第2-3話 第1回【炎麗黒猫】クラン総会・後編
新クラン【炎麗黒猫】の第1回クラン総会の会場となった都立競技場、そしてサッカースタジアムの上空に突如炎の雲が出現し、会場は騒然となる。
「お、おい!火の玉が降って来るぞッ!!」
そう叫んだ人物により会場は一時パニック状態に陥るもその炎の球体はいつまでも経っても地上に近づいてこなかった。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと優しく降り注ぐ炎のそれは攻撃魔法の類ではなくまるで――。
「炎の雪……?」
そう誰かが呟いた。
炎の雪が全てのクラン加入希望者たちの胸元へ到達するのに10分以上要した。
巨大スクリーンに映ってる炎の仮面冒険者は場が整ったのを確認し口を開く。
「では。皆さんにはその炎に触れてもらいます。それが正式加入試験となります」
その言葉には両会場ともざわついた。
「安心してください。その炎は『意志ある炎』です。貴方がた自身に【炎麗黒猫】クランへの害意がなければ火傷する事はありません」
「ですが逆に悪質な害意を抱えている人物がその炎に触れれば【黒く燃えます】。実際に皮膚が爛れたりはしませんが一瞬手を焼かれた感覚は残ります。危険人物と判断した場合、冒険者ギルド、防衛省、警察等に要注意人物と通報させていただきます。速やかに退場をオススメをします」
通報するとの警告を受け、ガラの悪い男達が、炎に触れることなくバツが悪そうに退場した。
「では。その炎に手をかざしてください」
害意が無ければ問題ないと諭されたとて躊躇う人間が多い中、全く臆さない人間もいる。
冨波敦義もそのひとり。
(あのクランマスターも人が悪いなぁ。まあ『意志ある炎』ってちゃんとヒントは出してるけど)
敦義は炎へ手を伸ばす。
隣のユキヤはそんな敦義の様子に焦る。
「お、おいッ!大丈夫かよ」
「ああ。大丈夫だよ。――え?嘘?」
硬直する敦義。
「どうしたッ!?」
「契約出来てる……土の精霊魔法しか使えない俺が。火の精霊と」
精霊スキル持ちの冒険者たちが何も問題なく炎に手をかざしているのを見て、他のクラン加入希望者たちも恐る恐るではあるがその炎に手を伸ばす。
「その炎に触れる事が出来た皆さんは晴れて正式にこの【炎麗黒猫】のクランメンバーとなります。そして皆さんは今この瞬間、火の精霊と契約しました」
巨大スクリーンに映る炎の猫の言葉に会場は驚愕で埋め尽くされた。
「クランマスターとしてまずメンバーの皆さんに出す最初の課題は【その
「だってねえ?【炎麗黒猫】を名乗るならやっぱり火魔法使えないと」
炎の猫はドヤ顔だ。
「マジかよ。俺魔法使えんのッ!?」
【剣術】スキル持ちで魔法とは縁が無かったユキヤは興奮を隠せない。
「これが日本最高の【精霊術師】……」
ふたつの会場を合わせれば5万人は優に超えるクラン加入希望者達全員を火の精霊と契約させてみせた炎の仮面冒険者の離れ業に敦義は戦慄した。
自身の手が震えてる事に気づく。
「契約したと言っても生涯契約ではないので、『あ、コイツブラックだな』と思ったらその
「とても純粋で繊細な存在なので男性組の皆さんは【女の子だと思って接しながら大事に育てて下さい】」
「もし愛想尽かされてしまい火魔法が使えなくなった場合、即クラン脱退通告をする訳ではありませんが――」
「――このクランにはめっちゃ居づらくなるので覚悟してください」
((((((((((((((それはたしかに)))))))))))))
会場のクランメンバー達は肝に銘じた。
「本日のクラン総会は以上です。退場する際にその
「次回の総会までにパーティーメンバーの振り分けを予定しているのでもし既に一緒にパーティーを組みたい相手がいる場合はその事も紙に記入してから帰宅してください」
炎の仮面冒険者は退場手順を事務的に説明したあと、〆の言葉を発する。
「では最後に。今日、【炎麗黒猫】のクランメンバーになった皆さんは確実に一歩を踏み出しました。その一歩をどれだけの歩幅にするのかは皆さん次第です」
「クランマスターとしてアドバイスさせてもらう事もあるかもしれませんがあんまり期待しないでください。あれやれこれやれと指示厨になって嫌われたくないんで」
((((((((((((((この配信中毒者)))))))))))))
会場のクランメンバー達は心の中でツッコんだ。
敦義は右掌の上で仄かに光る炎を見ながら決心をする。
(絶対ドでかい一歩にしてみせるッ!!!)
「精霊の育て方なんてどうすればいいか分からない人も多いでしょうから今日の午後8時以降から約1時間、俺の公式アカウントで質問大会をしようと思います。どうしても聞きたい事があればそっちでお願いします」
「最後の最後に。黒猫リスナー組の野郎どもッ!!彼女達の肉壁になる覚悟はできたかッ!!??できたヤツから声を上げろッ!!」
うおおおおおおぉぉぉぉおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!
「……このクラン大丈夫かな?」
敦義はこのクランの将来が心配になった。
都立競技場に野太い歓声が木霊し、第1回【炎麗黒猫】クラン総会は終了した。
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