第3-11話 テレビにツッコミたくなる時もあるよねという話

東京港区某所。高級セキュリティマンション――。




あの黒竜騒ぎから知名度が飛躍的に向上した【黒猫ハーバリウム】のメンバーも実家暮らしだった碧偉を除いて厳重なセキュリティー対策がなされた部屋で暮らすように事務所から促された。


龍美と清楓で一部屋。もう一部屋は綾覇が一人暮らししていたのだが――。





「ふぅ。気持ちよかったです」




シャワーを浴び、自身の桃色の髪の毛を乾かし終えた碧偉が綾覇のいるリビングへ戻ってきた。



綾覇ちゃん。突然押し掛けちゃってごめんね」

「気にしなくていいよ。碧ちゃんに頼られるの嬉しいし」



彼女碧偉の笑顔を見ると何故か心が跳ねてしまう自分は百合属性なのかもしれないと真剣に考えてしまう綾覇だが、このなんとも形容しがたい気分は墓場まで持っていくつもりのようだ。



髪色に合わせた可愛らしいピンク色の部屋着を着ている碧偉とは対照的にシンプルなタンクトップとレギンスで済ませている綾覇。


気が向いたらいつでも負荷トレーニングが出来るような格好を選んだ結果だった。




なにか碧偉と話す話題でもあればと綾覇は普段はあまりつけないテレビをつけた。



住み始める前から設置されていた大型テレビではCMが流れていた。




満天の星空の下でキャンプをしている家族の姿が映し出されていた。


焚き火を囲んで会話に花を咲かせる家族の光景。




  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





   『――この星空の下。家族みんなで最高の週末を――』




  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




そのCMを見た綾覇と碧偉は――。



「炎さんのCM、また人間じゃなかったね」

「焚き火役でしたね……炎の猫の焚き火って誇大広告にならないんでしょうか?」

「キャンプ場のPRCMじゃないみたいだし」



前回のダンジョン配信でのグランピング施設化された猫耳村を見た大手キャンプ用品メーカーが炎の仮面冒険者にオファーを出したようだ。


そのCMで炎の仮面冒険者は焚き火役として出演していた。



綾覇はチャンネルを変えた。



このチャンネルではどうやら人気ゲームタイトルのe-sports大会の模様が放送されていた。



そしてCMに入る。




   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『――シリーズ史上最高のスケールで贈る、日本が誇る名作ファンタジーRPGの新作。全世界解禁まであと7日!!』




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「あの炎の宮殿。CGじゃなくて炎さんなんだよね?」

「みたいですね。あの炎の宮殿を普通に歩いてる勇者役の有名な役者さんが燃えてないんで」

「CGより迫力ある映像になってるっていう」

「元々存在がCGみたいな人ですし」




綾覇はまたもチャンネルを変える。



今度は料理番組のようだ。有名チェーン店の人気料理を★持ちの一流料理人がジャッジすると言う趣旨の番組だった。



最終ジャッジの前にCMに入る。




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『――これが最新の冷蔵庫ッ!?卵をゆで卵やオムライスに自動調理してくれる新機能搭載!!』



『――今後も冷蔵庫の進化に俺も目が離せないですねby某家電冒険者Hさん』



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「とうとう加熱調理する冷蔵庫出てきたッ!?」

「炎さん、冷蔵庫界隈の皆さんと和解出来たんですね。良かったです」

「和解できたならなんで匿名アルファベットなの!?」

「和解出来たのは一部家電メーカーだけなのかも?」

「複雑ぅ!!」



「とにかくチャンネル変えても変えても炎さんのCMばっかなんだけど!!」



本来そんなキャラではないのだが、これには綾覇もツッコまずにいられない。



「ねー。炎さん凄いですねー。色んな姿になんでも変身できちゃうのが業界ウケ抜群だって【研能】のスタッフさんも言ってました」


「それにしてもCM多すぎじゃない?」



今が自身のメディア需要のピークと判断した炎の仮面冒険者は頂いたCMオファーを片っ端から受ける事にしたのだ。


企業から頂いた契約金は全てクランに属する少年少女への奨学金基金にプールするという方針も社会貢献になると企業のステータス向上に大きく寄与していた。



一躍、時の人となった炎の仮面冒険者により【黒猫ハーバリウム】への注目度もやや霞んでしまっているのも事実だった。



それでも【今日本で一番人気がある女性配信冒険者パーティー】というポジションを失う心配は不要で最近ではガールズファッションショーのランウェイを綾覇・碧偉・龍美・清楓の4人で歩く事が出来たのも綾覇にとって【生涯大切な想い出】となった。





綾覇にはクラン【炎麗黒猫】を創立してからずっと気になっている事がひとつあった。


その疑問を碧偉にぶつけた。



「炎さんってなんで私たちには火の精霊と契約させないままなんだと思う?」

「うーん。わからないです。でもそのうち契約させてくれるかもしれませんよ?」



碧偉は炎の仮面冒険者から尋ねられた言葉を思い出す。



『――綾覇ちゃんや龍美ちゃんから何かに悩んでるとか相談された事ある?』



「とにかく私たち自身がもっと強くならないと精霊さん達を紹介されても分不相応だと逃げられちゃうのかも?」

「分不相応……」



冒険者としての力不足を指摘されたら現状Bランク程度の実力の自分に反論の余地などなかった。



「私たちは一度死にかけたので炎さん的にも無理はさせたくないのかもしれないですね。ほら女性冒険者は絶対死なせたくない人ですから」


「死なせたくない……」



綾覇は突然険しい表情で自身の寝室へと歩き出した。



「綾ちゃん?」

「ごめん。ちょっと気分が悪くなっちゃって……もう寝るね。碧ちゃんはそっちの部屋のベッドを使ってね。おやすみ」

「おやすみなさい……」




綾覇は寝室のベッドに飛び込んだ。

そして充電中だったスマートフォンを乱暴に手繰り寄せた。

スマホをタップし、SNSである単語を検索する。




――【120層】【城の主】と。



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