第2-18話 ダンジョン歌枠・後編

吉祥寺ダンジョン34層にて開催された【ダンジョン歌枠】も佳境を迎える。


レアアイテムを湖に投げ捨てられ、激怒した巨大な亀湖のヌシが姿を現す。



:すげえでっかい亀が出てきたぁぁぁぁぁぁ!!!

:吉祥寺34層にこんなハイド隠れボスがいるなんて聞いてない!

:威理ちゃん本当に逃げてぇぇえぇぇぇぇええ!!!!



深緑色の巨大な亀の出現に威理も驚きつつも歌うのをやめようとはしなかった。


それどころか炎の刃で迎撃する為、彼女は歌う。


しかし巨大亀には火精霊で強化された彼女の【歌斬】スキルであっても通用しなかった。



:全然効いてねぇ……

:そりゃあの甲羅には魔法耐性もあるからな

:だから貴重なレアアイテムになるわけで

:逃げて逃げてー!!

:これはレアアイテム投げ捨てた配信中毒者がなんとかしろよ



『――もしなにかあっても俺が死なせないから』



これがクランマスターによる自作自演とは知らない彼女は歌う事をやめない。


そんな彼女の前に真紅の大剣と巨大亀の頭部へと続く氷の階段が顕現する。



『――俺が力を貸すから』



(私が勝負を決めろッって事ですねマスター!!!)



彼女はマイクスティックを左手に持ち換え、真紅の大剣を右手で掴み、氷の階段を駆け上げる。

階段を駆け上がりながら最後の一節まで歌いきった彼女は飛んだ。

紅のマイクスティックを上空へと放り投げ、大剣を両手で握りしめ、全身全霊を込めて振り下ろした。




「ハアアアアアアアアアアアアァアァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!」



彼女が振り下ろした真紅の大剣は巨大亀を左右に分断した。

真っ二つにされてしまった湖のヌシは絶命した。

宙に浮く真紅の大剣により彼女も浮遊状態を保っている。


これが【ダンジョン歌枠】のラストシーンとなった。



:威理ちゃんヤバ

:相変わらず通販番組も驚きの切れ味よね。あの真紅の大剣

:クラマスの自作自演がなければ純粋に感動してたわ

:なんだかんだ凄い画で見応えあったから視聴者数30万超えかい


:≪¥1,000≫ 十分楽しめた気がするからちょっとした気持ちだけ

:≪¥500≫ じゃあ俺も少しだけど


投げ銭タイムが終わる頃には炎の仮面冒険者も威理ももう湖から離れた場所に移動していた。


「これで今回の【ダンジョン歌枠】は終了となります。御視聴ありがとうございました」



炎は〆の挨拶を始める。



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】炎さーん。今回の最高同時接続数は約34万人でしたよー。スパチャも結構いただけたのでその御礼もお願いします。


「34万人……?」


威理は伝えられた視聴者数が想定の倍以上だった事に驚く。


それだけの人達が私の歌を聴いてくれた――。威理の胸にこみ上げてくる何かがあった。



「投げ銭ありがとうございます。大事に使わせていただきます。今日登場した威理ちゃんは今後歌手として自分の配信チャンネルを始めると思いますけどもし良かったら聴きに行ってあげて下さい」



:えー。このチャンネルにはもう威理ちゃん登場しないの?

:またそのうち2回目の【ダンジョン歌枠】やってくれ!


:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】視聴者の皆さんはまた【ダンジョン歌枠】やって欲しいみたいですよー。



「マスター!私またダンジョン歌枠やりたいですッ!!」

「え?」


内心は歌手志望の子に注目の機会をあげてその後はダンジョンに潜る事なく歌手活動に専念してもらうつもりだった炎は威理の反応に戸惑う。



「いやあダンジョン歌枠って危ないし……」



:それおまいう?

:レアアイテム投げ捨てて危険に晒したのはどこのどいつだよ

:威理ちゃんに謝れー!



:【防衛省の麗水(よす)ちゃん】炎さーん。レアアイテム投げ捨てに皆さんご立腹みたいですー。



「申し訳ありませんでした。反省します。でも君が歌いたい時に毎回俺が一緒にいれる訳じゃないからさ」



『――心配ならワタシの皇衛精霊眷属と彼女を引き合わせようかしら?』


「え?」


焔霊剣皇イルフェノの提案に仮面冒険者は驚く。


『彼女をロイヤル・スピリット皇衛精霊と契約させるってマジ?』


仮面冒険者は念話で焔霊剣皇と会話をする。



『――彼女の歌、ワタシも好きよ。野心があって情熱的。見ていて小気味よいしね』

『黒猫の子たちにはそんな事言わなかったのに』

『――あの娘たちは心に抱えている靄が晴れない限り、特級精霊と引き合わせても上手くいかないと思うわ』

『そうか……俺はあの子たちも十分見込みがあると思ってたんだけど』

『――あの中で一番幼い娘は今すぐにでも皇衛精霊と契約できるけどあの娘だけってわけにはいかないでしょ?』

『成程』


仮面冒険者は納得した。



「??炎さんどうしたんですか?」

「ああ。ごめん。ちょっと考え事してた。えーと俺が社会人時代に配信者さんの歌で頭のリフレッシュをしたり癒されたり元気づけられた経験があるので今回歌枠をやらせてもらいました。これからも歌枠を続けるようなら目標があります」



:なんだなんだ?



「目標は視聴者の皆さんの心に残って何十年後も配信者さんたちが歌い継いでくれるような曲を作る事です。自分の中では一曲創れれば大成功です」



:清々しい一発屋狙い

:カラオケとか配信者に歌われ続けるような曲を創れれば印税ドパドパじゃね?

:配信者が歌うとその作曲者はどのくらいの利益になるんだろ?




「なので彼女に歌ってみて欲しいという曲がありましたらプロアマ問わず楽曲募集させていただきます」



:名曲創るぞッ!からの外注宣言w

:一番肝心な部分を丸投げw

:ダメだこのポンコツプロデューサー

:まあ冒険者が曲創るより音楽の才能ある人に頼んだ方が理に適ってるか




こうして第1回【ダンジョン歌枠】は作曲者募集の告知後、幕を閉じた。




______________________________________



【歌姫系冒険者】威理ちゃんがイルフェノに気に入られ、ロイヤル・スピリット皇衛精霊との契約者第一号に。


クラン加入前はEランク程度の実力だった彼女は精霊契約により【ぼっプリ】さんに次ぐ強さを得て女性組の若手エース格に。


主人公が他クランの有力冒険者への興味が薄い理由がこれです。

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