第6話 朝

「──眠い……こんなに家を早く出るのは久しぶりだな」


 嘘をもみ消すため、朝から遠回りをして学校に行かなければならない事になった。好きな人と一緒に行けるなら良いのだが、さすがに眠すぎた。昨日の内には時間もしっかり計算したが、予想を軽く超えて行った。


 時間ピッタリに蒼さんの家の前に着く。


 二階の窓からひょこっと顔を出し、こちらを覗く影に気づく。少し目が合ったと思ったらすぐに影は消えてしまった。その数十秒後にガチャっと玄関から音が聞こえる。


「お、おはよう」


「ぉはよ……」


 緊張からか、眠いからか、声がちゃんと出なかった。


 朝から蒼さんに会え、挨拶も出来る。来て良かったと幸福に包まれながら神に感謝する。


「──あっれ〜樹くんがいる!?」


 ふと後ろを振り向くと、茜さんがいた。盲点だった。いつも2人で来ているのだ当たり前だろう。2人だけとか想像してしまった僕が馬鹿だった。


「おはよっ」


「お、おはよ」


 ぎこちない挨拶しかできないのか? と、自分でも思ってしまうほどだ。


「それで〜蒼〜どういうご関係で〜?」


「そう言うのじゃねーよ。か、勘違いすんなし!」


 困ってしまうのも無理は無い。茜さんのストーカーとして見られてしまっている俺をどうやって茜さんに言うと言うのか。これをそのまんま言われたら困るのは僕なんだがな……


「……偶然ここてで会っただけだから」


 完全に時間指定までされて呼ばれたのだが? 本当のことを言われたら困るからありがたいけど。


「まぁ、いいや学校行こ?」



 茜さんという蒼さんの親友が居ることにより僕との会話が少ない。考えて見ればそうだが、やはり喋りたい。


「──樹くはどう思う? やっぱり可愛いよね〜?」


 唐突な振り。正直あまりついていけなかったから流していた。


「う、うん、可愛いと思うよ」


 何の話だ? またどうせよく分からない変なキャラクターなんだろうな……最近の人気になる物の良さが全く分からない。何とかウサギとかか? それともあのちっさいやつの話だったか?


「ほらー樹くんも可愛いって〜」


「お、お前は何を言ってんだよ!?」


 なんかめちゃくちゃ蒼さんが焦っているが何故だろうか。まさか……解釈の違い!? 蒼さんは可愛くないと思っているのか!? ともなればやっぱりと言って変えるか? だが、質問自体がよく分かっていない。もしこれが俺も本当に好きなものだった場合を考えると安易に変えることは出来ない。だが、この答えのままでもいいのだろうか? 覚えてる会話の記憶から今何を話していたかを考えて──


 少し顔が赤くなっている蒼さんの事は知るよしもない。


 あまり有益な情報を聞けなかったが、思い出としては素晴らしすぎる。あの時の焦りの理由はまだ謎のままだ。


「樹ーおはよー!で、どうだった!?一緒に登校したんだなんかあったろ?」


「それがな、特に何もなかったんだよ。付け入る隙もなかった。」


 遊星に状況を説明し、策をねってもらうことにした。


「あれだ誘拐しちまえばいいんじゃね? 1番手っ取り早いしずっと二人きりだ!」


「犯罪者になっちゃうだろうが。」


 下校中に話しかけてきたあの人たちみたいにはなりたくない。パンチラが拝める代わりに顔面大破プラス色々失ってしまうだろう。


「そもそもお前話せるのか?喋るのは良いけどネタ尽きたら気まずいぞ」


 確かに、前はストーカーの疑いも薄かったしな。いい感じの雑魚ヤンキーが絡んでくれて話が持ったが……


「そう考えると、まずいな……」


 英語の先生を睨んでいた話のくだりは良かった。もっと情報を集めなければならないな、


「もっとよく知らなくちゃいけないな……」

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