第2-12話 精霊と極道 前編

俺の名前は藤嶌信ふじしまあきら



『【獅剛】のアキラ』として名が通っているソロのSランク冒険者だ。



2日後、加入したクラン【炎麗黒猫】のSランク冒険者の顔合わせがある。



その前に俺にはケジメをつけなきゃいけねぇ事があった。



――血の繋がりなんてなかったガキを拾って育ててくれたオヤジとの決別だ。



俺の本当の父親は冒険者ギャンブラーだった。



クラブの綺麗な姉ちゃんを口説く為に毎日ダンジョンに潜った。そして結婚して俺が生まれた。



だが魔物に喰われてあっさり死んだ。



父親が死んで豪遊できなくなった母親は邪魔になった俺を捨てた。



冒険者孤児を集めた養護施設のあの沈んだ雰囲気が吐き気がするほど嫌だったから俺は繁華街で仕事を探した。



中学生ガキでも大人と遜色ないガタイだった俺は年齢を偽っても全く疑問を持たれる事がなかった。



いや今思い返せば年齢の事なんてとっくにバレてて行き場のないガキをいいように使い潰してやろうと思われてたのかもしんねぇ。



そんな時だった。オヤジに会ったのは――。




『お前、そんなとこにいたら潰れるぞ?ワシんとこに来い』




連れてかれたのは東京都内にある壮大な日本屋敷。



関東でも五指に入る反社会的組織――藤嶌組の拠点だった。



その屋敷の敷居に足を踏み入れたその日から俺はヤクザもんだ。



ただヤクザもダンジョンが誕生してからはそれを【シノギ】にしている組も多い。

銀行口座もまともに作れない世界だ。違法行為ヤバイ事やって捕まるよりは魔物と戦って稼いだ方が生き易いからな。



オヤジは俺に『お前、ダンジョンに潜れ』と言い放った。

父親をダンジョンで喪ってる俺がそう言われた時は騙されたと思った。


だが藤嶌組の【ダンジョンシノギ】のマニュアルは凄まじかった。

どうすればダンジョンで稼げるかを研究し尽くしたといっても過言ではないマニュアルだった。


そのダンジョンマニュアルが俺をSランク冒険者にまで押し上げた。



元々オヤジはダンジョンが誕生してから【真贋の眼】というスキルを得たらしい。



裏切りなんて日常茶飯事の世界で


誰が味方

誰が


を見極め、寝首を掻かれる事無く生きてきた。



俺がSランク冒険者まで登りつめられる事はなんとなくわかってたようだ。




ダンジョンで稼ぎ続けた俺には犯罪歴が無い。


オヤジは『お前に違法行為汚れ仕事は無理だ』と言い続けた。


それがオヤジなりの俺への愛だと思っている。


オヤジへの恩義もあるし清廉潔白なSランカーを演じながら組の為にダンジョンで稼ぎ続ける人生だと思っていた。




――あの炎の仮面冒険者の存在を知るまでは。



動物だの家電だのふざけた姿・ふざけた戦い方でS級魔物を蹂躙してみせる圧倒的な強さに俺は素直に興奮した。



だが俺が衝撃を受けたのはその力の使い方だった。



切羽詰まった少年少女ガキたちを全員クランに入れて金出して面倒を見るだと?



Sランクっていう冠が冒険者の頂点だと思っていたが本物の頂点の生き様を見せつけられた。



カラダの墨なんかより一生消えない信念の一閃を俺はこの胸に刻みつけられた。



そしたら俺が命を懸けてダンジョンで稼いだ金が酒、賭け、女――と組のヤツらの遊ぶ金に消えるのが耐えられなくなった。



気づけば【炎麗黒猫】のクランメンバー募集に応募していた。



これが俺のやりたかった事なんだ。きっと。





犯罪歴はなくても【炎麗黒猫】の加入試験は一か八かの賭けだった。



目の前で仄かに光る炎を手を伸ばせ。【危険人物は黒く燃えるぞ】と言われた時は柄にもなく手が震えた。



俺の存在意義人生が全否定されそうで怖かった。




俺は加入試験に合格できた。俺の肩にはたまに光る火精霊。



火精霊そいつと一緒に俺は今、壮大な日本屋敷の門の前にいる。




通された大広間には数十人近い組員。俺の正面には白髭の老丈夫。



「オヤジ。すまねえ……組を抜けてぇ」

「あの仮面冒険者のクランに入るらしいのぅ。達者でな」

「いいのか?」

「元々お前さんに極道は向いてなかったからのぅ。Sランク冒険者とやり合うつもりはない。ワシはな?」



オヤジの言葉を受けて、組の幹部たちが俺の前に立つ。



「よぉ。アキラ。ちょっと面貸せや?最後なんだ。いいだろ?」

葛田くずた……」




――東京都内某所廃倉庫。




「ははははははッ!!!Sランク冒険者様はいくら殴ろうが蹴ろうがビクともしねぇな!!!」



この廃倉庫に着いてからもうどのくらいだろうか?俺はただただ葛田たちからの暴行に頭部だけは守りながら耐えている。



葛田や組の若いヤツらの憂さ晴らしが終われば晴れて普通の冒険者になれる。



……なんて甘い考えはしてないが今はコイツらの気が収まるまで耐えるしかない。



いつの間にか俺の肩にいた火精霊あいつがいなくなっている。そりゃこんな場面見たくないか。



気づけば葛田たちの方が息が上がっている。

少なくとも1時間以上は身体を動かし続けたんだ。当然だ。ダンジョンで鍛えろ。



「どうだ?気が済んだか?」

「テメェ……テメェのそういうところがずっと気にくわなかったんだよッ!!オヤジの寵愛を受けて違法行為汚れはしねぇ!!Sランクの冠で金も女も思いのままだッ!」

「金に関しては稼ぎの半分以上組に上納してきたんだが。オヤジは嫌がってるヤツに違法行為汚れはさせねぇ」

「ああそうさ。俺は自分からやった。お前みたいに冒険者で稼げるわけじゃなかったからな。組で成り上がる為になんでもやった!」

「そうして組の幹部になったんだ。だったら俺みたいな邪魔者は消えた方が都合が良いだろ?」

「お前にはこれからもダンジョンで稼いで俺達に貢いでもらわねえと困るんだよッ!!」


「それが嫌になったから組を抜けんだろうがッ!!!」



限界がきた俺は立ち上がり、葛田たちを怒気を飛ばした。



「帰らせてもらうぞ」

「10年以上極道で生きてきたお前が冒険者でやっていけるわけねぇだろ!!【獅剛】のアキラが実は藤嶌組の稼ぎ頭だったなんて社会が知ったらどうなるかな!!」

「葛田ァッ!!!」



俺は怒りに我を忘れ、葛田の顔面を殴りつけようとしたその瞬間――。



「駄目ですよ。殴っちゃ?【炎麗黒猫】のクランメンバーでいたいなら我慢してください」



その声に俺は全身が固まった。まさか?どうして?




配信越しに聞いただけの声がした方へ振り返ると、そこには炎の猫がいた。


______________________________________



何故か突然任侠話が始まるこの話。


炎の仮面冒険者、知らないところで極道さんに心酔されてた。


ボケツッコミのない真面目回になってしまったので前編・後編まとめて更新させていただきます。

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