第3-13話 勝手に人の心を覗いて煽ってはいけません

岡山県果獣フルーツダンジョンの異変調査配信。



岡山伝承の妖怪――『スイトン』の特殊能力に炎の仮面冒険者も鈴も戦慄する。


((心が読めるってヤバくない!?))



2人の意見は一致していた。



以下。炎の仮面冒険者の心の声。


(いやいや炎の仮面冒険者の正体をその妖怪が口走ったらどうすんのよ?本名や住所とか個人情報まで配信に晒されたら俺終わるじゃん。しかも最近桂城さんとあんな事こんな事しちゃったなんて事までバレるかも?ヤバいヤバい)



以下。雅乃鈴の心の声。


(妖怪にマスター好き好き大好きなの暴露されたら私、どうすれば?マスターには彼女さんがいるのよ?略奪愛?そんなの私には無理無理!【蛍ちゃん火精霊】も私に愛想尽かして逃げちゃうわきっと)




「雅乃さん」

「なんでしょうマスター?」

「この50層フロアボスは別々に倒さない?」

「お互いのプライバシーを守るには個別撃破がいいのかもしれませんね」



:一緒にボス部屋入らない感じ?

:心が読める妖怪って正体バレが怖いのか

:じゃあまた配信自粛なん?

:意味不明攻撃に慌てふためく妖怪見たかったわ


:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】視聴者の皆さんには大変申し訳ないのですが色々マズそうな情報が配信流れないようミュート消音にさせていただきます。炎さん、念の為、映像もオフにしておきますか?



「でもそれだと流石に視聴者さん達もつまらないですよね?」



:配信冒険者魂を見せてくれるのか?


:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】視聴者さん達は妖怪は逃げ出すような意味不明攻撃が見たいようです



「妖怪が逃げ出す意味不明な攻撃って何?」



:ガチな返しきた

:俺達も考えろって事か

:久々の大喜利タイムか

:一本足の妖怪なんだろ?炎のイカで『どうだ?俺は10本足だぜマウント』攻撃とか?



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】炎さん。炎のイカで攻撃してみて欲しいそうです。



:嘘?採用された



「炎の烏賊イカ……分かった(そんなんで妖怪逃げるの?)」



炎の仮面冒険者は炎の烏賊に変身した。




「マスター。御武運を……(配信冒険者ってこんな事しないといけないの?)」




炎の烏賊が戦闘態勢に入ったのを認識し50層フロアボス部屋の大扉が地響きとともに開き始めた。


ボス部屋の中にいたのは事前情報通りの全身毛むくじゃらな一本足の妖怪だった。



「クケケケケケケケケ!!!」



炎の烏賊を見た『スイトン』は不快な高笑いをする。それを聞いてイラっとした炎の仮面冒険者は炎の烏賊の胴体から炎の輪を発射した。



「イカリング?」



烏賊の存在は知っていた妖怪だがイカリングという単語は知らなかったのか反応が遅れ、炎の輪に拘束される。




「もうお前はいつでも燃やし尽くせる。生き延びたいなら逃げるんだな」



心を読める『スイトン』は炎の仮面冒険者から本気の殺気を感じた。


何がキッカケで正体がバレたりするのか気が気でない炎の仮面冒険者は短期決着の手段として――。




――もう妖怪を脅して逃げ回らせる事にした。



:おお。妖怪が逃げてるぞ

:まさかのイカ作戦成功なの?

:もしかして俺って天才?

:いやなんか……意味不明で混乱してるってカンジじゃないような




ボス部屋を逃げ回った一本足の妖怪は役目を終えて全身が燃えだし、姿を消した。


討伐を認識したボス部屋の出口の扉が開く。




「いやぁ。炎のイカ作戦、成功したみたいです。色んな作戦を試さずに済んだのは視聴者さん達のおかげです」



あっけらかんとそうコメントした仮面冒険者。



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】ははは……



あの人は追い込まれると手段を選ばないタイプだという事を知った麗水ちゃんであった。





30分程のフロアボスリスポーンタイムを待った後、次は鈴の50層フロアボス戦の番となった。




:元【孤姫】(※新呼称募集中さん)の戦闘シーンを見るの初めてだな

:そういえばかなり貴重かも

:女性ソロ冒険者の最強格だもんな


:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】あのー。鈴さん?



「どうしたの?」



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】出来たら穏やかな倒し方で



「穏やかな?分かったわ」



鈴は自身の懐から香水瓶を取り出した。ボス部屋の大扉が地響きとともに開く。


部屋に足を踏み入れたと同時に鈴は香水瓶から地面へ一滴、桃色の雫を垂らす。


するとボス部屋の地面一面に一瞬にして花畑が広がった。




:これがSランク冒険者――雅乃鈴の戦い方なのか?

:花畑で魔物を倒すの?

:なにか特殊効果が?



(穏やかな?戦い方って言われたからとりあえず【絶従花域】を展開してみたけど、この後どうしようかしら?)



鈴は目の前にいる一本足の妖怪を注視する。



「クケケケケケケケケ!!!」



(うわぁ……気味の悪い声)



「クケケケケケケケケ!!!――【ぼっちプリンセス】!【ぼっちプリンセス】!キャハハハハ!!!」



『スイトン』は彼女の地雷を踏んだ。



「……コイツ●●ス。――出てきなさい【花の龍】」



花畑から顕れたのは花弁はなびらで形作られた龍だった。




:おおー!!すっげぇ

:なにこれ?フラワードラゴン??

:Sランク冒険者やっべぇぇぇ!!!



その花弁の全てが竜鱗と変わらぬ鋭さを持つ花の龍は一瞬で一本足の妖怪を喰いちぎった。


ボス討伐を認識したボス部屋の出口の扉が開く。




:すげえモン見れた

:≪¥1,000≫これはスパチャするわ

:≪¥3,000≫俺も俺も

:新呼称は【花龍の姫】か?



コメント欄は大盛り上がりだが一人だけ心底震えている人物がいた。



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】結局人の心なんて読めない方が幸せなのかも……



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