No.038 賊狩り

 平和な暮らしが一カ月も続くと、体が疼いて来るものだ。そんな中、賊が出ているという西のカランドーラという街の話題が会議で上がる。


「たまには俺も参加しよう」

「陛下自ら賊狩りですか?」

「ああ、体が鈍って仕方ないからな」


 会議に参加する皆が動揺している。「陛下自ら賊狩りなど、前代未聞だぞ」と皆、口を揃えて、配下に任せて欲しいと言うのだが、俺は断固として行くと譲らなかった。


「なんだ、お前ら、俺が心配か?」

「め、滅相もないです! どちらかと言えば、賊が心配です!」

「あはは、面白い事いうな」


 俺が皆に問いかけると、一人の貴族がそう口にして、爆笑を誘っていた。という訳で、俺はカランドーラの賊狩りに乗り出す事にした。


「スケジュール的には?」


 俺の問い、ジェラールが資料に目を通して回答する。何と、賊如きに一週間もかけるのだという。


「カランドーラまで馬車で何日だ?」

「一日あれば着くと思います」

「なら、二日あれば十分だろ。俺一人で行って来る」

「え? ま、待ってください陛下! それでは部下の仕事を奪ってしまいます」


 その言葉に、納得する部分もあった。こういった害獣討伐や賊狩りなどの業務を受ける警備兵団があるのだ。彼らの仕事を奪うのは、確かに良くない。だが、俺は疼いている。


「分かった、百歩譲ろう。ジェラール、先日話していたS級、A級になれる可能性のある兵士たちを俺に付けろ。連れて走る」

「え? いきなりそんな事可能ですか?」

「俺は、冒険者になった初日から馬車で一週間のところまで、二日で走ったぞ?」

「……分かりました。招集しておきます」


 招集されたのは五人の者だった。見るからに素質を感じる者たちだ。良い目してるな。


「初めまして陛下、私はマイケルと申します」

「お初にお目にかかります陛下、わたくしはペニーです」

「お会いできて光栄です、自分はリチャードと呼んでください」

「カリンダと申します。陛下の足を引っ張らないように努力します」

「アレックスです、よろしくお願いします」


 男性三人、女性二人という構成で、マイケルとリチャード、は双剣士、ペニーは弓師、カリンダは治癒術師、アレックスは魔術師という紹介だった。すげぇバランス良さそうなメンバーじゃねぇか。力量は分からないが全員B級以上なら、賊狩りくらいなら、こいつらだけでも余裕で討伐できるだろうな。


「なら、ジェラール、留守を頼むぞ」

「畏まりました。いってらっしゃいませ」

「おい、お前ら、付いて来いよ」

「「「「「はいっ!」」」」」


◇◇


 予想外だった。到着までに走ったせいで三日かかっていた。特にカリンダ、アレックスという術師たちは体力面では厳しいものがあったようだ。意外だったのは、一番速かったのはペニーだった。次がマイケル、リチャードが似たり寄ったりだが、少しだけマイケルが上ってところだろう。


「予定より二日遅れたな……」


 それでも、誰一人脱落する事なく、付いて来たんだから、良しとするか。逆に、早く着かなかったおかげで、野宿という訓練はできた。食料になりそうな獣を探したり、水を探したりと、寝ずの番を順番に回すといった対応で少しは成長しただろうか。


「さてと、賊についての情報集めをするか、各々自由に集めてくれ」


 俺はカランドーラの酒場へまず向かった。客がいなかった。店主の親父に話を聞く事にした。


「賊を狩りに来たんだが、奴らの寝床に心当たりはねぇか?」

「おや、旦那、軍の方には見えないですね。冒険者ですか?」

「まぁな」


 久しぶりに手帳を見せると、親父は目を丸くする。


「S級……最近、よくS級の方が来られますね」


 そう、実はこの一カ月の間で、俺は冒険者組合から呼び出され、S級手帳を受け取っていたのだ。って待てよ、良く来られる? 俺は初めてだぞ?


「他にもS級が来たのか?」

「ええ、右腕のない方でしたね。何でも世界中の知り合いの冒険者に声をかけて回ってる旅をしていると言ってましたね」


 右腕がないS級。世界中の知り合いを回ってる。この二つで、心当たりは一人に絞られた。レナードだ。レナードはここに来ていたのか。


「後は、飛竜を連れた炎魔術師だという方が、先日来られていましたね」


 飛竜を連れた炎魔術師……聞き覚えがあるぞ。どこだった? 思い出した。レナードたちと初めて出会ったあの時のパーティの魔術師が炎魔術師で、飛竜使いだったな。名前は確か……ルイだったか。


「あとは、もう亡くなってしまいましたが、アローグさんはうちの常連さんでしたので」

「……そうか」


 双剣士アローグ。元S級だって言ってたもんな。


「戦争なんて、ろくなもんじゃないですよね。アローグさんも戦争なんて参加しないで、冒険者してればよかったんです」

「ああ、戦争なんてろくなもんじゃねぇ」


 店主の親父の言う通り、アローグがもし、冒険者のままだったら、デモネシア戦線に協力を依頼していただろう。考えてみたら、惜しい人物を失ったものだ。


「で、何か情報を持ってないか?」

「カラン山の麓の洞窟を住処にしているというのが、専らの裏さです」


 カラン山とは、カランドーラの北西にある標高の高い山だ。アリエル教徒は聖地として巡礼する事もあるらしい。


「そうか、情報ありがとな。これ、取っといてくれ」


 金貨を渡す。


「こ、こんな大金、よろしいんですか?」

「俺はこれしか持ってねぇんだ、これからも冒険者たちを助けてやってくれ」

「ありがとうございます、旅のお方」


◇◇


 中央には、噴水があり、過去の英雄だという銅像が飾られた広場が広がっている。あの英雄がドーラ。双剣士だったらしく、両手に剣を持っている女性だ。カラン山の麓の英雄ドーラの街という事で、カランドーラと呼ばれているそうだ。


 俺が情報収集を終え、事前に伝えておいた集合地点の中央広場に向かうと、すでに皆揃っていた。


「どうだった?」


 俺の質問に、どうやらこのメンバーの中ではリチャードがリーダーのようで、彼が皆の情報をまとめていた。住処はカラン山の麓の洞窟で間違いないようだ。しかし、妙な話も含まれていた。


 裏で組織を操っているデモネシアがいる、という物だ。


 きっと、レナードの言っていた、昔は狩りで生計を立てる事ができた、デモネシアは散発的に動いていたという流れでまだ生き残ってる古いデモネシアがいたという事だろうか。


「デモネシアか、ちょうどよかったな、俺が出張ってて」


 皆、俺の言葉に安心したように同意している。どのくらい強いデモネシアか分からない以上、B級程度では殺されてしまうかもしれない。せっかく育てるための旅なのに死なれては元も子もない。俺が守ってやらないとな。


「なら、麓の洞窟を探すとするか」


◇◇


 ペニーは偵察隊も兼務できるため、非常に有能だった。先行して索敵、さらに天性の勘とでもいえばいいのか、彼女曰く「わたくしが賊だったら、たぶんこっちです」と、的確に相手の心理を読み、見事に洞窟まで辿り着いて見せるのだった。


「ペニー、お前、すげぇな」

「い、いえ……ありがとうございます」


 俺は素直に感心した。真似しろと言われてもできねぇ。こういう才能を持つタイプもいるんだなと、つくづく驚いた。

 そんな俺をよそに、中へ先行しようとするペニーを制したアレックス。


「あ、ペニー、待ってください! これは罠の術式ですね、解除しますので少し時間をください」

「あ、ああ」


 俺は全く気付かなかったぞ? こいつら優秀だな。俺なんかよりずっと……やっぱり街育ちと田舎の集落育ちじゃ、同じくらいの年齢でもこうも違う物なのか、と返って良い勉強をさせてもらっている状態だった。

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