No.039 古のデモネシア
罠を解除した先は長い洞窟になっていた。ペニーが先行して、追従するようにアレックスが罠の策定を行っていく。他のメンバーは、皆それぞれに警戒にあたる。リーダーであるリチャードは殿、その手前にカリンダ、マイケルといったポジションだ。
俺はペニーとアレックスの動きに関心があり、彼らの近くにいる。偵察隊らしい動きと、罠に敏感な魔術師の連携は、それは素晴らしいものだった。確かにこいつらは育てればA級になるだろう。そんな事を思っていた矢先――
「何だ、てめぇら! おい、野郎ども! 侵入者だっ!」
見張りの賊の一人に気付かれてしまう。すかさず、矢を放ったペニー。その矢は、賊の喉を貫き、それ以上の言葉を発する事はできずに、倒れ込んだ。そこに、アレックスが火の魔法で遺体を静かに燃やす。
すげぇな。よく鍛錬されてる。だが、その声で気付いたのか、狭い洞窟の中に三、四人の賊が現れた。すると、ペニーとアレックスが下がり、代わりにマイケルとリチャードが前に出て、そのすぐ後ろにカリンダが控えるポジションに早変わり。
「賊ども、金に困っているなら、我が国には仕事はたくさんある。仕事を提供する。投降を勧める」
リチャードの一言に、賊たちの一人は、明らかに動揺していた。他の二人は、頑なに拒否するような発言を繰り返している。
「てめぇらみたいな、お国の飼い犬に、俺らの気持ちは分からねぇ! クソみてぇな税金のせいで、一家離散したんだ。恨みは晴らさせてもらうぜ!」
一人が斬りかかって来る。明らかに素人。素人相手なら、刃物の分有利だろうが、このメンバーにそれでは無意味に等しい。それをあっさりと双剣で受け流したマイケルが、
「死んでも後悔はないんだな?」
「もう失うものなんて何もねぇんだよ!」
と言いながら、再度斬りかかる。マイケルは受け流した。力の差は歴然。殺す必要もないんだが、諦めずに挑み続ける賊の男。それを受け流すマイケル。
「貴方は、皇帝が変わったのはご存じですか?」
「へ?」
マイケルのやり取りに、カリンダが口を挟んだ。すると男は手を止める。そして、カリンダの言葉に耳を貸すようだった。
「貴方が恨んでいる皇帝は、レオン四世ではありませんか?」
「ああ、あのクレンだ! 私腹ばっかりこやしやがって」
「でしたら、彼はギロチン刑により、すでに死んでおります」
「へ? じゃ、今は誰が皇帝に?」
「このお方です」
カリンダが俺を紹介する。俺を見た賊の男は、目を丸くしている。そして、笑い始めた。
「冗談言ってんじゃねぇよ、嬢ちゃん! そんな若造が皇帝な訳ねぇだろ、なぁ、皆?」
他の面々は険しい面持ちでありながら、苦笑いを浮かべている。
「このお方はS級冒険者でもあり、元モンク僧でもあります。グレン・ゾルダート陛下です」
「へ、マジで? 嘘だろ? たかが賊狩りに皇帝自ら乗り込んで来るか?」
攻撃の手が完全に弱まった賊たちに、俺は前に出る。
「すまねぇな、前皇帝の酷い政治は俺が倒した。俺は望んだ訳じゃないんだが、今は皇帝として扱われている。気軽にグレンと呼んでくれ」
その言葉に、賊たちは顔を見合わせて、明らかに動揺している。
「お前たちの不満は具体的には分からんが、今のラベルンロンド連邦政府は、民と共に幸せになるべく、貴族も自分の財産を切り崩し、税金も無理のない範囲にまで下げ、復興のために仕事もたくさんある」
俺の言葉を聞いて、一人の賊が口を開く。
「こ、こんな真似してたっていうのに、許されるのか?」
「まぁ、多少の罪は償ってもらうが、基本的にはレオン悪政の被害者として、恩赦はあるだろう」
「マジかよ……」
「どうするよ?」という賊たちの会話が始まる。このまま順調に降伏してくれれば楽でいいのだが――
『騙されてはなりません』
そんな状況に、賊たちの後ろから声がした。このトーン、この雰囲気――
「おい、お前ら、警戒しろ、デモネシアだ」
俺の言葉に、警戒を強めた面々。賊の連中はブルっている。
『さあ、そいつらを殺していまいなさい。それが貴方たちの救いになります』
上手にホミニス語を話すデモネシアだ。内容もアリエル教団かと思うような言い回し。こいつは、厄介そうな相手だな。
「気を付けてください。この声には
アレックスの声に合わせて、カリンダは魔術を発動し、俺たちに含め、賊たちも包み込んだ。
「あれ? 俺、何しようとしてた?」
マイケルは、両手に剣を構えている自分に驚いていた。
「
「……僕は、魔術耐性が低いのか」
マイケルがガックリ肩を落としたところで、奴が姿を現す。両耳の脇から鋭い角が二本生えた美しい黒髪の真っ青な顔をした女だった。黒いドレスを着ており、まるで未亡人のような風貌だった。
「お前がこの賊の元凶か」
『わたくしの術を避けるすべを持つ者が現れるとは思ってもいませんでした』
ニコりと浮かべると笑顔は、美しさの中に不気味さを含んでいた。
「おい、賊ども、ホミニスらしい生活をする気があるなら、俺たちの後ろに回れ、そのまま死にたいなら、そこにいろ」
俺の言葉に、一人の賊はそそくさとペニーたち後衛の後ろに回り、プルプル震えている。後の二人は、俺たちとデモネシアの女を交互に見て、覚悟を決めたのか、こちらを向いた。
「お前らの話も魅力的だがな、俺たちはセリアン様に付いて行くって決めたんだ」
『我が可愛い子たちよ、さあ、彼らを仕留めてしまいなさい』
「せっかく和解をもちかけてくれたけど、悪いな! 死んでくれ!」
斬りかかる二人を、マイケルがあっさりと首を飛ばす。
「せめて、楽に死んでくれ」
そんな呟きが聞こえた。そのまま倒れた頭のなくなった体に、アレックスは火を付ける。
「ペニー、そいつ連れて町に戻ってろ」
「はい!」
「リチャード、お前はペニーの護衛で一緒に並走しろ」
「了解です!」
俺の指示に従い、彼らはスムーズに洞窟を脱出した。残った俺、マイケル、カリンダとアレックス。さて、どうしたもんか。せっかくホミニス語喋れるみたいだしな。デモネシアと会話できる機会なんて、そうあるものでもない。俺は、皆を制して、前に出る。
「俺は、ラベルンロンド連邦国皇帝のグレンだ。お前はセリアン、であってるか?」
『いかにも。しかし、皇帝自ら、この程度の規模の賊狩りとは、酔狂なものだな』
「戦う前に、せっかく言葉が通じるみたいだから、世間話しないか?」
俺の問いに、セリアンは一瞬首を傾げたが、その後、ニヤりと微笑む。
『いいだろう。良い暇つぶしになりそうだしな』
「あんたは、どのくらい前からここにいるんだ?」
『はっきりとは覚えておらんが、ラベルンロンド連邦ができる前からいる』
その答えに、パーティ一の知識人、アレックスが驚く。
「500年以上前!?」
『我らデモネシアは種族にもよるが、短くても千年、長い種族なら万年生きる者もおるぞ』
「長生きなんだな」
『ホミニス族と比べれば、確かに長生きなのだろうな』
「あと、あんたは今、デモネシアがまとまってるのは知ってるのか?」
『ああ、ネロのガキがまとめた話だな。もちろん知っている。私も呼ばれたが断った。今の暮らしと今の場所が好きだからな』
「デモネシア族の王はネロって言うのか?」
『ああ、17年ほど前になるか、生まれながらに言葉を話し、優れた記憶力、誰にも負けぬ力を持ち、あろうことか、同じデモネシアに対して、愛情があるのだ。全く理解できん』
これは良い話が聞けたぞ。てか、あの王って俺と同じ年かよ。同じ年で強さが桁違いとか勘弁してくれよ。
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