第3話 Part.1 特能事務所
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范睿が事務所のドアをひくとチリーンと設置されたベルが鳴った。
特能対策部、范睿の事務所の中の作りは非常に単純で人数分の机が並び、そこで書類や依頼の処理をする。
しかし、勤務時間にも関わらず、そこにいるのは小さな少女一人。その少女はヘッドホンをしており、范睿達が来たことに気づいていないよう。忙しくパソコンのキーボードをカタカタと叩いている。
范睿はその少女に早歩きで近づき、ヘッドホンを頭から取った。
「もう……!なに?いいところだったのに!」
パソコンの画面を指しながら、その少女、沈思妍は范睿を睨みつける。
「ゲームをしていいとは言ったが、ヘッドホンをしていいとは言ってない。せめて来客が分かるようにしておけ」
「……はーい」
耳をよく澄まさないと聞こえないくらいの小さな声で拗ねた返事をする。沈思妍は范睿の手からヘッドホンを奪い取った。
「沈思妍。今日は新しいメンバーを紹介するために来たんだ」
「やっぱり。何も無いのに所長が事務所に来るわけがない」
沈思妍はパソコンを再びカタカタと叩きながら、横目でちらっと范睿の後ろにいる徐懍を見た。
その瞬間、パソコンを素早く閉じ、范睿を引き寄せ、後ろに隠れる。
「誰……?」
「こいつは徐懍。特能人だ。氷の特能を持ってる」
沈思妍は范睿の服の裾をぎゅっと握る。
「……その人、変。怖い」
「そりゃーこんな美人さん、国内探したってそうそういない。ほら、沈思妍。俺の横に並んで自己紹介するんだ」
范睿は沈思妍の固く握られた手を開き、肩をトントンと勇気づけるように優しく叩いてやる。
「……私は沈思妍。十二歳。沢山の情報から推理する能力を持ってる」
「こいつはうちの最年少だ。見ての通り、ちょっと人見知りでね。もちろん雇ってはいないぞ。人手不足だからこうやって時々手伝ってもらってるだけ」
范睿はポケットから、水飴を取り出し、沈思妍に渡す。
彼女は机の引き出しから割り箸を取り出し、早速練り始める。嬉しさに表情筋を制御出来ていない彼女はこの時だけは笑うのだった。
「なんで水飴?」
徐懍は首を傾げ、小さな声で范睿に聞く。
「あいつの家は厳しくてお菓子とかが食べれないんだ。だからこうやって、秘密で食べさせてる。お駄賃の代わりだな」
范睿はポケットの中から徐懍に似合う、透き通った青の水飴を取り出そうとする。彼をどうやってからかおうか、悪い笑顔を浮かべた時、事務所のベルが大きな音を立てた。
「やっと、やっと完成したぞ!思妍、これを見てくれ!」
白衣を着た男は一直線に沈思妍のもとへ走っていく。
沈思妍は嫌な顔をして鼻をつまんだ。
「汚い!臭い!あっち行って」
「そんなに言わなくていいだろう?確かに二週間は風呂に入ってない」
キャーキャー走って逃げ回る沈思妍を男は満面の笑みでしつこく追いかけ回す。
「あれは?嫌われてそうだけど」
「あぁ……あいつは刘星宇。電気系の特能人で一応、ああ見えて天才なんだ……」
范睿は額をおさえながら下を向いてため息をつく。個性的な所員をまとめるのも所長の大事なお仕事だ。彼は「刘星宇」と威厳のある声で呼んだ。
すると刘星宇は目を輝かせて范睿に抱きつく。
「あ〜〜!所長来てたんですね。お久しぶりです。ずっと来ないから心配してたんですよ。あぁこれで助かった。やっぱり所長がいないと依頼が全く進まなくて、見てくださいこれ」
一人でベラベラと喋りだした刘星宇は十枚ほどの分厚さの書類を范睿に手渡す。
そこには依頼した人の個人情報と猫探し、トイレ修理、など警察の機関とは思えない依頼が並んでいた。
「警察の機関なのにこんなこともしてるの?」
徐懍は范睿の背中に回された刘星宇の手をはがす。
「あぁ。警察署からの依頼は少なくてそれだけしててもこの部署を維持できない。だから何でも屋をしてるんだ」
「所長〜!誰ですかこの人!めっちゃくちゃ綺麗じゃないですか?!」
二人の雰囲気をぶち壊す能天気な刘星宇が目をまん丸に開いて、徐懍のもとへ近づく。彼は興奮のあまり特能が制御できておらず、バチバチと体から放電していた。
范睿は刘星宇から距離を取る。
電気と炎の関係は最悪だ。お互いの特能がぶつかると大火災を起こしかねない。
「あなたって特能人でしょ?じゃないとこんなに綺麗な人、芸能人でも見たことないよ!僕は刘星宇。呼び捨てでもいいし、好きなように呼んで!」
刘星宇は徐懍と握手をしようと放電している状態で手を伸ばす。
徐懍は彼の手をちらっと見たあと、何事もないかのように手を握った。
「俺は徐懍。氷の特能を持ってる」
その瞬間、刘星宇の腕から凄い爆発音がした。
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