第2-20話 桂城和奏の来訪
東京都内のどこにでもあるようなマンションの一室で2人の男女がテーブル越しに向かい合っている。
甘い逢瀬とは程遠い重苦しい雰囲気が部屋に漂っていた。
先に口を開いたのは男の方だった。
「どうやって俺に辿り着いたんですか?」
警戒混じりのその言葉に桂城和奏はビクリとカラダを揺らす。
「あのですね……海咲が防衛省権限を使ってダンジョン配信サイトと接触し炎さんが女性配信冒険者パーティーを救ってる動画を全てアクセス解析してしまってそこから共通する閲覧端末情報を見つけ出しその端末の契約者まで勝手に調べてしまったんです」
「
男は頭を抱えそうになる。
「あの子、炎さんの事になると歯止めが利かなくなっちゃう時があって……」
「ずっと陰のまま助け続けるつもりだったから端末情報の偽装なんて考えてなかったです。ドラマとかである海外サーバーを経由して~みたいなヤツですか?まあただの元社畜にそんな事できるノウハウもないんですけど。って事はプロのハッカーとかがその気になれば俺の正体突き止められるって事ですよね?」
「海咲が炎さんの端末情報は全て抹消してダミーデータも用意したみたいなので今後誰かに端末情報から正体を掴まれる心配は無いと思います」
「……それ麗水ちゃんに感謝すべき話なんですかね?」
男は若干呆れ気味にため息をつく。正直ドン引き案件だが悪意ある第三者に端末情報を突き止められ、もっと酷い展開もありえたのを彼女が未然に防いでくれたともいえる。
「という事はもう防衛省の皆さんは俺の正体を知ってるって事ですか?」
「いえ。海咲はまだ私にしか打ち明けてないと言ってました」
「なんで桂城さんにだけ?」
「それは……」
和奏は目を泳がせながら言い淀む。
泳いだ視線がもうひとつの部屋の異質さを察知する。
訪問者など来ないだろうと開きっぱなしになっていたドアから見える隣の部屋には大量のモニター画面が配置されていた。
その光景から炎の仮面冒険者が陰ながらに女性配信冒険者を救い続けてきた1年間が容易に想像できた。
「ずっとひとりで女性配信冒険者を助け続けてきたんですね……」
「ええ。まあ。でも
楽し気に精霊話をするも炎の仮面冒険者は自虐を混ぜる。
「いえ、そんな事は……海咲は精霊が視れるスコープを創って、精霊が視える人達と視えない人達の壁をなくしたいって言ってました。そういった事にこそ研究開発の意義があると」
「麗水ちゃんも凄い開発者で良いコだとは思うんですけどねぇ……」
だからといって国家権力行使して正体突き止めてくるのは何度も言うがドン引きだ。
「それで結局、麗水ちゃんから伝えられ俺の素性を知った桂城さんは俺に何かして欲しい事があって会いに来たんですよね?はっきり教えてもらえませんか?」
警戒の色が消えたわけではない男の冷めた口調に和奏は唐突に目を潤ませる。
「あ?え?すいません。別に泣かせたいわけじゃなくて……」
慌てる仮面冒険者に対し、和奏はテーブルから離れ、フローリングに両膝をつき、頭を床に擦り付ける。端的に言えば土下座だ。
「……お願いです。私の事を救っていただけないでしょうか?」
「それはいったいどういう事ですか?」
「炎さんも7年前のN県で起きた大氾濫は覚えてますよね?」
「それは勿論」
今から遡る事7年前――。
ダンジョン誕生から
――
N県北部に存在する過疎ダンジョンにて夏を本格的に迎えそうな7月下旬、突如として地上へ魔物が溢れ出したのだ。
逃げ惑う人々に襲いかかる岩や土、そして樹の
過疎化が進んでいた地域だったとはいえ、その死傷者は数万人を超え、N県北部は今も危険魔物区域として一般人が足を踏み入れる事を許さない土地となったままだった。
日本史上最悪の魔物災害として今も多くの人々の心に癒える事のない深い傷を残している。
後にダンジョン有識者はN県北部のダンジョンで日本最初の大氾濫が起きた理由として――。
そのダンジョンが【ゴーレムダンジョン】だった事を挙げている。
土や岩、樹や鉄などの金属で構成された頑丈な巨体は、冒険者が討伐するには骨が折れ、かといって土や岩では魔物素材として現金化もしづらく【割に合わない不人気過疎ダンジョンを放置しすぎてしまった事】が第一原因だった事を政府も正式発表した。
政府は再発防止策として全国各地の有力クランと連携してのゴーレムの間引きの徹底などを掲げた――。
「――当時防衛省に勤めていた私の兄はあのスタンピードで市民の方々を避難させる為、押し寄せる魔物の群れと戦い続け……命を落としました」
彼女の涙の告白に炎の仮面冒険者は言葉を失う。
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