第2-14話 【孤姫】と【獅剛】

東京港区某所――。大手配信冒険者事務所【研能】オフィス。3階第一会議室。


オーディション会議の時とは異なり、学校の講義室のイメージで長机が整然と並べられていた。


炎の仮面冒険者が率いるクラン【炎麗黒猫】に応募したSランク冒険者たちの顔合わせが本日此処で行われる。




会議室には既に7人のSランク冒険者が待機していた。

【炎麗黒猫】に加入したSランク冒険者は総勢12人。



集合時間の10分前にひとりの美女冒険者が会議室へと入ってきた。



「【孤姫】――雅乃鈴だぞ」

「本当にこのクランに【孤姫】が入るのかよ」

「いったいどんな心変わりだ?」


「……おはようございます」


鈴は素っ気なくそう挨拶すると一番奥の窓際の机に着席する。周囲の視線を無視するかのように窓の外を見やる。


(もう。私の事はほっときなさいよ。とりあえずこの中に私より格上の冒険者はいないみたいね)




すると今度はひとりの大男が会議室に入ってきた。

その巨躯による存在感に周囲はざわつく。


「【獅剛】のアキラだ!」

「ソロ冒険者の最強格きた」

「たしかにクラン総会に来てた噂があったけど本当だったとは」


「……よろしく」



アキラも一番奥の机を目指す。鈴の隣の机を選ぶ。



「なあここいいか?」

「どうぞ」


(【獅剛】のアキラ。名前は聞いてたけど会うのは初めてね。その威圧感流石ね。【獅剛】と呼ばれるだけあってその顔、ライオンみたいで怖いわ。めっちゃ怖いぃぃぃぃ!!!!!)


鈴は内心震えていた。



会議室の一番奥を陣取った2人。


それを見たSランク冒険者たちは。



「【孤姫】に【獅剛】か。あのふたりが実質このクランの最強格だな。マスターはもう除外するとして」


(【悲報】炎さん、強すぎてハブられてる。強さゆえの孤高!強さゆえのぼっち!大丈夫!マスターの事はぼっち仲間のわたしが絶対にひとりにしないからッ!)



そう心に誓う鈴だった。



「【孤姫】が女性組【炎麗黒猫・バステト】の実質リーダーになるんじゃないか?」


(ちょっと待って。コミュ障に何を押し付けてるのよ?なんで【孤姫】って呼ばれてる人間にリーダーが務まると思うのよ?)


一見興味ないふりをしながら窓の外を見続けるも冒険者達の話が気になって仕方ない鈴だった。





時間が近づくとともに既にSランク冒険者たちは一堂に会し、その後予定時間と同時に会議室に入ってきたのは透明な球体ケースの中に入った炎の猫。



生で初めて見る仮面冒険者――炎の姿にSランク冒険者たちも息を吞む。



「皆さん初めまして。仮面冒険者――炎です。Sランク冒険者たる皆さんがこのクラン【炎麗黒猫】に集まってくれた事、深く感謝します」



クランマスターの挨拶に一際感激していたのはやはり【孤姫】――雅乃鈴だった。



(逢えたッ!炎さんに逢えたッ!!はっ!?ミーハー気分を表に出しちゃ駄目よ私。今こそ【孤姫】らしさ全開でいかないと)



「――役者は揃ったみたいね。始めましょ」

(何を?ここから【炎麗黒猫おれたち】の伝説の始まりだぜぇ!!みたいな?)


「そうですね。まずは皆さんに自己紹介してもらいましょうか?冒険者としてのスキル権能とかは繊細な情報ですから自分に出来る範囲の自己紹介で構わないです」


「じゃあ私から」(自己紹介タイムの待ち時間大嫌いだから先手必勝ッ!!)


「Sランク冒険者――雅乃鈴よ。最近流行りの戦闘指標で言わせて貰うと『S300』ってところかしら?レイでいいわ。よろしく」



『S300』というワードに周囲のSランカーたちも感嘆する。


「おおッ!防衛省大将と同等の戦闘能力とは!」

「率先して動くその姿勢、やはり女性組【バステト】の実質リーダーは【孤姫】だな」


(だからあなた、私を勝手にリーダーにしないでってば)



「じゃあ次は俺。Sランク冒険者のユーリだ。北海道でソロやってたんだけどこのクランに入りたくて上京したんだ。冒険者クラスは――」



順番にSランク冒険者の自己紹介が進んでいく。


(やっぱり皆ソロ冒険者だった人達みたいね。これならわたしも馴染めるかも)


鈴はなんとかこのクランでやっていけそうだと安心していた。



「じゃあ最後にアキラさん挨拶を」

「……Sランク冒険者のアキラだ。冒険者界隈じゃ【獅剛】とも呼ばれてる。よろしく頼む」


立って一礼した後、アキラは再び椅子に座る。




「皆さんあとで知って動揺されて騒ぎになるのもアレなんで今この場で言っておきますね。アキラさん。元極道さんです」



元極道という言葉に室内がざわついた。



「そ、そう。変わった経歴なのね」



鈴は澄ました表情でそう返した。だが内心は――。




(ちょっとぉ!!!どういう事ッ!?なんで極道さんがいるのぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!初めてのクランメンバーに極道さんがいるとかぼっちからしたらハードルの高さがタワマン超えてるうううううぅぅぅううううぅぅ!!!!!)




「アキラさんに逮捕歴はありません。ずっとダンジョンに潜り続けていたホワイト極道さんです」


「そう。ホワイトさんなのね」

(極道さんにホワイトとかそんな色概念あるの!?じゃあ血みどろの抗争の時はレッド極道さんなのぉぉぉおおおおおおおおお!!??)



「アキラさん凄いんですよ。組を抜けて【炎麗黒猫】に入る為に2時間近く殴る蹴るに耐え続けたんですよ?Sランク冒険者の皆さんなら確実に撃退しますよね?」


「そうね」

(そんなヤツら、はっ倒すに決まってるじゃないッ!!!)




「皆さん、それぞれ思う所はあるかもしれないですけど一度アキラさんの【夢】を聞いてあげてくれませんか?」



アキラは再び立ち上がり、口を開く。



「俺は冒険者孤児だった。成り行きで藤嶌組ってところのオヤジに拾われ、Sランク冒険者に育て上げられた。この世界にはそんな人生を背負うしょうガキもいるんだ。それだけは知っていて欲しい。俺はこのクランでそういったガキ達を拾い上げてやりてぇ。だからこのクランに入りたくて組から足を洗った」



(あら。案外真面目な人。見た目で判断は良くないわね)


「素敵な夢だと思うわ」


そう返した鈴に対してアキラは一瞬驚きの表情を見せる。


「そんな風に言ってくれるヤツがいるんだな。感謝する」


「どういたしまして」(でもやっぱり顔はめっちゃ怖いぃぃぃぃ!!)




「このクラン――【炎麗黒猫】の場合はアキラさんみたいな人を受け入れないといけないと思っています。それがこのクランの方針です。合わないと思ったらクランを脱退されても構いません。いざ入ってみないとわからない事もあるでしょうし。クランマスターとしてSランク冒険者の皆さんに提示できるメリットは【未踏破層へ挑戦したい場合の100層踏破者の同行権】になります」




【100層踏破者の同行権】という言葉提示にその場にいる冒険者たちは驚く。




「私はクランマスターの方針に全面的に従います」

(だって私、炎さんの全肯定オタクってヤツですからッ!同行権ってもうそれダンジョンデートじゃない?)


鈴は既にダンジョンデートという言葉に心が沸き立っていた。


【孤姫】の毅然とした態度に冒険者として魅力的な提示を受け、アキラのクラン加入に異を唱える者はいなかった。



「皆さん同様、アキラさんも火精霊のコと問題なく契約できています。危険人物だったら俺もクラン加入を認めません。それにアキラさんは炎の大精霊による霊印を受け入れました。首筋にあるヤツです。もし万が一、皆さんが何かされそうになった場合、その炎の霊印が発動します。命を懸けた誓約です。」



アキラは自身の首筋に刻まれた紅印を撫でてみせる。



「覚悟を決めてるのね」



(この人なんで首筋に発火装置つけられて心なしか嬉しそうなの?契りを破ればボスに命を奪われる。それが極道クオリティなの!?)



一般冒険者ピーポーには理解できずドン引きしている鈴とは裏腹にこれまで鈴の左肩あたりに浮かんでいた火精霊がアキラの首筋へと近づいていく。



(え?【蛍ちゃん】??)


鈴がそう名付けた火精霊はアキラの首筋のあたりで嬉しそうに明滅を繰り返す。



(【蛍ちゃん】、強面極道さんがタイプ好きなのッ!?)



鈴はその日一番の衝撃を受けた。



______________________________________



この話では2話かけたシリアス回がただのフリになってしまいます。


※火精霊【蛍ちゃん】はただ焔霊剣皇イルフェノの霊印が気になっただけです。

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