第3-20話 白炎の仮面冒険者

「それじゃあこれが本日最後の記念撮影となりまーす。皆さん笑って笑って」




【魔族】の呪いから解放された人魚姉妹との記念撮影タイムもこれが最終組。




初めて見る人魚姉妹を囲って和気藹々とした雰囲気の中でひとり虚無に近い表情を浮かべる白髪の美青年。


北海道を拠点とする国内8大クラン【祓魔皎雪】のクランマスター・舞雫征英まえだゆきふさは嗚桜真月に指摘され、かろうじてピースをして記念撮影を終えた。




「ねえ嗚桜さん?」

「ん?」

「アレが炎の仮面冒険者なんだよね?」



舞雫征英の視線の先には炎の巨大カメラ。


記念撮影タイムではカメラ姿に変貌していたようだ。




「そうだな。まあ燃えてるカメラなんだから一目瞭然だが」

「ちょっと行ってくる」

「??」

「3時間以上待たされてちゃんと順番も守ったんだ。【御挨拶】くらいさせてもらっていいよね?」

「おい!舞雫!」



嗚桜の制止を振り切り、征英は炎の仮面冒険者の元へ一直線に向かった。



カメラ姿の炎の仮面冒険者も白髪の美青年の存在に気づく。



「仮面冒険者――炎さん。どうも初めまして」

「もしかして【祓魔皎雪】の舞雫征英さんですか?」

「俺の事、知ってるんですか?」

「ええ。嗚桜さんと絡んだりして、クラン【炎麗黒猫】を創る時に国内8大クランの事も勉強しましたから」


「ひとついいですか?」

「なんでしょう?」

「今回の優勝者は東京の治癒看護師さんでした。全国から聖女職や白魔導士を募る必要ありましたか?俺、北海道から来たんですけど」


「北海道から駆けつけてくれたんですね。ありがとうございます。【魔族の地上侵攻】はこの原宿ダンジョンが一番可能性が高いというだけで日本全国のダンジョン何処でもあり得ます。【魔族】の呪いへの対処法は日本全国の冒険者で共有されるべきだと。今回の呪いはAランク聖女職の方にも浄化可能と分かったのは大きい収穫でした。それこそ舞雫さんみたいな日本最高峰の白魔導士じゃないと浄化できなかったら深刻な問題になるところでしたから」



「確かに俺一人しか解呪できないという状況じゃなかったのは助かりますけど。なんつうの?予備対策?事前準備?の為に時間を費やすほど8大クランマスターって暇じゃないんだよ」


炎の仮面冒険者は語気を荒げた彼の背景に極寒の吹雪が吹き荒れてる気がした。



「だから俺も事前準備をひとつ、させてもらいましょうか?」




突如、白髪の美青年の周囲に白雪が激しく舞い、その雪ひとつひとつが神々しく輝きだした。


「――【皎漲の雪達磨】」



光り輝く雪が創り出したのはまさかの雪だるまだった。



「え?なになに?」




炎の仮面冒険者は回避した方がいいのか?と思うも身体が動かない。


焔霊剣皇イルフェノが回避を是としなかったからだ。


炎の仮面冒険者は皎皎たる雪だるまの突進をそのまま受けた。



しかしその雪だるまからの物理的衝撃はなかった。それとは逆に――。




「――なんかいつもとは違う力が漲っている」

『――炎を司る精霊のワタシを別種の魔力で強化しようなんてやるじゃない』



焔霊剣皇イルフェノが仮面冒険者のみに伝わる念を送った。




「これ、もしかして強化魔法バフ?」


「お、おい!炎!お前の姿が!!」



嗚桜真月が驚きながら炎の仮面冒険者に話しかける。


「姿?」


よく見れば紅い炎のカメラ姿だったはずの自分の身体が白炎に変わっていた。



「もしかして俺の全身、真っ白の炎?」

「ふふん。前に映像で【炎の雲】【炎の雪】を見た時から『真っ白にしてやりてぇ』ってずっと思ってたんだ。どう?俺の強化魔法は?」



一躍日本の冒険者の頂に躍り出た仮面冒険者への強化を成功させた日本最高峰の白魔導士――【皎雪】は見事にしてやったりで満足気だ。



『――大自然への敬意が感じられる、温もりある白光の雪の魔力……悪くないわね』

「炎の魔力と雪の魔力って掛け合わせられるの?」

『――ただの氷の結晶体としての雪の魔力だけではなく白い光の魔力の方がメインみたいだから魔力の馴染みも良好よ』



これまでイルフェノの莫大な魔力マナによる火力ゴリ押しでダンジョンを踏破できていた炎の仮面冒険者は初めて超一流の強化魔法を経験した。



「でもなんでいきなり俺に強化魔法を?」



「俺の魔法がアンタを強化出来るのか試しておいた方がいいでしょ?もし【城の主】が階層を上がってくるなんて場合に備えて」



【城の主】という単語が出た瞬間、和やかだった雰囲気が一変する。



「と言っても俺は基本北海道にいるんで気軽にバフも出来ないんだよね。なんだったら今から120層攻略しちゃう?」




征英からの120層攻略の提案に炎は自分だけでは決められないとイルフェノへ念を飛ばす。


『今の強化状態なら120層攻略できる?』

『――魔力強化よりも貴方自身の肉体の状態によるというか……』

『どゆこと?』



イルフェノは若干言葉を濁し、炎はその真意を理解できなった。


『――とりあえず今この瞬間はそれではないわ』



相方にそう言われたので今このタイミングでの120層攻略は保留とした。



「今日120層攻略はまだ無理かな。まだ105層までしか防衛ラインを確立できてないし」

「じゃあ今日俺がいる間にもっと【安全圏確保階層攻略】しちゃいましょうよ。5層分くらいじゃすぐ突破されますよ。もし此処東京で何かあっても北海道からまた駆けつけるのは時間が掛かっちゃうんで!!」



人魚姉妹との記念撮影と炎の仮面冒険者にバフをかけたくらいでは征英は北海道へ帰れなかった。



「その人魚の子達の仲間も【魔族】の呪いをかけられたりしてない?他の階層も別種族が呪いに苦しんでるかもしれないし。もうとにかく俺にも浄化させて!」



新たな階層・初めて見る種族への興味か8大クランマスターとしての矜持かひとりの冒険者として炎の仮面冒険者と一緒に行動してみたいのかそれら全てかもしれないが舞雫征英はやる気満々だった。




「俺も【安全圏確保】に参加させてくれ。東京を守るのが俺のアイデンティティー誇りなんでな」



嗚桜真月も全身全霊を以て【魔族の地上侵攻】を食い止める気概を見せた。



「あと【東魔天譴】の拠点もこのダンジョンに置かせてくんね?」

「それは防衛省の方とも協議してみないといけないでしょうけどまあ認められると思います。【炎麗黒猫】は既に51層-70層を使わせてもらってるんで多分75層より下の階層になると思いますけど」

「……悪いんだけど【炎麗黒猫】より上の階層にしてくんね?」



レジェンド嗚桜さんは見栄を張って大事なクランメンバーたちを危険に晒すような男ではなかった。



「ああもう嗚桜さん!なにビビってんすか?行きますよ【安全圏確保】」




日本最高峰の白魔導士――【皎雪】こと舞雫征英はこのあとめちゃくちゃ浄化した。


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