第16話 美女と冷蔵庫
炎の仮面冒険者による100層踏破済み宣言は日本中に衝撃を与えた。
……が口だけならどうとでも言えてしまう。
100層踏破した事を証明してみせろという輩がSNS上や防衛省ライブ配信のコメント欄に現れ始める。
「異変調査ですがまずは俺が100層まで到達出来るのを皆に見せる所からですよね?」
「え?ええ……」
「その証人。100層までついてこれそうな撮影班は準備できてます?」
「――その役目、俺が引き受けよう」
自衛隊員を運ぶ運送車両のドアが開き、迷彩柄のダンジョンスーツ越しでもわかる筋骨隆々な偉丈夫が姿を現す。
その存在感に騒いでた若者たちも言葉を失い、隊員たちは背筋を伸ばす。
:この人テレビで見たことあるぞ
:そりゃ防衛省ダンジョン対策支部の最強格だからな
「防衛省ダンジョン対策支部局にて大将を任じられている
「よろしくお願いします」
歴戦の猛者が放つ眼圧に対し、冷蔵庫姿の仮面冒険者は事もなげに平坦な口調で挨拶を返す。
「ふっ……ハハハハハッ!」
自身の威容に対する反応を判断基準にしてきた野心鬼は一瞬微かに口角をあげた後、豪快に笑った。
「どうだ?桂城は良い女だろう?」
「???ええ。綺麗な方だと思います」
突拍子もない発言に仮面冒険者は戸惑いつつもそう返す。
「だろ?頭がキレ仕事も出来る。だから俺の補佐まで引き上げたんだ。お前のハーレムクランにはやらんぞ」
「はい???」
「野心鬼大将ッ!!」
和奏は顔を紅潮させながら上司の悪ふざけを窘める。
そんなやりとりも日本中にライブ配信されている。
:防衛省大将が冷蔵庫と女の取り合いしてて草
:大将目線ではアルパカ、完全にハーレム野郎らしいな
:なんでアルパカが絡むと絶対おもろい配信になんの?
:キャラが強烈過ぎるのと本人が若干天然かつ豆腐メンタルで予測不能だから
「コホン。日本国民の皆様に誤解を与えたくないので弁明させていただきます。私桂城和奏と野心鬼大将は恋愛関係ではありませんし、当然肉体関係もありません」
:えー。美女と野獣でお似合いじゃないの?
:桂城ちゃん意外とガード堅い?
:国家公務員だし堅実派なのでは?
:職場恋愛は拗れると転職考えなきゃいけなくなるしな
「何より野心鬼大将には奥様とお子さんが5人いらっしゃいます。そういった方との不義で身を滅ぼすつもりは毛頭ございません」
「な?良い女だろ?」
「野心鬼大将はもう余計な事言わないで下さいッ!!」
「わかったわかった。ハッハッハ」
:大将、妻子持ちだった
:そりゃ国の要職に就ける人間に相手がいないとかないわな
:想像通りの子沢山家庭
:カーリング出来るな
:大将と桂城ちゃんと冷蔵庫の三角関係見たかったわ
:冷蔵庫と三角関係というパワーワード
:この先美女と野獣の進化系『美女と冷蔵庫』が見れるかもしれん
:wwww
「そんじゃあまあ。和気藹々な顔合わせは終わったって事でこの冷蔵庫様に100層まで連れて行ってもらおうか。いや――」
野心鬼はある男の気配に気づく。
「――俺も連れて行ってもらおうか」
原宿の若者たちの人混みの向こうから現れたのは金髪をオールバックに纏めた精悍な顔貌、そして逞しい肉体の持ち主だった。
その背には黄金色の大槍。
:あれ?【東魔天譴】の
:【天譴】じゃん
:東京のナンバーワンきた
「【炎麗黒猫】だったか?東京でデカいクラン創るってんなら挨拶させてもらわねぇとな」
嗚桜は琥珀色がかった両眼で炎の仮面冒険者を直視する。
そして一歩また一歩近づいていく。
:え?なに?今からクランマスター同士の東京の覇権をめぐる仁義なき戦いが始まるのか?
:【悲報】仮面冒険者さん、家電になっても決闘を挑まれる
「嗚桜さんッ!大事な政府調査前に私闘はやめてくださ――」
桂城和奏が両者の間に割って入ろうとしたその瞬間。嗚桜真月は頭を垂れた。
「――頼む。俺にも『
嗚桜の懇願。
それに対し、炎の仮面冒険者が問う。
「不規則氾濫の中での100層踏破、死ぬかもしれないですよ?」
「冒険者を志したその日から覚悟はしてる」
「どちらか一方しか助けられない時、俺は防衛省大将を選びますよ?」
「それで構わない。恨んだりしない」
:シリアスなシーンなのに頭下げてる相手が冷蔵庫なのなんとかして。炭酸水吹いたわ
:冷蔵庫に頭下げてる人、初めて見た
:『俺が死なせない(キリッ』は言わんのね
:それは女冒険者限定なんだろ
:うーむ。これは男には厳しいハーレム野郎
「わかりました。じゃあ行きましょうか」
炎の仮面冒険者は原宿ダンジョンの入り口へ向かい出し、撮影班として野心鬼と嗚桜が付き従う形で異変調査が開始された。
:国の二大戦力を引き連れてるのが冷蔵庫で草
:さあまた伝説の配信になるぞ
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