第12話 政府からの依頼

「――出でよ、神に仕えし誇り高き狼たちよ」



黒竜騒動から復帰した【黒猫ハーバリウム】池袋ダンジョン31層-40層攻略配信も佳境に。

池袋40層のフロアボス・フォレストトレントに最前列で対峙しているのは綾覇ではなく闖入者・セイシロウだった。

仮面冒険者炎と黒猫ハーバリウムによる新クランに即加入希望表明をしたセイシロウに対し綾覇らの反応は虚無に近かった。

「では事務所によるクランメンバー募集が始まったら冒険履歴書を送ってください」とすげなく返されそうになった為、危機感を覚えとにかく実力を見てくれと泣きついた。



セイシロウは右手の魔杖を振りかざし、銀色の魔力の魔法陣を展開するとそこから何匹もの狼が顕現した。

次に左手の魔杖を振りかざし新たな詠唱を始める。



「炎の精よ、我が鍾愛する狼たちへ敵を蹂躙する力を与えよ」



セイシロウから放たれた炎が狼たちを纏う。

燃え盛る狼達が数十の樹魔に襲い掛かる。



:おおッ!迫力あるな

:セイシロウはマギサモナーか

:召喚獣にフォレストトレントの弱点である火属性バフか

:Aランク自称するだけあるな

:金のドッグタグだし正式なAランク冒険者なんじゃね?

:樹魔(トレント)系は火属性を扱えるかどうかで討伐難易度全然変わるからな



「あなた、何属性まで扱えるの?」



フォレストトレントを燃やし尽くし蹂躙してみせたセイシロウに対し、龍美が問う。


「水と風もいけるぞ」

「そう。3属性ね。やるじゃない」

「合格かッ!?」

「事務所の書類選考通過できるといいわね。ウチの事務所、好感度重視だから新人の恋愛スキャンダルには厳しいけど」

「100%お祈りメール!」


セイシロウはがくりと肩を落とす。


:実際このAランク残念イケメンは新クランに入れるんだろうか?

:レイド要員としては採用されるんじゃね?

:ただ龍美ちゃんの半径1キロ以内にいてはいけない条件付きで

:それもうレイド参加出来ん

:黒猫リスナー皆でレイドやろうっていうのは面白そう

:肉壁要員でも俺は参加するぞ

:よし俺もこれからダンジョン潜ってランク上げよう


コメント欄はこれから来るクランメンバー募集に想いを馳せ、賑わっていた。



「40層踏破完了しましたのでボス部屋を出た後、配信終了の挨拶をさせていただきます」


撮影ドローンに向け、そう告げた綾覇らは40層のボス部屋を後にする。


:乱入アクシデントもあったけど配信おもろかった

:やっぱアルパカヤバかったわ

:またしばらくアルパカと黒猫ちゃん達でSNSバズるわ

:大型クラン誕生と話題を持ってかれて国内8大クランも黙ってないだろ

:次回も期待



「―――ッ!」



綾覇は誰もいないはずのセーフティーエリアに人の気配を察知し、思わず身構える。

40層のボス部屋の出口の先、セーフティーエリアである螺旋階段の踊り場に一人の女性、そしてその後ろに控える男の集団がいた。


:おいあのダンジョンスーツ、自衛隊じゃね?

:早速国が動いたって事か

:【悲報】アルパカさん社畜ならぬ国畜にされそう

:アカン。ドナドナされてまう



迷彩柄のダンジョンスーツにその豊満な肢体を窮屈そうに包んだ女性が綾覇らにゆっくりと近づく。


「私、防衛省ダンジョン対策支部大将補佐官、桂城和奏かつらぎわかなと申します。仮面冒険者アルパカ殿、以後お見知りおきを」



:ダンジョン支部の別嬪さんきたああああああ!!

:大将補佐官様エロすぎ

:なにこのハニートラップが得意ですフェロモン溢れまくってる人



桂城和奏と名乗った女性の目的がアルパカである事を知り、綾覇らは左右に散る。

アルパカを形どった炎が前に出て対峙する。


「防衛省の方が俺に何の用でしょうか?」

「単刀直入に申し上げます。原宿ダンジョンの異変調査にご協力願い申し上げる為、この桂城和奏、参上した次第です」


:原宿ダンジョンの政府調査上手くいってないのか?

:助っ人が必要って事はそうなんだろ

:東京最大クラン【東魔天譴】と自衛隊が連携して調査してるんじゃなかった?

:【東魔天譴】だけじゃ手に負えない事態って事か?

:あれ?原宿から離れた方がいい感じ?



コメント欄も徐々に事態が深刻なのではないか?と騒ぎ始める。

桂城の後ろでタブレットをチェックしていた部下の男の一人が桂城に耳打ちをした。

何かを観念したかのように溜め息をついた後、桂城は撮影ドローンに目線を移す。



「配信を見ている日本国民の皆様に不安な気持ちを抱かせてしまい、大変申し訳ありません」

「防衛省の方針としてイレギュラーが発生した原宿ダンジョンの現状を公開する事になりました」

「現在原宿ダンジョンではボス部屋のランダムリスポーン不規則氾濫が起きており、40層にてブラックドラゴンが確認されています」



:え?ボス部屋がバグり始めたって事?

:黒猫ちゃん達の時は50層だったよな

:ブラックドラゴンが徐々に地上に近づいているって事だよな?

スタンピード大氾濫があるって事!?



「――ですのでブラックドラゴンを討伐出来る実力者を一人でも多く集めないといけないんです。調査による犠牲者をこれ以上出さない為に……」


桂城は沈痛な面持ちで説明する。


:既に犠牲者出ちゃったのか

:40層にいきなりブラックドラゴンじゃ対処しきれん

:黒猫ちゃん達が今生きてるのは本当に奇跡だったんだな


「どうかお願いしますッ!御助力をッ!!」


桂城は深く深く頭を垂れた。


:どうする?引き受けるのかアルパカ?


桂城の説明と懇願に等しい要請を受けたアルパカは一考の後、口を開く。


「ひとつ、いいですか?」

「なんでしょうか?」


桂城は頭を上げる。



「――原宿ダンジョンで黒竜討伐したら素材全部もらっていいですか?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る