第18話 コメント欄は今日もツッコミで忙しい
「ようやく追いついたか」
野心鬼の視線の先には炎揺らめく冷蔵庫姿の仮面冒険者。
仮面冒険者の前には黒竜の首が3つ、炎の串に貫かれており、まるで串団子のような有様で放置されていた。
:ラストがブラックドラゴンの串団子ってデザート〆かい
:まさか黒竜のフルコースが見れるとは
:黒竜の刺身があったぞ
:ブラックドラゴンさんにも人権はあると思うの
:この冷蔵庫、敵に回したらアカン
:冷蔵庫を敵に回すという概念
:【防衛省からのお願い】ブラックドラゴンは決して簡単に討伐出来る魔物ではありません。安易な討伐計画を立てるのは絶対やめてください
:防衛省草。まあこの配信見てると感覚バグるわ
:既に10体以上処してるしな
:まさに料理してたな
:ここまで前座でここからが本番なんだよなこの配信
:いよいよ94層か
「じゃあ94層に行きますか?大将準備は出来てます?」
「ああ……」
これまでは豪放磊落な振る舞いを見せていた野心鬼の表情が硬くなる。
:防衛省大将でもビビるんか。94層。
:本人からしたら死んでもおかしくない未踏破層だからな
「安心しろ。自分の身は自分で守る」
そういった野心鬼は特殊なゴーグルを取り出し、装着する。
「それは?」
「
「それいきなり眩しくなったら目がやられるとかないですよね?」
「安心しろ暗視系じゃない」
:どういう会話だ?
:94層の必須装備なのか?そのスコープ
:魔物発見系の装備か?
:その謎もすぐわかるべ
「じゃあ俺はこの姿のまま94層に入ります。入った瞬間から忙しくなるでしょうけど大将は距離を取って暫くは入り口付近にいてください」
「わかった」
:あれ?別行動?それじゃ撮影班として機能しなくね?
:意味あっての行動だろ
:入った瞬間から忙しくなるってどういう意味だ?
:ていうかここ94層の入り口なん?なんか真っ暗じゃね?
「いきます」
冷蔵庫姿の仮面冒険者は一気に直進し、闇の中へ飛び込んでいった。
遠目からは闇の中で一点の炎が激しく動いているという事が分かるだけだった。
:もう魔物との戦闘始まってる感じ?
:どゆこと?
:94層ってまさか真っ暗闇なの?
:今まで90層以下の映像が全然世に出てこなかった理由ってこれ?
日本で初めて公開されたといっていい90層以下【沼淵】のライブ映像にコメント欄がざわつきだす。
『――改めて防衛省ダンジョン対策支部局大将の野心鬼だ。この配信を見ている日本国民の皆様にこの階層の解説をしようと思う』
撮影ドローンを経由してライブ配信に音声が届くように設定を切り替えたインカムに手を添え、野心鬼が威厳のある重く低い声で語り出す。
『――御覧の通りこの階層には光が無い。人間行動において最大の判断基準と言っていい視覚を封じられていると言っても過言ではない。90層より下の階層はこれが
防衛省大将が発した事実に視聴者たちは戦慄した。
:嘘だろ?
:ガチで暗闇の中、S級クラスの魔物を倒さないといけないの?
:想像以上の無理ゲーだった
:で、でもLEDなり照明器具があれば探索は出来るだろ?
『――この階層の魔物たちにとって光が極上のエサだ。光を見つけた瞬間、その階層の総ての魔物が襲い掛かってくるんだ』
視聴者たちは絶句した。
:じゃ、じゃああんな炎メラメラさせた冷蔵庫で飛び込んだアルパカは――
:この階層の全魔物を相手にし始めたって事かよッ!!!
『――
:ゴブリンとか出てくる浅い階層なら70-100体くらいか?
:階層踏破するにつれて徐々に増えてるよな多分。それこそ1階層なら魔物は30体もいないだろ
:でも10層踏破するごとに魔物の強さのランクが上がってまた魔物の数は減ってると思う
:強さと数が同時に上がり続けたら階層攻略なんて出来んだろ
『――93層で俺が討伐したS級は150程だった。全体の4割弱か』
:93層は400近いS級魔物を相手にしないといけなかったのか……
:Sを150討伐ってサラッとえげつない事してない?
:そりゃ防衛省ダンジョン対策支部の大将だぞ。実質政府関係者の中で一番の猛者だろ
『――あくまでも俺個人の体感だが91層は100、92層は200、93層は400という階層別魔物遭遇数だった』
:倍々ゲームかい
:じゃあこの階層はまさか
:S級魔物800個体ッ!!??
『――情けない話だが俺が後先考えず全身全霊を以てしてもS級魔物300体が限界だ。俺がこの階層を踏破するには俺以上の強者に
悔し気に自身の限界を語る野心鬼。
防衛省大将の独白に対してコメント欄は――。
:日々命懸けで仕事してる人間が『情けない』なんて言わないでくれよ
:そーだそーだ。S級300体て大将も十分化け物だから
:国民を守ってくれてありがとう
:防衛省にスパチャしたいくらいなんだが
:じゃあちゃんと納税しようね
野心鬼への感謝、そして賞賛の言葉の方が多く、それを見た桂城和奏やライブ配信担当者はやや感極まっていた。
:あれ?なんか冷蔵庫の炎がデカくなってね?
遠目の撮影ドローン越しからでも視聴者が気づく程、いつの間にか暗闇の中で奮闘する仮面冒険者が発する炎が大きくなっていた。
:なんか宙に浮かびだしてね?
真っ暗闇の空間の上方に浮かぶ巨大な炎の塊を見て野心鬼は呟く。
『――疑似太陽。これがこの階層の攻略法だというのか』
:いやぁ太陽と言われてもどう見てもでっかい炎の冷蔵庫のまんまなんだが
コメント欄は今日もツッコミで忙しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます