第9話 仮面冒険者、恐竜になる

アルパカ状態の仮面冒険者に後方警戒を頼んだ黒猫ハーバリウムのメンバー達。

池袋ダンジョン36層も森や川など自然溢れる階層だった……はずなのだが。



「え?……え?」


異変に気付いた綾覇らは唖然としていた。


:何があった?

:これは絶対アルパカが何かやらかしちゃったパターン

:何したか当てようぜ?

:コメント欄がクイズ大会もしくは大喜利状態になってて草

:振り返ってみたら一面火の海でももう驚かん

:撮影ドローン回れ右ッ!!



「あの……アルパカさん?」


前衛にいた綾覇が一旦アルパカと会話する為後衛職の碧偉・龍美・清楓よりも下がると撮影ドローンは反転した。


:なんじゃこりゃ炎の壁?

:アルパカ巨大化したのか?



綾覇を映す事を最優先に動作する撮影ドローンでは何が起きているのかイマイチ要領を得ず、視聴者たちは困惑していた。


「どうして恐竜みたいな姿になっているんですか?」


:え?恐竜?

:どゆこと?


「森での後方警戒は難しいなと思ってもっと俯瞰できる姿になった方がいいかなと。それに大きい方が君達の盾になれる」


:周囲警戒の為に視線を高くしたい(わかる)

 大きい方が盾になれる(わかる)

 だから恐竜になる(わからない)

:人間は盾になる為に大きくはなれないのよ普通

:視聴者目線だと炎の壁がしゃべっとる

:もうアルパカ専用ドローンないと駄目だろ

:アルパカ(恐竜)



「アルパカさんでっかーい!恐竜はじめてみたー」

「ブラキオサウルスって言うんだ。森を食べ尽くす恐竜って言われたんだよ」

「へー」


:清楓ちゃん恐竜初体験

:さやか、それ恐竜ちゃう魔法や

:この人、どんなスキル天稟手に入れてこんな事になってんの?

:冒険者スキル考察スレでも炎系魔術もしくは幻術なんじゃないか?とは言われてたけど

:魔術研究スレではあれは魔法じゃないんじゃないか?って意見もあったらしい

:一度アルパカ質問配信やって欲しいな

:表舞台を嫌ってた冒険者が手の内明かすとは思えん



「後方の魔物は俺が間引いていくから心配しないでいい。君達は前線に集中してくれ」

「は、はい」



:後方魔物蹂躙決定

:森を食べ尽すブラキオサウルスって森さんも蹂躙決定

:なんかもう池袋36層さん、お気の毒様です

:ま、まだ!36層には川があるからッ!

:水棲魔物もアルパカの前じゃ焼き魚にしかならんだろ


綾覇らは快調に38層まで踏破していった。


「次回層の階段の時はアルパカに戻るんですね」


龍美はどこか遠慮がちにアルパカに接していた。


「恐竜のままじゃ階段は窮屈だからな」

「あの……」

「どうした?」

「もうちょっとちゃんとした名前を教えてもらえませんか?」

「配信上とはいえもう一緒にダンジョンを潜る間柄になったんですし動物の名前で呼び続けるのも失礼かなって……」

「なるほど。そうか」


:おお。龍美ちゃんから名称変更の提案が

:レッサーパンダや恐竜に『アルパカさん』って呼ぶの違和感しかないんだろ

:今はアルパカ(人間)さんなんだよなぁ

:この配信見てると脳がバグりそう


「じゃあ炎で」


:今度はそうなるのか

:見たまんまだな


「炎さん……」

「何十万もの視聴者が見てる配信だしシンプルが一番。ネーミングセンス絶望的wとか言われたくないんで」



:無難オブ無難

:完全に逃げてるな

:やっぱりメンタルは弱そう

:存在としてはデタラメにも程があるけどな



「ネーミングセンスって言われちゃうと私も美しい龍なんで人のことそんなに言えないです」

「その名前君に似合ってると思うよ」

「!」


:おいおいこのアルパカ、りゅみちゃんをサラッと口説いてないか?

:アルパカ如きに絆される黒猫のクールビューティー担当じゃないぞ

:でも以前の龍美ちゃんとは全然違うのよ

:そもそも黒猫ちゃん達今まで男と絡むシーン全くなかったからな

:今絡んでるのもアルパカだからな

:推しがアルパカに口説かれるってどんな気分よ?

:人によるけどやっぱりショックで発狂するヤツもいんのかな?



その時だった。


「龍美を口説いてんじゃねえぞ!!パカ野郎ッ!!」


38層から39層へ降りる階段の途中にあるセーフティーエリアでくつろいでいた綾覇らは突然の怒声に驚き、声がした方を見やる。


その先にはフェンリル神狼の仮面をした白銀のローブの男がいた。

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