第3-17話 戦闘用3D-AI―【海咲ちゃん】
原宿ダンジョン71層――。
此処には【魔族の地上侵攻】という非常事態に備え、防衛省ダンジョン対策支部局が開発した対魔物戦闘用3D-AIや素材運搬ロボットなどが有事に備え、運び込まれ保管されているという。
「戦闘用3D-AI?」
「まあロボットみたいなものだと思っていただければ」
麗水ちゃんが本人認証を済ませた後、対魔物大型兵器保管倉庫として魔改造された71層へと入る。
倉庫内にずらりと並ぶ
「おおぉ……」
「ふふん」
童心が甦るような光景に炎の仮面冒険者も感嘆し、それを見た麗水ちゃんは一層ドヤ顔になる。
「AIって事は
「魔物を倒すくらいなら単調な攻撃で済むのでほぼ自動で倒してくれます。ただ【魔族】のような知性ある存在に細かく素早い多段攻撃をされたら対応できないかもしれません」
「そうなんだ」
「ですが今までの戦闘用3D-AIとは一線を画す新3D-AIを今回開発しました!今日が彼女のデビューです!!」
麗水ちゃんが手に持っていたタブレットをいじると倉庫最深部の扉が開いた。
2人とは200メートルは離れている扉から飛び出した白銀のソレは瞬く間に距離を詰めた。
(速いッ!!そして麗水ちゃんに瓜二つ!!!瑠璃色の碧眼とか)
「これが対【魔族】戦闘用3D-AI、その名も【海咲ちゃん】でっす!!!!」
科学者の面影も残した白衣戦士とも呼べる白銀のフォルムの彼女は口を開く。
『火属性魔力を感知……アナタ様が仮面冒険者――炎さんですね』
「そうだよ。はじめまして。【海咲ちゃん】」
そう返すと彼女は突然、片膝をついた。
『炎さん。ワタシをクラン【炎麗黒猫】に入れてもらえますか?』
「「え?」」
AIな彼女の提案に驚いたのは炎だけではなく麗水ちゃんもだった。
「え。ちょっと待って。【海咲ちゃん】。そんな話、ボクも聞いてないんだけどッ!!」
『何故アナタみたいな人に相談する必要が?』
「だって一応ボク、キミの開発者だし……」
『興味本位で無作法に国にとって重要人物である仮面冒険者の正体を突き止めたり、親友の秘密をあっさりバラしてしまうセキュリティガバ出禁女が生みの親とは嘆かわしいです』
「セキュリティガバ出禁女……」
『なので防衛省を辞職させていただき、【炎麗黒猫】でお世話になろうと思います』
「「辞職ッ!?」」
防衛省で開発された戦闘用3D-AIの防衛省辞職発言に2人は驚きを隠せない。
『アナタが防衛省野心鬼対大将に保留にしてもらっている辞表でワタシが退省します。良かったですね』
「あの辞表はそういう使い道する為のモノじゃ……」
『短い間ですがお世話になりました。では炎さん、行きましょう』
「い、行きましょうって何処に?」
『今は【魔族の地上侵攻】を阻止する為、一刻の猶予も許されない状況です。なのでこちらから原宿101層以降の階層を【逆侵攻】すべきと提案させていただきます』
「「【逆侵攻】!!??」」
AIな彼女が導き出した結論に2人は驚愕した。
『原宿101層が【魔族】との主戦場になるのはかなり危険ですし、突破され地上進出を許してしまう可能性が高いです。なので先にこちらから仕掛け、主戦場を下の階層へ押し下げなければいけません』
「成程」
緻密にシミュレートされたであろう提案に炎の仮面冒険者も頷かざるを得ない。
『炎さんは原宿101層-119層をどれほどのパーセンテージで
「隅々まで隈なく探索した訳じゃないから60%くらいかな?」
『では。まずは101層-119層のマッピングをコンプリートしましょう』
「分かった」
『そこの防衛省の方』
「防衛省の方!?もう部外者感出してる!?」
『日本の平穏を守る為です。哨戒用監視ドローンを提供して頂けますでしょうか?』
「ハイ。ヨロコンデテイキョウサセテイタダキマス」
(麗水ちゃんの方がAI口調になってる)
炎の仮面冒険者はAIと人間の優位性の逆転現象を間近で体験する事になる。
(【海咲ちゃん】が配信に登場したらまた視聴者さん達、盛り上がるかな?)
AIと人間の関係性よりも配信の撮れ高が気になる配信中毒者だった。
『では。原宿101層へ行きましょう』
戦闘用3D-AI【海咲ちゃん】は生みの親である天才開発者へ深々と一礼した後、保管倉庫から出て行った。
『何か準備が必要でしたら此処で待機させていただきます』
上層へも下層へも行ける螺旋階段の前でAIな彼女はそう言った。
「防衛省辞めちゃって大丈夫なの?メンテナンスとか?」
『メンテナンスは民間にも対魔物戦闘用3D-AIを開発している企業様がいますのでそちらにお願いします』
「麗水ちゃんの事、好きじゃないの?」
『好きですよ。だからあの人から自立しないといけないんです』
「どういう事?」
『私は【魔族の地上侵攻阻止】を使命に誕生しました。その使命の為なら完全破壊される運命も止む無しと。自身に似せた戦闘用3D-AIが破壊されたとあの人に心を痛めてもらいたくはないのです』
そのような心情を抱けるAIが存在する事に炎の仮面冒険者は驚いた。
『改めて聞きます。炎さん。ワタシをクラン【炎麗黒猫】に入れてもらえますか?』
「そんな話を聞かされたら、歓迎するに決まってるよ。【海咲ちゃん】。ようこそ【炎麗黒猫】へ」
『ありがとうございます』
感謝の言葉を口にしながらAIな彼女は満開の笑顔を咲かせた。あの天才開発者と同じ笑顔を。
(この話、後で麗水ちゃんに伝えちゃお。はっはっは。人間は口が軽いのだよ。ほっこりする良い話は皆で共有するのが人間なのだよ。【海咲ちゃん】)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます