第10話 【悲報】仮面冒険者はモテない
突然現れた
:おいおい。また変なの来たぞ
:なんか龍美ちゃん推しっぽいよな
:龍美推しの立場がなくなるからやめてくれ
:黒猫リスナーって変人ばっかなん?
:……否定はしない
:馬鹿め。配信に齧りついてスパチャ投げるような輩がリア充だとでも?
:悲しい事言わんでくれ
「あの……貴方は一体?」
黒猫メンバーを守るように半身の体勢をとっている綾覇が恐る恐る尋ねる。
「俺か?……そうだな。仮面冒険者フェンリルと呼んでもらおうか!!」
:出たよ。二番煎じ
:なんか全国的に女冒険者パーティーに気に入られようとする冒険者が増えてるらしいな
:ナンパ冒険者なんて昔からだろ
:あのね。フェンリル君、そういう登場はブラックドラゴン瞬殺できるくらいのインパクト残せないとただの中二病よ?
「これでもAランク冒険者だ。ほらな」
そうやってかざしたのは金色のドッグタグだった。金色はAランク冒険者である事を証明する。
「そして俺は龍美が好きだ!」
:Aとかなかなかの実力者じゃん
:龍美への好意は潔いな
:いや仮面被ったまま告白しちゃいかんだろ
:高ランク冒険者のファンとか怖いだろ。もし何かされたら抵抗できん
:アルパカは誰推しとか公言してないからな。上手くやってる
:こんなのに推し公言されたら本人はキッツいな
:ファンもキッツいです
自分推しと言われた龍美は仮面冒険者との距離を若干縮める。
「【黒猫ハーバリウム】、そして私のファンでいただいてる事はとても有難いんですけど素顔も見せない方から好意を伝えられても正直困ります」
:正論オブ正論
:なんだろう龍美ちゃんの背中越しにゴミを見るような目が見える
:【悲報】仮面冒険者というジャンル、モテない
:アルパカは既に仮面冒険者から動物冒険者にクラスチェンジしてるからセーフ
:動物冒険者という新ジャンル爆誕
「こ、この仮面はッ!そこのアルパカ野郎と決闘する為のものでッ!決闘に負けたら素顔を見せろって手筈だったのにッ!」
龍美の拒絶に動揺した男は自身の思惑を吐き捨てながら神狼の仮面を取り、虚空に放り投げる。
「なんでアルパカになってやがるんだよおおおおおおおおぉぉぉぉォォォォォォ!!!!」
銀色の髪に精悍な顔貌の男の絶叫がダンジョン内に木霊する。
:結構顔良いな。龍美推しは良かったな。イケメン台無しにするような残念なヤツで
:アルパカさん、決闘を華麗に回避する
:やってる事意味不明に見えてちゃんと考えられてるんだよな。動物になって人間同士のトラブルを回避するとか
:【注】普通の人間は動物になれません。絶対に真似をしないでください
:でも仮面冒険者同士の決闘、見てみたかったな
:Aランクでも黒竜瞬殺は出来ないだろうしアルパカが一蹴するだけだろ
「もういいッ!アルパカ野郎ッ!!【後見冒険者】の座をかけて決闘だッ!!」
銀髪男は銀色の魔杖を炎のアルパカへと向ける。
:【珍報】Aランク冒険者さん、アルパカに決闘を挑む
:【悲報】人間やめて動物になっても決闘を挑まれてしまう
:いやいやダンジョン内での私闘は日本国ダンジョン法で禁止されてるでしょ
:だよな。コイツはせっかくのAランクライセンス放棄したいのか?
:後先考えないガチ恋勢怖すぎる
「いい加減にして」
フェンリル銀髪男の剣幕に対し龍美が冷たく突き放すような一言を放つ。
「炎さんに【後見冒険者】を依頼したのは私達。私達が悩んで悩んで決めた事。突然現れた貴方が決闘して勝ったらとかそんなの全く関係ない」
:Aランクフラれる
:龍美ちゃんキレてんな
:ただのかませだった
:かませ犬ならぬかませフェンリル
:これから炎さん呼びなんだな
:炎(アルパカ、レッサーパンダ、ブラキオサウルス)
「さやも炎さんじゃなきゃやだ。男の人怖い」
清楓も大事そうにイムイムを抱えながらそう呟く。
:【朗報】清楓ちゃんまだまだ熱愛発覚なさそう
:炎は男扱いされてないんだな
:だって動物冒険者だし
:清楓推しは動物がライバルになるのか?
:お、俺はさやかちゃんの事を恋愛感情とかで推してるわけじゃないから
:父親目線とか?
「わたしも炎さんが最後列にいてくれるととても安心できます。これが皆さんの言う『実家のような安心感』でしょうか?とても温かい気持ちになるので炎さんとダンジョン探索続けたいです」
碧偉も鷹揚に微笑みながらそう話す。
:動物冒険者、実家になる
:うん。相変わらず字面だけだと意味わからんね
:そりゃ黒竜瞬殺できる仲間がいたらダンジョンも実家よ
:温かい気持ちってそりゃ炎だからな
:碧偉ちゃんもたまに天然入るよね
「私は……ついてきてくれた
:ぶった切ったな綾覇ちゃん
:ダンジョン法違反だし決闘は無理だろ
毅然とした綾覇の言葉に男は狼狽え悄然とし言葉を絞り出す。
「なんでだよ……俺だってあの日、このままじゃ龍美が死んじまうと思って必死に駆けつけようとしたのに」
「そうだったんですね」
「誰かが助けてくれたって知って本当に感謝したさ。……でもそいつは黒猫リスナーでゴースティングしてた」
「……マナー違反があっても炎さんが駆けつけてくれなかったら私達はあの日死んでました」
「まあ俺一人が駆けつけたところでブラックドラゴン相手じゃ肉壁にしかならなかったか」
男は自嘲する。言葉を発する者がいなくなり場が沈黙に包まれる。
:推しの為に命張れるんだから悪いヤツではないんだろうな
:黒猫リスナー皆心の中のどこかでアルパカ良いなぁとは思ってるよ
:嫉妬米とか見苦しいから自重している奴もいるだろ
「俺も彼と話していいかな?」
重たい沈黙を破ったのは炎ゆらめくアルパカだった。
綾覇は後ろを振り返る。歩き始めたアルパカが男と会話できるよう、左右に散る。
「君の名前は?」
「セイシロウだ」
「セイシロウ、マナー違反をした俺が気に入らない君の言い分は分かる」
「なんだよ勝者の憐れみかよ」
「そうじゃない。彼女達が決めた事だが俺の登場を納得できていないって視聴者も多いと思う。俺だって命の恩人だからって推しの配信に男が紛れ込んで来たら嫌だよ」
「話が見えねーんだけど」
「別に彼女達を守るのは俺一人である必要は無いし、君を含め腕に自信のある黒猫視聴者は立候補すればいいんじゃないかな?」
炎のアルパカの言葉に綾覇らが驚く。
「あの炎さん!?それはどういう事ですか?」
アルパカは自身へ向く不満への解消策を提示した。
「――黒猫リスナー有志でレイドクランを創ってみたらいいんじゃない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます