガ。



「舞雫。俺より注目されてんぞ」

「東京には滅多に来ないからねぇ。でもまぁ今月2回目の上京だけど」




嗚桜真月、鳳薫琥おおとりかおるこ、舞雫征英ら国内8大クランマスターによる【ダンジョン100層・不死の霊王討伐】は2週間前に無事完遂された。



その踏破映像は大々的に公開され、SNSでもお祭りとなった。



日本国民的にも誰かさんの炎のベビーカー配信事故を忘れたかったようで日本の冒険者界隈を支えて続けてきた功労者たちの100層踏破を真の100層踏破の日として語るようになった。



炎の仮面冒険者としても黒歴史が薄まり、そっちの方が有り難かった。




「いやー。とうとう会えるんだ。あの炎の仮面冒険者に。嬉しいねぇ。でもその前に人魚ちゃんを助けてあげないと」



【皎雪】――舞雫征英は不敵に笑った。



その時だった――。




『おーっと!!東京白十字病院から参戦の治癒看護師さん(Aランク聖女職)の浄化魔法が人魚ちゃんの身体から瘴気の呪いを祓っていくぅーーー!!!!』




待機場の大型スクリーンに紫に浸食されていた人魚の身体が正常の姿へと戻っていく様子が映し出されていた。



姉が【魔族】の呪いから解放された瞬間に感極まった妹人魚が姉に抱きつく。



感動的な光景への拍手、無事解呪出来て良かったという歓声の中にはどこか複雑な感情が混じっていた。




「……俺、北海道から来たんだけど。もう終わりなの?」



あっけないハッピーエンド結末に日本最高峰の白魔導士は肩を震わせていた。



「舞雫……これがあの仮面冒険者だ。アイツは俺達に見せ場なんて用意してくれん。真面目に関わると火傷すんだよ」



嗚桜は先達として炎の仮面冒険者の洗礼を語る。



「日本の冒険者達は皆、俺達の事をレジェンドとして扱ってくれる。……だけどな。アイツからしたら俺達は【大物モブ】なんだ!」

「【大物モブ】……?なにその大盛りの小鉢みたいな中途半端な表現?……」

「俺は【大物モブその1】……お前はその3だ」

「【大物モブその3】……」




これまで生まれ育った北海道で【北の大地の白童】と雷名を轟かせてきた彼にとってモブ扱いは衝撃の体験だった。



「大物づらして颯爽と遅れて登場なんてしたら俺達に出番はないんだよ!」

「別に大物面してこの時間になったわけじゃないからッ!!北海道から駆けつけるのは時間がかかるんだって!!」


「地理的な事情もあるかもしれんが、アイツは俺達、8大クランマスターを特別扱いなんかしない!ちゃんと順番を守れ!整理券を取れ!って言うんだ」

「整理券……それはレジェンドとしてのプライドが……」


「アイツと絡む時は新人冒険者ルーキーだった時の気持ちを思い出せ。じゃないと俺らに見せ場は無い」



北海道最強の冒険者――舞雫征英はよく分からない仮面冒険者の洗礼を受ける事になった。




『本日は人魚ちゃんの窮地に善意で駆けつけてくださった聖女職、白魔導士の冒険者の皆様、誠にありがとうございました。希望者の方は人魚ちゃん達との記念撮影タイムを設けたいと思っていますので整理券の順番が来るまでお待ちください』



待機場では既に浄化魔法自慢コンテストの終了、人魚ちゃんとの懇親会タイムを始めるアナウンスが流れる。



「どうする?折角東京まで来たんだし人魚ちゃんと記念撮影していくだろ?」


全身真っ白な美青年は黙ったまま頷いた。


「そうか。じゃあ整理券取ってくる。記念撮影も一番最後になるだろうな」



嗚桜真月は待機場受付で配られる整理券を取りにその場から離れた。



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(※皎皎きょうきょうたる=白く光り輝く様)


雫(しずく)の音読みはダらしいです。


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