第3-14話 それは全力で否定します

「――【花の執事】よ。魔を斃せ。ブルーメ・フェアヴァルター」




花びらで形作られた燕尾服姿の執事騎士がその花の魔剣で魔物を一刀両断する。


葡萄の爆弾樹魔・ピオーネボムトレントは魔石を遺し、霧散した。




「雅乃さんのその戦い方、配信的に良いと思う!」



炎の烏賊姿を継続している仮面冒険者が彼女を絶賛する。



「本当ですか。マスター!ありがとうございます!」



彼女もクランマスターに褒められ嬉しそうだ。


それに対し、コメント欄は――。



:フラワードラゴンは最高だったんよ

:うんうん

:その後、51層からも花のイケメンの執事騎士に闘わせるっていう姫プレイもこれが元【孤姫】――雅乃鈴かってカンジだった

:そうそう

:でも今は……




:なんで執事騎士の頭がイカ頭になってんだよーー!!!!




そう。少女漫画に登場するようなイケメン執事騎士の姿は今では見る影もなく、イカ頭の執事騎士に変貌していた。



『イケメンは5階層で飽きる』というクランマスター配信中毒者からの指導の賜物だった。



:Sランク冒険者が配信冒険者に毒されていく……

:ガチ勢と配信勢はやっぱ人種が違うんだな

:炎の烏賊と花の烏賊のコラボとか

:でも雅乃さんめっちゃ楽しそうなのよね

:今まで一匹狼でやってきた人が仲間が出来て嬉しくてしゃあない感じ?

:ぼっちあるあるだな

:ここは微笑ましいと見守るべきなんだろう

:美人のあんなに楽しそうな姿も尊いんだな




今2人がいるのは岡山・フルーツダンジョンの56層。


炎の仮面冒険者は烏賊の足を伸ばし、近くの樹林から葡萄をもぎとった。


そしてその葡萄を燃やすと【紫色に燃えた】。



「この階層の果実も食べちゃ駄目らしい」



:その炎で毒鑑定出来るのはどんな原理?

:炎色反応的な?

:悪意は黒く燃えるんだっけ?



「何が原因なんでしょう?」

「その階層に棲む毒特性の魔物に汚染されてるっていう感じでもなさそうだし、このダンジョンのコアになんらかのイレギュラーが起きてる?」



炎の仮面冒険者は不規則氾濫で崩壊寸前だった原宿ダンジョンを思い出す。


あの時のダンジョンコアは【何者かにいじられた】形跡があった。


それを教えてくれたのは焔霊剣皇・イルフェノだった。



:やっぱコアなのか?

:選挙やる前からコア破壊決定な感じ?

:フルーツダンジョン、潰すのはなぁ

:毒で食えないんじゃしゃあない


:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】炎さん、100層のコアルームを目指しますか?ただこのダンジョンの地図情報は82層までしかありません。



「とりあえずダンジョンコアの様子が見たいだけだし、ショートカットしようと思う」




:え?ショートカット?

:それって禁じ手じゃないの?

:たしかダンジョンの壁を破壊したらステータスが全部『1』になるって聞いたぞ

:なにその超絶デバフ



「チェンジ!」



炎の仮面冒険者は初めて訪れるダンジョンという事で大氾濫ダンジョンの時と同じく壌霊槍皇ノワルエに増援要請していた。



炎の烏賊姿だった仮面冒険者は土竜もぐらをモチーフにしたドリルカーへと変貌を遂げる。



:土属性もいけるんか

:まあそうだろ

:土の大精霊に頼めばダンジョンショートカット出来んの?



「じゃあ雅乃さんの俺の中に乗って」



仮面冒険者がそう伝えるとドリルカーのドアが開く。


だが鈴はその場から動こうとしない。



「雅乃さん?」



鈴は頬を紅潮させていた。



「マスター……」

「どうしたの?」

「あの……男の人の体の中に入るというのはエッチじゃないですか?」

「うんそれだと俺は【東魔天譴】の鳴桜さんや防衛省の野心鬼大将とエッチした事になるから全力で否定するね」



:エッチwww

:日本最強の男達とウホッ!!

:薔薇ゴリラ出てくんな!

:孤高のSランク女性冒険者――雅乃鈴さん、初心だった

:間接キスでも照れそうだぞこの美女

:なにこの素敵なコミュ障お姉さん



「でもやっぱり彼女のいる方の身体に入るなんて不貞ですッ!」

「じゃあどうするの?」

「私もモグラカーを用意して後ろからついていきます」

「そう」


「じゃあノワルエ。頼むコアルームまで導いてくれ」


『――承知した』



仮面冒険者はダンジョンの岩壁を掘り進み始めた。


後ろには花びらのモグラカーの鈴。そして更に後ろに複数の撮影ドローンたち。




:ホントにダンジョン、ショートカットできんのかよ

:100層ボスと戦うことなくコアルームに行けるの?

:これは流石にチートズルすぎね?


:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】皆さん色々思う所があるかもしれませんが、この能力が無ければ炎さんはN県北部の大氾濫ダンジョンで死んでいたそうです。


:そうなのか……

:壁抜けできなきゃ死ぬのかよ

:スタンピードダンジョン潰しって100層踏破者でも命懸けか

:今回もわざわざ岡山まで異変調査に来てくれてるんだもんな




『――着いたぞ』



仮面冒険者と鈴は100層コアルームに辿り着いた。


コアルームの扉の先には――。




コアを丸ごと飲み込んだ、大型で丸い軟体生物がいた。




「毒のスライム?」

「いや毒の吉備団子きびだんごか?」



:きびだんごww

:きっちり岡山アピールw

:これぞご当地ダンジョンwww



「雅乃さん。コアを傷つけずにあの吉備団子を討伐して」

「わかりました!【蛍ちゃん】お願い!」



鈴は自身のユニークスキル天稟ではなく、契約している火精霊による攻撃魔法を選択した。


顕れたのは炎の少女だった。


少女は美味しそうに吉備団子スライムにかぶりつく。


瞬く間に全ての吉備団子を食べ尽し、その炎身で燃滅した。


毒の魔物に取り込まれていたダンジョンコアは池袋ダンジョンで見た時と同様の動作に入り、平常運転に戻る。




「その火精霊の事、順調に育ててくれてるんだね」

「はい。マスターに託された子なので」



仮面冒険者は撮影ドローンに視線を移す。



「多分、このフルーツダンジョンの食中毒騒ぎはこれで改善すると思います。経過観察は地元の冒険者ギルドの皆さんに任せます。それでは今日の配信はこれで終了とさせていただきます。ゲリラ配信ながら集まっていただき誠にありがとうございました」



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】本日の配信はこれで終了となります。ご視聴ありがとうございましたー。




配信終了を伝えられ、帰路につこうとした仮面冒険者をイルフェノが引き留める。



『――これ見て』


「なに?」


仮面冒険者は地面に足形がある事に気づく。

明らかに人間のモノではない足形に眉をひそめる。



「――【魔族】か?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る