第2-13話 精霊と極道 後編

廃倉庫の入り口にいたのは炎の毛並みを揺らめかせた猫だった。


その姿を見て葛田をはじめとする藤嶌組の人間たちは驚愕する。



「な、なんで炎の仮面冒険者が此処に居やがるッ!?」

「なんでって。この火精霊に『助けに来て』と呼ばれたんで」



炎の仮面冒険者の傍にはほのかに光る火球があった。




「お前……助けを呼びにいってくれてたのか」



アキラは今この瞬間の光景に形容しがたい感情がこみ上げてくる。



「そこのアキラさんは【炎麗黒猫】のクランメンバーなんで連れて帰ってもいいですか?」

「いいわけねぇだろぉ!!コイツはなぁ藤嶌組の人間なんだよ!!」

「この火精霊からはもう組を抜ける挨拶はしたって聞いてるんですけど。そしたら襲われたって」

「精霊の言う事なんか知るかぁッ!!襲われただぁ!?これはな俺らなりのケジメなんだよ!!」

「ケジメって多分、もう2時間以上は殴る蹴るされてますよね?もう十分でしょ?」

「十分かどうかは俺らが決めんだよッ!!部外者のお前じゃねえ!!」

「じゃあまだ集団暴行続けるんですね?」

「集団暴行とは聞き捨て悪ぃな。ケジメだケジメだ」



「やめてくれないようなんで防衛省の知り合いに連絡しますね」

「おいおい。ちょっと待てよ」

「通報されたら不味い事でもあるんですか?」

「あるわけねえだろ!うぜぇからてめえはさっさと帰れッ!!」

「じゃあアキラさんを連れてきますんで」

「ああもう。分かったよ。さっさとどっか行けッ!!!」



炎の猫はアキラに近寄る。



「大丈夫ですか?」

「ああ。なんとか。助かった」



仮面冒険者の背後からその様子を見ていた葛田は不気味に口角を上げている。



「ああ。そうだ。やっぱり此処で何が起きたか第三者の方に把握してもらわないといけない気がしてきました」

「何を言ってる?」

「あとで揉める事になったらお互い嫌でしょ?」

「揉める?」


葛田は心の中で舌打ちした。


Sランク冒険者のアキラが藤嶌組の組員だった事、それを知ってる日本初の100層踏破者が自分のクランにアキラを受け入れる事をSNS・メディア・週刊誌で大体的な祭りにしてやろうと画策していたのだ。




「という訳で防衛省の職員さん、撮影ドローンの録画映像を警視庁へ送ってください」

「なっ!?」


撮影ドローンという言葉に葛田たちは動揺し、周囲を見渡す。


「あ、あれだ!」


廃倉庫の天井付近にたしかに1体の撮影ドローンが浮遊し現場の一部始終を撮影していた。


「は、破壊しろッ!!」



ヤクザの一人が攻撃魔法を詠唱し、撮影ドローンに向けて火の矢を放つ。

しかし放たれた火の矢はドローンに命中する前に霧散した。



「き、消えた?……」

炎の仮面冒険者の前で火魔法を使ってもほぼ無効化されますよ。あ。別属性の魔法も無効化できます」

「化け物がッ!」



『――防衛省の者ですが銃で撃ち落とすとか考えない方がいいですよー。警視庁の組織犯罪対策課マル暴さんがガサ入れできるチャンスを虎視眈々と狙ってるので』



自分達の行動で組にガサが入るとなったらどんな落とし前未来が待ってるか背筋が凍った葛田たちは観念した。



「お前ら、ずらかるぞ」


葛田たちは足早に廃倉庫から立ち去ろうとする。

炎はそんな葛田たちに釘を刺す。


「あとでアキラさんに報復とか考えないでくださいね」

「ハッ!さあどうだろな?」



そう吐き捨てた葛田たちの首筋が突然紅く光る。



「お、おい!なんだこりゃッ!!??」


『――愚か者たちよ。よく聞きなさい。ワタシは焔霊剣皇イルフェノ=レガーフリート。その霊印は【炎麗黒猫】への害意が引き金となってあなたたちを燃やし尽くすものよ。死にたくなければわかるわね?』



炎の仮面冒険者とは異なる女帝らしき威容の声に葛田たちは恐怖した。

この大精霊は俺達を平気で処すと。精霊に人間が作ったのりなど関係ない。


首筋の紅光にパニック状態に陥った葛田たちは廃倉庫から逃げていった。




「終わったか。こんな夜中にありがとね麗水よすちゃん」


『――いえいえ。防衛省は炎さんへの全面バックアップを約束していますので。ただ防衛省の研究施設に炎さんがやってきたのは驚きました』


「連絡手段がないからね。あはは……」


『――連絡手段……無い事は無いんですけど。まあそれっぽいの考えておきますね』


「??」


彼女の言葉にひっかかりを感じつつも炎の猫はアキラに向けて水色の燐光を顕現させる。

すると傷だらけだったはずのアキラの身体から傷が消えていった。



「……回復魔法まで使えるんだな」

「水の精霊のコのおかげですけどね」


仮面冒険者はアキラに問う。


「……Sランク冒険者のあなただったらいくらでも反撃出来たのになんでそこまでボロボロになりながら我慢したんですか?いやまあ最後はぶん殴ろうとしてましたけど」

「……あんたのクランに入りたかったからだ」

「どうして【炎麗黒猫】にそこまで拘るんですか?」

「あんたの下で冒険者をしたいと思ったからだ。暴力とは違う圧倒的な【優しい強さ】をあんたは持ってる。見ての通り暴力なんざ痛いだけなんだよ」


「そうですか。じゃあ二日後、【研能】のオフィスで待ってますね」



その言葉にアキラは呆気に取られる。



「いいのかよ?俺が【炎麗黒猫】が入って?俺の過去がアンタの足を引っ張るかもしれないぞ?」

「これからは真面目に冒険者したいんですよね?」

「ああ。勿論だ。あんたが契約してる大精霊に誓う。俺にもあの霊印を施してもらって構わない」

「いや別にアキラさんはそんな事しなくて――」


突然アキラの首筋に紅光の印が施された。



「おい。イルフェノ」


『――本人がつけて欲しいっていうんだから別にいいじゃない?念の為。それに嬉しそうよ?』


たしかにアキラはその紅光の霊印を手を当てながら顔が綻んでいた。


「それ嬉しがるような代物じゃないだけどなぁ」



これが後に【炎麗黒猫】の男性組【トリエグル琥珀】のリーダー格となる男と炎の仮面冒険者との出会いだった。





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【炎麗黒猫】のクランマスターの左腕となる人物――元極道さんです。


次回予告!【ぼっちプリンセス】と元極道さんが初対面!

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