第2-2話 第1回【炎麗黒猫】クラン総会・前編


俺の名前は冨波敦義とばあつよし


どこにでもいる……いや実戦では役立たず扱いされてた精霊スキル持ちの学生冒険者だ。

【スキル】によって人生が決まるといっても過言じゃない不平等な世の中にどこか嫌気がさしていた。

とにかく強いスキルを持ってるやつがカースト上位でやりたい放題の教室の中でおとなしく生きてきた。


そんな冷めた日常だったがダンジョン関連の話題には何故か惹かれた。


精霊頼みの攻撃魔法は安定したパフォーマンスを発揮できず、パーティー仲間からも敬遠されまともに冒険できないのに。



なんで配信冒険者の動画を漁ってるんだろ俺?


夏季休暇前のある日、日本初の100層踏破者が現れた。

最近SNSで話題になってたあの炎の仮面冒険者は【精霊術師】だった。

親近感から踏破映像をチェックした俺は絶望した。



俺の精霊スキルじゃあんな事絶対出来ない。

精霊スキルにも階位があって【精霊魔法】【精霊召喚】【精霊契約】みたいに種類がある。


あの仮面冒険者はものすっげえ特級精霊と契約する事が出来たんだろう。


俺のスキル【土精霊魔法】じゃ頑張ってCクラス冒険者が関の山だ。


やっぱりでこの世界は不平等でクソだ。アホくさ。




「――なんで俺、【炎麗黒猫】に応募しちまったんだろう?」



俺は今都立競技場の前にいる。

今日此処で【炎麗黒猫第1回クラン総会】を催すという旨の招待状が届いたのだ。


【炎麗黒猫】はまず男性組と女性組に分けて活動開始するらしい。



男性組は【炎麗黒猫・トリエグル琥珀】。

女性組は【炎麗黒猫・バステト】と名付けられた。



アーティストが何万人もの観客を入れライブをする事もある都立競技場にクラン加入希望の男達が集められた。

女性組も都内の同規模のサッカースタジアムで同時開催するらしい。



「それにしてもアイドルのコンサート会場かよ」


なんというか周囲にそっち系の人が多いというか女配信冒険者パーティー【黒猫ハーバリウム】を推してる人達がこぞって応募してるんだなと。


「法被にペンライトって冒険者の格好じゃないだろ」


どう見てもダンジョンに潜った事ない人たちまで競技場前で自分の推しについて楽しそうに歓談している。



他にも高そうな撮影機材を持ち歩いてる配信冒険者らしきパーティーも多い。

配信映えさせる為のとにかく派手で魅せる冒険者装備をしている。

今話題のクランに入って再生回数を伸ばしたい思惑からこの場にいるんだろう。



そして第3グループと言えるのが視線が若干上向きだったり、時折自分の肩に向いてる人達――【精霊スキル】持ちの冒険者勢。


俺もこの人達と同類だ。



スプリンクラーが怖いからと透明な球体ケースに入るようなヤツが精霊スキル持ちを育成したいと言った事で集まった人達。



他にもガラの悪い兄さん達もいるが、どうやって弾くんだろう?




夏場の暑い時間帯を避けた午後3時半、都立競技場が開門し、数万人規模のクラン加入希望者が入場し始める。




競技場の中に入るとまずに目に飛び込んできたのが巨大なスクリーン。

そしてグラウンドには無数の台座みたいな一人用のテーブルが犇めいていた。



『――午後5時より総会が始まりますのでそれまでに各自テーブル前に待機していてください』とアナウンスされる。



しばらくは屋根のある観客スタンド席で過ごしていたが10分前に席を立ち、グラウンドに降りる。

適当なテーブルを選んでその前に立つと、すぐ隣にいた同年代の学生冒険者らしき人物とふと目が合う。



「どうも」

「ああ。俺ユキヤっていうんだ。お前は?」

「アツヨシ」

「じゃあアツでいいか」


ユキヤは自分のペースで話を進める。



「俺は【剣士職】であの黒竜騒ぎから綾覇推しなんだ。あの映像見てすっかりヤられちまって。まあ『にわか』ってヤツさ。お前は黒猫ハーバリウムに推しいないの?」

「俺は別に彼女達目的じゃなくて……」

「じゃああのぶっとんでるクランマスターの方か。精霊スキル持ちなの?」

「ああ」

「このクランに入ればすげえ【精霊術師】になれるかもしれないんだろ?良かったじゃん」



そんな未来あるんだろうか?と思っていたら突然巨大スクリーンから映像と音楽が流れ始める。5時になったらしい。


【炎麗黒猫】をイメージしたCG映像に音楽。さながらコンサートのオープニング映像。

途中で【黒猫ハーバリウム】のメンバーの姿も映り、彼女達のファンから野太い歓声が上がる。



1分程の映像が終わると猫姿の炎の仮面冒険者と綾覇、碧偉、龍美、清楓の4人がスクリーンに映し出される。




「皆さん、初めまして。【炎麗黒猫】のクランマスター仮面冒険者――炎です」


「【黒猫ハーバリウム】の綾覇です」

「碧偉です」

「龍美です」

「清楓だよ」


「本日は二会場同時進行という事でこういう形で挨拶する事になりました」


「女性会場に彼女たち。男性会場に俺が顔を出す案も考えたんですが【クランマスターなのにお前じゃねえッ!!】とか言われちゃいそうなんでやっぱりやめました。

逆パターン?いやいや皆さんまだ何もしてないのに彼女達には会わせないですよ」


「黒猫リスナー組の皆ぁー!彼女達に会いたいかぁーー!!??」


うおおおおおおお!!と都立競技場が歓声が響き渡る。



「じゃあこれから皆さんにはひとつの試験を受けて貰います。彼女達が映ってると集中できない方がいそうなんで彼女達はここまでです。最後にエールをもらっていいかな?」

「皆さん頑張ってください」(綾覇)

「頑張ってくださいねー」(碧偉)

「頑張って」(龍美)

「頑張ってねーばいばーい」(清楓)


彼女たちが巨大スクリーンに映る事はなくなった。炎揺らめく猫がズームアップされる。



「では新クラン【炎麗黒猫】正式加入試験を始めようと思います。上空を見て下さい」



炎の仮面冒険者の言葉に従い、視線を上に向けたクラン加入希望者たちは驚き、どよめく。

男性組会場の都立競技場、そして女性組会場のサッカースタジアムの上空に存在していたのは――。




――炎の雲だった。

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