第3話 Part.2


「おい!大丈夫か?!何があった?」


 范睿は徐懍のところへ急いで近づき、彼の手をとる。その手はひんやりと冷たかったが、どこにも傷一つついていない。


「大丈夫。俺の特能が守ってくれたから」

「そうか。なら良かった」


 范睿は徐懍の手を放す。そして、気まずそうにそっぽを向いている刘星宇に渾身の声で怒鳴った。


「このばか!!新しい道具の実験台にこいつを使うな!新しい道具を開発したらそのたび俺に報告しろって言っただろ」

「……だって今さっき出来たんだし」


 刘星宇は口先で文句をぶつぶつと言っている。

(こいつ、何回目なんだよ?!いっつも人のことを実験台にしやがって、徐懍が怪我したらどうするつもりだった?!)


 范睿は今回ばかりは我慢できないと思い、右手をぎゅっと握りしめる。

 すると、それに気づいた刘星宇は「徐懍先生!徐懍先生!」と何度も名前を呼んだ。

※先生は中国で〜さん、〜様を表す


「いや〜ほんとに徐懍先生は凄すぎる。僕の作ったこの“特能測定機”六代目が壊れるなんて。恐れ入った!」

「特能測定機?」

「あぁ!これです、これ」


 刘星宇は床にばら撒かれた部品を集め、腕につけている時計のような機械を見せる。

 普段は自慢げな表情をする彼だったが、今は必死さが顔全体に現れており、額には薄っすらと汗をかいていた。


「腕時計みたいな形にしてるのは相手にバレないように。特能を受けたら一から十までの十段階で判断できるようにしたんだけど、やっぱり規格外の特能には耐えられない!こんな爆発を見たのは所長に試した以来だよ!」


 刘星宇は興奮したのか鼻息を荒くし、じっと徐懍のことを見つめる。

 范睿は再びため息をつき、手に持った依頼者リストを丸め、刘星宇を叩いた。


「新しいメンバーが強すぎて興奮するのは分かるが、落ち着け。今のお前、気持ち悪いぞ」

「きもい」


 必死に水飴を練っていた沈思妍も参戦する。


「みんなそんなこと言わない!僕泣いちゃうよ?!いいの?だめだよね?」


 刘星宇は顔を両手で覆い、グスグスと鼻を鳴らす。しかし、彼は指の隙間から范睿達の様子をうかがっているのが丸わかりなので誰も本気にはしない。


「泣けば?道具も失敗したんだし。強い特能人の少しの力で壊れるんだから、弱い人が本気の力を出したら壊れるでしょ」

「まぁ、確かに。設計が甘かったことは認める」


 刘星宇は泣く真似をやめ、椅子に座る沈思妍を見下ろす。

 沈思妍は厳しい言葉を続けた。


「もう無理なんじゃない?刘星宇が作れないって」

「いや!!そんなことない!僕は諦めないぞ!」


 刘星宇は自分の机から年月が経ち、茶色く日焼けをした本を取り出し、これが証拠だ!と言う探偵のようにみんなに見せた。


「今から千七百年前、炎帝が特能を測る道具を作った、とここに書いてある!大昔の人が出来たんだ。今は科学のおかげで色んなものが発展してきてる。今の僕に出来ないわけがない!」


 范睿は自分の持つ書類と刘星宇の持つ本を交換し、ページをペラペラめくってみる。そして一文字一文字をしっかり見ながら解読を試みる。

 しかし、たったの数分で読むのを諦めた。


「……こんなの読めるやつがいるのか?」


 本に書かれていた文字は個性強く、かつ書き崩されており、その一つ一つが何の文字か認識するのさえ困難だった。それに古典を全く勉強していない范睿には分かるはずがない。


「やっぱり所長にも分からないですよね〜。僕も古典は得意なんですけどこれに関してはさっぱり!何ヶ月もかけてやっとこの数行を読めたんです!」

「だろうな。この本を一生かけても読めない自信がある」


 范睿はそう言いながらも再び読もうと試みる。

 しかし、その本は徐懍によって奪われた。




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