第17話 冷蔵庫冒険者による100層踏破開始

原宿ダンジョンの中へ入った3人は階層踏破者のみ使えるショートカット用の階段前まで辿り着く。



「2人の最高踏破階数を聞いても?」

「俺は93層だ」

「俺は94層だ」


互いの踏破階層を聞いた防衛省大将と東京最大クランのトップの視線が交差する。

嗚桜は若干勝ち誇ったような表情を見せる一方、野心鬼は若干眉根を寄せた。


:国より冒険者代表の方が上なんか

:そりゃ役所は無謀な踏破は出来ん。死なせたら即責任問題になる

:政府が一番強いなら有力クランに提携や支援協力を持ちかけたりしないだろ

:今は正体不明なアルパカの手も借りたい状態なわけで

:東京の運命は冷蔵庫の手に委ねられた

:冷蔵庫に手は無い



「じゃあ93層まではショートカット出来て、同時に俺も93層までは踏破した事を証明できそうですね」


:94層の映像が国民に公開されるの初じゃね?

:80層以降の【沼淵】まで辿り着く配信者はいなかったしな

:既に歴史に残る配信確定やん


「なあ?本当にその姿でダンジョンに潜るのか?」


嗚桜が問う。


「必要があればいつでも姿は変えれるので御心配なく」

「そうか。ならいい」

「行きましょうか」


ショートカット用の螺旋階段に近づいた瞬間、3人は異変に気付いた。


「おいおい。どうなってんだよ?昨日はこんなじゃなかったぞ」

「螺旋階段の中心部が空洞化だとッ!?」


今までは岩壁だったはずの螺旋階段の中心部が崩壊し大穴が空いていた。


「早く来いよってダンジョンに招待されてますね。90層まで歩く手間が省けたんで俺は先に行きますね」


炎揺らめいていた冷蔵庫の姿の冒険者は意気揚々と螺旋階段の穴へと飛び込んでいった。


:冷蔵庫さんいきなりの垂直落下ロケットスタート

:空飛ぶ冷蔵庫だしまあ大丈夫なんだろ

:相変わらず字面だけだと意味不明


「どうします?」


嗚桜が野心鬼に尋ねる。


「2人揃って階段降りちゃ撮影班としての役目果たせねえかんな。俺は行くぜ。このダンジョンスーツで」


野心鬼は自身の頑強な肉体を纏う迷彩柄のダンジョンスーツを撮影ドローンにアピールする仕草を見せる。


「これは防衛省の中でも特注スーツでな。空を自由に飛べるとまではいかないが『浮く』事は出来る。じゃあな」


野心鬼も螺旋階段の穴へ飛び込んでいった。


:大将も飛び込んだぞ

:【注】防衛省です。これは特殊な修練を積んだ方々のダンジョンショートカット方法です。一般の冒険者の方は絶対にマネしないで下さい

:防衛省からの注意喚起草



「日本中が見てるこの配信、俺も派手なパフォーマンスを披露したいところだが未踏破層が待ってるんでここは温存で。94層の出口で2人を待ってる事にするわ。野心鬼大将が94層で消耗してたら撮影班の役割を果たせなくなるかもしれないんでね」


自身の撮影ドローンに向けて嗚桜はそう語った。


:堅実な温存策を取りつつもしっかり94層踏破マウントしてて草

:負けず嫌いなんだな

:上に立つ奴なんて皆負けず嫌いだろ


現在二窓状態でライブ配信されていたが、野心鬼のドローン映像がメインとなり嗚桜の映像は画面右上の小窓に変化した。


:大将の落下速度にドローンが追いつけてないな

:あっ大将いたぞ

:本当に浮いてるじゃん

:防衛省のダンジョンスーツすげえええええ



螺旋階段には等間隔で灯りが設置されているものの全体的には薄暗い虚空に浮かびながら野心鬼はあるモノを凝視していた。

野心鬼に追いついた撮影ドローンもそれを配信画面に映し出す。



:なんだあれ?

:ブラックドラゴンじゃね?

:おいおい。なんでセーフティーゾーンにブラックドラゴンがいるんだよッ!?

:これがランダムリスポーンの原因か?

:あの黒竜全然動かくなくね?

:もう死んでるっぽいな

:冷蔵庫が倒したんじゃね?



『――野心鬼大将。応答願います』


インカムに内蔵された小型スピーカーから桂城和奏の声が野心鬼の右耳に届く。


「黒竜は既に討伐済みだ。ご丁寧に素材ごとにバラされてる。見てみろ」


野心鬼が右手を前に突き出すとダンジョンスーツから眩い光が発せられ、カメラ越しでは竜の首程度しか認識出来ていなかった黒竜の亡骸の全体像を照らし出す。



「黒竜のタッパー詰めだ」



竜の首、手足、爪、骨、内臓、翼、竜鱗とそれぞれの部位が別々のタッパーに収められていた。

その光景を見た視聴者はまたも驚愕し、コメント欄は爆発。



:ちょww

:【悲報】ブラックドラゴンさん、タッパーに詰められてしまう

:冷蔵庫設定に忠実ww

:このタッパー、3M×3M×5Mくらいないかい?

:うんこれなら持ち帰りやすいね(白目



「桂城。素材回収班をよこせ。冷蔵庫様との約束だ」


『……了解しました』



:実は一番大変なの素材回収班の皆さん説

:政府には専用素材回収ロボットがあるらしいしまあ大丈夫だろ

:ロボットというかゴーレムというか

:まあそのハイブリッド的なヤツな


「じゃあ俺は冷蔵庫様に追いつかねぇとな」


野心鬼は浮遊状態を解除し、再び穴の底へと垂直落下を始めた。



:【防衛省からのお願い】これは特殊な修練を積んだ方々のダンジョンショートカット方法です。一般の冒険者の方は絶対にマネしないで下さい。繰り返します。絶対にマネしないで下さい

:国からのガチお願い草

:既に政府の想定外なんだろうなこの状況

:アカン東京の危機かもしれんのにこの配信楽しい

:同意


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