No.026 作戦会議
反乱組織メンバー全体に、俺の存在が伝わったようだった。その報告を家で待つ俺とリリスにガハードがしてくれた。ついでに、俺はリリスと結婚する旨を伝えると、
「そうですかそうですか、それはとても有難いお話です。ぜひ、娘をよろしくお願いします」
「家事もあまり出来ずに育ちましたので、ゴホッゴホッ、ご迷惑ならければ良いのですが……リリス、ちゃんとグレンさんに尽くすんだよ」
などと、リリスの両親からは快諾されてしまった。ついでに、この戦争を止めれば、ナスツールの南方の戦場に行く旨も伝えたが、治癒術も使えるので連れて行ってくださいと言われてしまい、何の問題もなく、俺とリリスは結婚した。
といっても、どうやら、この国では何か手続きを踏んだり、儀式を行うなどのしきたりはないようで、両親がアリエル様に誓うか、というアリエル教団方式の愛の誓いを交わす程度だった。
「えへへ、あたし、リリス・ゾルダートだよね?」
「ああ、そうだな」
「えへへ」
その後、二人きりになるとリリスはべったりと俺にくっついていた。いや、良いんだけど、嬉しいんだけど、状況的にそういう気分じゃないっていうか。
「分かってるよ、戦いの最中だもんね。でも、今は二人きりなんだから、こうさせて」
まるで俺の気持ちを察していたように、リリスはそう告げて、もたれかかって黙っていた。この光景に違和感しかなかった。村ではロビンが英雄で、俺は悪党だった。女どもは皆、ロビンロビンと騒いでいた。いつだって、そんな状況不満だった。だから、不貞腐れた態度を取っている節もあった。
そんなに俺に、こうして全力で愛をぶつけて来てくれる女ができたのだ。
やっぱ違和感しかねぇな。
◇◇
その日の夜の集会で、各地の主要メンバーが集まっていた。各地リーダーはA、B級冒険者程度の強さはあるように見える。だからか、結構遠いところからもすぐに駆けつけていた。
「弟」
「何だ?」
「一応な、ここにいるのはこの街周辺の反乱組織メンバーだが、反乱組織は何個もあってな。首都にもあるし、南の街、東の街にもあるって噂だ。連中を焚きつけられれば、ますます混乱すると思うぜ? どうする?」
良い作戦ではある。だが、日数が足りない。もうすでに三日だ。俺がバイセルたちと交わした約束の期日まで四日しかない。その旨を伝えると、サイモンを筆頭に、メンバーの皆首を傾げて考え込んでいた。
そもそも、単独で隠密の方が成功率は高いように俺は思っていた。だから、彼らには陽動をしてもらえれば十分だと思っている。
「首都へはこのまま街道進んで入れるのか?」
「少し難しいな。この村の東以上に警戒が厚いぜ」
「そうですね、普通に考えれば、城壁を乗り越えるか、入り口を何らかの方法で無人にするしかないと思います」
サイモンとガバードの言葉から、ヒントを得る。
「城壁は東の壁より高いのか?」
「いや、あそこまで高くねぇよ、何でだよ、弟」
「なら、俺は登れる」
皆、合点がいったように頷いていた。どうして、あの壁のあるナスツール側から入って来れたのかを疑問に思っていたようだ。
「せやけど、ほんまビックリやで。あのえらい高い壁、登りはったとは思わへんかったで」
イワンも驚いたようで、目をパチクリしていた。
「よし、決まった」
俺の言葉に、皆の視線が集まった。
「決行は明日の夜だ。お前らには、夕方から騒ぎを起こして、城内の兵を少しでも減らしてほしい」
「なら、俺らもこの街から出て、首都の周りで騒げぎゃいいんだろ?」
「そうだ。敵の目を惹きつけてさえくれればいい。死ぬような真似はしないでくれ。危なくなったらすぐ逃げろ。これは俺からの命令だ。逆らう奴は殺す」
その言葉に、皆ピリッとして恐怖を浮かべていたが、リリスがその言葉を優しく変える。
「グレンはね、皆に死んで欲しくないから、死ぬほどは頑張るなって言ってるんだよ! 死ぬほどの状況になる前に逃げて、生きてて欲しいんだって。ね?」
リリスの声と言葉に、皆が考え込んだ後、頷くと同時に笑っていた。
「そうだな、弟は逆らえば殺すと言ったけどよ、死なないように逃げろって命令もんな。俺らを思いやっての命令って事だな」
「ん、まぁ、なんだ、そんな感じだ」
「了解だぜ、ボス! なあ、皆だって、死ぬのは御免だよな」
頷く一面。その様子に少し安心した俺は、作戦説明を続ける。
「皆が陽動して、兵を惹きつけている間に、俺は南東の壁辺りを登って城下町に侵入する。そして、そのまま、奴らに見つからないように城に侵入するつもりだ」
「待て待て待て! ってことは、弟だけであの中に行くのかよ?」
「ああ」
サイモンの質問に頷いた俺を見て、顔を見合わせる面々。
「せやったら、わてら、今までとやってた事と大差あらへんで?」
イワンの言葉に、俺は頷いた。
「ああ、今まで以上の危険を冒す必要ない。後は俺が片付ける。元々一人で片付けるつもりだったんだ。協力して、陽動のタイミングを合わせてくれるだけで、かなり助かるのが本音だ」
その言葉に皆が目を丸くしている。そりゃそうか。一国を倒すのに、単身で乗り込もうってんだから、常軌を逸してるわな。
「安心してくれ。失敗する気はない。言い方は悪いが、中に入ったら、俺一人の方が動きやすい」
「……そらそうだ。アローグ倒しちまうほど強ぇんだから、俺らが付いて行っても足手まといでしかねぇな」
「……率直に言えばそうだな。文句がある奴はいるか? 俺に勝てたら内容を変更しよう」
重い沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、ガハードだった。
「私たちは願ったり叶ったりですが、よろしいのですか、グレン様は?」
「何がだ?」
「お独りでそんなリスクをお抱えになって」
「ああ、そんなにリスクじゃねぇよ。理由は二つある。一つ、お前らが教えてくれたように、アローグ程度でこの国で最強だというなら、俺なら全員一撃で始末できる自信がある。アローグも一撃だったからな」
その言葉に、皆顔を青くしていた。
「そ、そんなに強かったのか、弟……」
「まぁな、今の俺が負けるとすれば、デモネシアの王くらいか」
その言葉に、皆はどよめく。
「そないにデモネシアの王は強いん?」
「化け物だ。実際に対峙した俺の兄貴分、レナードが「俺が十人いても勝てねぇ」と言っていたくらいだからな。まだ、俺も勝てないだろう」
「は? レナード十人? 帝国軍潰せるレベルだぞ、それ?」
「そうだな、サイモンの言う通り、最盛期のレナードが十人いたら、ホミニス族の世界を統一できただろうな」
右腕があれば、きっと今、ここにいた。喉から出かかった言葉を俺は無意識に飲み込む。
「それと、もう一つの理由は、ホミニスの権力者は金とコネがあるだけのザコばかりだ」
この言葉には爆笑が起きた。「違いねぇ」ってあちこちで笑っている。
「そういう訳だから、俺の心配はいらない。お前たちはお前たちの心配をしてくれ」「あいよ、ボス」
「分かりました、グレン様」
「ほいな」
それから、俺はリリスを見る。首を傾げたリリスに、
「リリスは陽動作戦の少し後方で、陽動中に出た怪我人の処置に当たって欲しい。この中で何人か、戦闘に自信のある者で、リリスの護衛を頼む。大切な治癒術師、陽動作戦の死者を出さないための生命線だ。最優先で守りたい」
「「「分かりました! 俺たちにやらせてください!」」」
今回の集会で初めて見かけた青年三人が返事している。強さ的にはC級冒険者程度だろうか。まあ、帝国軍は急増させたせいか、一般人が武装しているだけの兵士が多いから大丈夫だろう。
「お前ら、勝てそうにない相手が来たら、迷う事なく逃げろよ。リリスもな」
俺のその言葉に、皆頷いているのを見て、俺も納得して頷く。
「以上だ。解散する」
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