第3-15話 【魔族】の奇行

東京都渋谷区原宿――。


以前は若手冒険者の街だった原宿は炎の仮面冒険者によるダンジョン100層踏破により様変わりしていた。



「こんにちはー!【黒猫ハーバリウム】の碧偉です!」

「清楓だよー!!」

「私たちは今、日本初の100層踏破を達成し、商業施設としてリニューアルされた原宿ダンジョンへ来ています!!」


碧偉と清楓は東京の新名所となった【ダンジョンモール・ハラジュク】を紹介するロケ番組の仕事を引き受けていた。



「見て下さい!1階層は全面フードコートになっています。様々なお料理を楽しむことが出来ます!」

「今一番人気なのは仮面冒険者――炎さんをイメージしたテキーラフランベが話題のメキシカンステーキなんだって!!」


カメラが既に話題のステーキを注文していた番組スタッフが座っているテーブルを映す。


料理人が肉厚のステーキを運び、最後の仕上げとしてテキーラでフランベする。

ステーキをのせた石皿が激しく燃え上がり、周囲の客も歓声をあげる。



「それでは番組スタッフさんに用意していただいたメキシカンステーキを実食したいと思います」

「碧偉ちゃんだけ食べるのずるーい!」

「清楓ちゃんのような未成年者にはテキーラフランベしたステーキはお出しできないようです」

「むぅ」



碧偉は目を輝かせながらフォークでステーキを口元へ運ぶ。



「んんん~~~」



噛めば噛む程、溢れ出す肉汁に碧偉も恍惚の表情を浮かべる。



「お肉がとてもジューシーで美味しいです!サルサバーベキューソースやアボカドバターにチーズ。女性でも食べられるハラペーニョ青唐辛子と色んな味変でもステーキを堪能出来て大満足ですぅ」



(碧偉ちゃん、最近凄く明るくなった。碧偉ちゃんが元気で清楓も嬉しい!!)



楽しそうに食レポを熟す碧偉を見ながら清楓は内心喜んでいた。


海外からの観光客も押し寄せる原宿ダンジョンは大きな賑わいを見せる一方で――。





原宿ダンジョン101層――。


爽やかな草原エリアにクラン【炎麗黒猫】所属のSランク冒険者――【素敵なコミュ障お姉さん?】雅乃鈴と【獅剛】藤嶌信フジシマアキラがいた。





「まさか踏破したはずのダンジョンが緊急警戒ダンジョンになるなんて」

「100層コアが破壊されたダンジョンは【魔族】が上の階層へ進出する可能性があるんだろ?」

「そうみたいね。今まではダンジョンコアが1-100層部分をひとつのダンジョンとして完結させる結界のようなモノを展開していたというのが防衛省ダンジョン対策支部の見解みたい」




炎の仮面冒険者から【魔族の地上進出の危険性】を伝えられ、証言から推察した防衛省の見解はこうだ。



原宿ダンジョンと岡山県の果獣フルーツダンジョンの共通点として――【訪れている冒険者の多さ】が挙げられた。


放置され続けた過疎ダンジョンゆえに大氾濫を引き起こしたN県北部のゴーレムダンジョンには【魔族】の痕跡は見当たらなかった。


ダンジョンの魔物を狩る数が多ければ多い程、ダンジョンコアも魔物をリスポーンする為の瘴気を消費するため、結界の維持の方が年々難しくなっていったのだろうとの事だった。




「ダンジョンコアも無限に魔物を生み出せるって訳じゃないみたいね」

「今度は【魔族】と闘わされるのか。上等だ」

「喧嘩上等みたいな言葉、一般人は使わないわよ?」

「そうか」



夢の一般人を目指すアキラは上等という言葉を封印することにした。






「それにまさか原宿ダンジョンの50-70層のスペースが【炎麗黒猫】の拠点になるなんてな」

「マスターは『ここなら家賃かからないしねぇあはは』と仰ってたわね……」

「あの方は【魔族】の地上進出を阻止する盾になられるつもりなんだろう」

「そんな役回り、マスターひとりに押し付けるつもりはないわよ?」

「同感だ」



鈴もアキラもクランマスターを支える決意を固めた。




すると遠くから悲鳴が聞こえた。



「だ、誰か助けてくれぇ!!!!」



2人の前に現れたのは3人の冒険者。

派手な装備を見れば配信冒険者なのが一目瞭然だった。しかしその自慢の装備がボロボロだ。


101層は【魔族】の存在により、脅威度は増してるものの、魔物の強さ自体はリセットされ配信冒険者でも倒せるレベルだった。



なので新階層に存在する獣人の村などを見つけたいといった配信冒険者が後を絶たない。



「見たところ、【魔族】にやられたか?」

「【魔族】に襲われたのに貴方達、無事だったの?」

「それがアイツら、俺達が持ってた撮影ドローンや配信機材、タブレットPCだけ奪い取ってどっか行っちまったんだ」


「なんですって?」

「どういう事だ?」



【魔族】の奇行に鈴とアキラはただ困惑した。






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