第11話 衝撃の告白

【黒猫ハーバリウム】の配信視聴者から腕自慢を集めてレイドクランを創ろうという提案に綾覇らは驚く。


配信を見ていた視聴者のコメント欄も爆発する。



:えッ!?黒猫ちゃんのクランが出来たら俺らも入れるの?

:そうなんじゃね?

:自己責任でダンジョン潜れる実力があるならな

:レイド(大規模討伐)の機会があったら黒猫ちゃん達の肉壁になれる権利だとッ!?我が人生、悔いなし!!!

:死ぬ前提で話すな

:60層以降のダンジョン攻略は冒険者ギルドでもレイドパーティー募集の張り紙があるな

:炎はもう60層攻略を視野に入れてるって事か

:セイシロウみたいなのに絡まれるくらいならクラン創って囲ってガス抜きした方がいいって判断じゃね?

:今日本で一番バズってる冒険者パーティーがクランメンバー募集したらどうなるんだろ?

:国内8大クランに匹敵するかもな

:うおおおおッ!盛り上がってきたぁぁぁぁ!!!



「あのッ!炎さん!いきなりクランを創ると言われても困ります!」


綾覇がいの一番に抗議する。


「君達がどの階層まで踏破するのが目標なのかは知らないが今後レイドに参加するか自分達で大規模討伐を主催しないといけなくなるだろう」

「そうはそうかもしれないですけど。事務所が認めてくれるかも分からないですし」

「まあ完全に俺の独断だからな。でも俺みたいなぽっと出の変人のせいで君達を応援してきた視聴者が少なからず不満を感じているのは確かだ」

「ファンの皆さんには今の状況を受け入れてもらうしかないんです。誰とは言えませんが冒険者引退を考えた子もいるんです」


綾覇の言葉に黒猫クラン新設で盛り上がっていたコメント欄も流れが一転する。


:おいおい。やっぱり引退・解散寸前だったのか

:そりゃ死にかけたんだ。続けようとする方がイかれてる

:今日もし炎が現れなかったら黒猫解散だったかもしれないのか

:思い返せば清楓ちゃん、アルパカ来るまで元気なかったわ

:引退考えたのは碧偉ちゃんか龍美ちゃんか。2人ともかもしれないが

:詮索はやめとけ



「若い女の子たちが危険なダンジョン配信をやらなきゃいけないのにはそれぞれに切実な理由があるんだろう」


炎揺らめくアルパカの言葉に一瞬空気が止まった。

仮面冒険者は彼女らの反応を見逃さず頭に入れつつ言葉を続ける。



「ただの視聴者の一人でしかない俺にダンジョン配信をやめさせる事なんて出来ない」


「でも配信中に女の子たちが死にそうになっているところなんて見たくないから配信ゴースティングを始めた」


「だが窮地に陥った女冒険者パーティーを救うのは都内9か所のダンジョンが限界だ」


「「「「え?」」」」


アルパカの吐露に綾覇らは思わず目を丸くする。


:何?都内9か所?

:突然想定外のカミングアウトきた

:黒猫ちゃん達以外の女冒険者パーティーも密かに救い続けてたって事?

:嘘だろ?


「都外までカバーできない」


:【驚愕】アルパカさん、日本の女配信冒険者全員死なせないつもり

:そういえばここ一年で配信事故がかなり減ったような

:他のダンジョン配信見てた時、女冒険者がピンチでヤバいと思ったら突然魔物が燃えだした時あったわ

:あれ炎(アルパカ)がやってたの!?

:女配信冒険者さーん!近くに燃えてるアルパカいないか注意して下さーい!


「だからもうクランを創って切実な事情を抱えてる女の子配信者を集めたいんだ。俺が面倒みる。死なせない。そしたら神奈川もカバーできるかもしれない」


:切羽詰まってる少女冒険者全員クランで面倒見るとかとんでもないハーレム野郎が誕生しとる

:黒竜瞬殺出来る男の考える事はスケールがとんでもなかった

:ダンジョン国日本の配信文化は怪物を産みだしてしまった……

:【緊急速報】神奈川県の皆さん、アルパカが来ます。アルパカが来ます。ご注意ください



「炎さんはクランを創るのが目的で私達に接近したんですか?」


警戒、不信が混じった眼差しで綾覇は問う。


「『自分が配信で女の子が死ぬのを見たくない』で始めたダンジョン配信追跡ゴースティングなんてただのエゴだ。本当は誰にも悟られる事なく続けるつもりだった」


「だが流石に黒竜から君達を守るのは姿を見せずに遂行するのは無理だった」


「そして図らずも自分の存在が多くの人に知られる事になった。ならまず自分が何をしたい人間なのかは日本中に知ってもらいたいと思った」



炎は己の想いを彼女ら、そして視聴者たちに誠実に伝えた。



「それがクラン設立なんですね」

「ああ」

「【黒猫ハーバリウム】がクランを創らなくても炎さんは自分のやりたい事の為にもうクランは創るつもりなんですよね?」

「まあそれなりに有名になったしSNSでも始めてクランメンバー募集してみるよ」

「そうですか」



炎の気持ちを綾覇は思案する。入れ替わるように今度は碧偉が問う。



「いつからそういう事を始めたんですか?」

「……ある配信を見てダンジョンに潜る決意をして鍛錬を始めて1年、そして1年前からかな」

「私たちのダンジョン配信もデビューから見てたんですか?」

「大手配信事務所からのデビューした子達だから自然と配信サイトのオススメ画面にも載ってたしね」

「陰で見守っていてくれて私達の命を救っていただきありがとうございました」


改めて碧偉はその薄桃色の長い髪を垂らしながら深々と礼をした。


:炎(アルパカ)、黒猫古参だった

:まだデビューから4ヶ月で古参うんぬんは無いだろ

:大手事務所の大型新人だしな

:陰で見守る(配信追跡)

:命さえ救えばなんでもありな世界なのよ



「――なら創ろうよクラン」


そう切り出したのは龍美だった。


「りゅみちゃん?」

「だって私達、炎さんに命を救ってもらってこんな凄い装備ももらって【後見冒険者】まで引き受けてもらって何も返せてない」

「事務所が認めてくれるかは分からないけど何か炎さんの役に立てる事があるならやりたい。もらいっ放しは嫌なのッ!」


想いを吐き出した龍美を見て清楓も口を開く。



「わたしもクランやりたい。わたしと同じ年くらいの女の子が困ってるならその子達をクランに入れてあげたい」

「龍美ちゃんやさやちゃんもやりたいみたいですし私もクラン創り賛成します。創っちゃいましょ私達のクラン」


碧偉も2人に追従する。


その様子を見た綾覇は――。


3人がやる気ならやろうクラン」

「じゃあ決まりですね。視聴者の皆さんも【黒猫ハーバリウム】の新クランへの応募、応援よろしくお願いします」


撮影ドローン越しににっこりと微笑む碧偉。


「なあ!そのクラン俺も入れてもらえるんだよなッ!?」


その様子を見ていた男――セイシロウが意気軒昂に割って入る。



「「「「……」」」」


「無言はやめてくれええええええええぇぇぇぇぇ!!!!」



セイシロウの悲鳴がダンジョンに木霊した。


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