第2-6話 襲来!防衛省の天才開発者(属性:プラチナブロンド)


東京都港区某所――。大手配信冒険者事務所【研能】オフィス。1階ゲストルーム。



午前10時頃――。

炎の猫姿の仮面冒険者と野河南月は革のソファに座り約束の時間を待っていた。




「今日は防衛省の桂城さんとの面会ですよね?何か新しい政府依頼でしょうか?」

「桂城和奏さんから聞いた話だと炎さんに会わせたい、会いたいと言ってきかない人がいてその方を今日連れてくるらしいですよ」


仮面冒険者からの問いに南月はそう返す。


「会わせたい人?」

「私も詳しい事はわかりません」


待っているとゲストルームのドアが開き、スーツ姿の桂城和奏が現れた。



「お待たせしてすいません。本日は貴重な時間を作っていただき感謝しています」

「それで今日はいったいどんなご用件で?」

「本日は炎さんに会いたくて会いたくて仕方ないといった人間を連れてきました。ほら入って」


和奏がドアの向こうへそう言い放つと、部屋に入ってきたのは――。



まずその白銀の髪が目に入り、そのビスクドール白磁人形のような肌の白さに驚かされ、瑠璃色の碧眼による流し目には誰もが陶酔させられてしまうような美貌の女性だった。

白衣姿のその美女は炎の猫を視認した瞬間、神秘的なイメージから一転、満開の桜のように破顔した。



「うっわあぁああぁ!!!ホンモノだぁぁぁ!!!!」



突然少年のような好奇心に満ち溢れた瞳で距離を詰めてくる白衣の美女に炎の仮面冒険者も戸惑いを隠せない。



「こら、海咲みさき!初対面でがっつかないの!炎さんに失礼でしょ!」


和奏は海咲という名の美女を窘めるも彼女の興奮は醒めない。



「えー。だってもうボクの頭の中、炎の仮面冒険者さんの事でいっぱいなんだもん」

「とにかく自己紹介しなさいッ!」

「はーい。ボクの名前は麗水よす・レオメル・海咲。防衛省ダンジョン対策支部局開発班に所属してる科学者でっす」

「仮面冒険者――炎です」


何故か一人称が『ボク』の美女からの自己紹介に戸惑うものの、炎の仮面冒険者は挨拶を返す。


「炎さんって多分ボク達より年上だよね?だから『麗水ちゃん』って呼んでね?ああ、和奏とは防衛省のほぼ同期なんだ」

「防衛省の開発者の方なんですね」

「そうそう。あ!それでも炎さんにお礼を言わなきゃいけないんだった!ありがとー!!!」


突然礼を言われても何が何やらな炎の仮面冒険者に海咲は捲し立てる。



「炎さんもあの異変調査の時に見たと思うけどあの瘴気感知のスコープ、ボクが創ったんだ」

「そうなんですか。凄い開発者なんですね」

「まあいくら頭が良かったとしても出来ない事なんて山程あるのは理解してるよ。だからボクは防衛省の仲間のサポートに徹してる」


「話が逸れたけど、あの配信のおかげで90層以降の踏破の為にミアズマスコープを買いたいっていうオファーが国内8大クランから殺到してね。開発費が青天井になりそうなんだ」

「青天井?」

「8大クランリーダーには5億で売ったでしょ?幹部クラスには3億、Sランク冒険者には1億かな?トータル100億超えちゃったんだ」

「100億ッ!?」


この金額には炎の仮面冒険者も驚きを隠せない。


「いやまあ【東魔天譴】の嗚桜さんが即決で5億払ってくれたのが他のクランリーダーたちを刺激したみたいなんだけどね」

「炎さん知ってる?あの配信を見た国内8大クランのうちの3つが既に95層踏破してるの?」

「そうなんですね」

「やっぱり人にとって未知が最大の恐怖なのかもね。『攻略法』を示してくれる人間がいれば日本では今まで踏破不可能と思われてた95層もあっさりクリアしちゃう。別に彼らの実力が急に伸びた訳じゃない」

「あの配信が『攻略法』と言えるのか微妙ですけど」

「ダミーの光源を用意するだけで階層中の全魔物と戦う必要がなくなるってだけでも大きいよ。一見意味不明だったあの冷蔵庫姿は階層踏破の為に理詰めされてた姿だったなんてボクもあの映像を見た時はゾクゾクしちゃったよ」



白皙の美女が恍惚とした表情で身震いしているのを見た炎の仮面冒険者は早く帰りたくなってきてしまった。



「桂城さん、今日は麗水さんとの顔合わせが今回の用件なんですか?」

「いえ。今の海咲の話の続きが政府からの依頼に繋がっているんです」

「?」

「和奏、ボクから言わせて!炎さんには【96層の攻略動画】を作って欲しいんだ。攻略配信でもいいけど」

「……96層のですか?。あの時の配信見ればわかるように96層へは他の人をキャリー出来ないですよ」

「だからボクにお呼びがかかったんだ。前回の『撮影班』みたいなやり方じゃなくて撮影ドローンを手動で遠隔操作すればリスクも減るしね」

「成程」

「またライブ配信がお望みならボクが配信協力者モデレーター?ってヤツもやるし」

「それが今回の政府依頼という事ですか?」

「炎さんだって流石に日本全国のダンジョンの96-100層の間引きなんて大変でしょ?」

「……そうですね」


実は観光がてら日本全国のダンジョン巡りも悪くないなと思っていた事は胸の内にしまう仮面冒険者。



「分かりました。その依頼引き受けます」

「炎さんは自分のダンジョンチャンネル作らないの?」

「え?」

「SNSではダンジョン配信やって欲しいってコメントが殺到してるんでしょ?」

「ええまあ」


自身の公式アカウント【@炎麗黒猫の代表の猫】にそういうコメントが多い事は認識していたが『ドナドナ』や『フリーザー様』など次はどんなネタ画像を作られるかと思うとあまり気乗りしてはいなかった。


当然『炎の宇宙猫』画像も誕生している。



「この際、自分のダンジョン配信チャンネル作っちゃえば?奨学金基金に回す金、いくらあっても足りないんでしょ?」

「それは野河さんや【研能】の方に相談してから決めます」

「そう。いやあ炎さんの次のダンジョン配信楽しみだなぁ。ボクね。炎さんのおかげで次の夢が出来てんだ」


「夢?」

「そう」




白衣姿の白皙の美女は瑠璃色の碧眼を輝かせ夢を語った――。




「――ボクね、次は精霊が視えるスコープを創りたいんだ」




______________________________________



2章から登場のヒロイン、麗水(よす)ちゃんです。

たまたまキーボードの変換機能で「え?麗水で『よす』って読むの?」と調べたら

韓国の地名らしいです。プラチナブロンドヒロインの名字はもう麗水しかないとなりました。日本人男性と北欧女性のハーフです。


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