第3話 必要な不名誉
昼になり各々がご飯を食べ始める中一つだけ雰囲気のおかしいグループがある。
「──それで、蒼さんの好みとかを調べるためにそのノートができたという訳か……」
「──そうだ。今日からこの計画はスタートしている。」
「……樹、そういう事する人をなんと呼ぶか知ってるか? ストーカーって言うんだぜ。」
分かっている。だがしかし、敵がいると分かったからにはありとあらゆる事を調べ記憶し、適切な対処を行うことが出来れば好感度は上がる。ならば必要な不名誉だ。
「まぁ、そのまま続けてどうなるかは分かるが、知ったこっちゃない。幸運を祈る。」
「助かる。今日までに住所の特定まではしたいと思っている。手伝って──」
「断る。俺はその不名誉は要らない。」
「…………」
「にしても、いつも動かないお前がここまでするとはね、怖いな愛は」
この恋はもはや天命に違いない。ならば全力で叶える。そのために手段は選ばない。が、今回の作戦には問題もある。
***
──放課後
「蒼〜! 帰ろ!」
そう、友達である茜さんと一緒に帰るという事である。
普通に考えれば、監視の目が2人に増えるという事だが、蒼さんの気は茜さんに向く。ならばワンチャンバレない。
「じゃあな、樹。頑張れよ」
「じゃあな」
大通りまでならバレても問題ないあそこら辺には色々施設がある。そこに行こうとしていたと言えばいい。
店に入らなければ良いのだが……
かと言って住宅街に行かれては怪しまれる。元々この辺に住んでます感をどうにかして出すしかないか……
「今日用事あるから真っ直ぐ帰ろ?」
「分かった」
ありがたい。カラオケとかファミレスに入られたら終わりだったが神は味方したという事か。
にしてもあの二人は仲が良いな。中学からの中だと聞いたことがあるが、茜さんは蒼さんの事をよく知っているのだろうな、
「あれ?居なくなってる。角曲がったのかな?」
見失い慌てて後を追う。角を曲がった瞬間、誰かに掴まれ壁に押し付けられる。
──蒼さん!?
胸ぐらを捕まれ、足ドン。上がった脚に目が行く。見えそうで見えないこれ程もどかしい事があるだろうか、奥ゆかしき太もも。いやそれどころでは無い。
「おい……」
一瞬にして煩悩は消え失せる。怖い。強い。このままでは嫌われてしまうのではないか……どうにか動こうとするも動かない。
「……お前、茜のストーカーか?」
違う。だが間違ってはいない。ストーカーには変わりない。
「茜は可愛いからたまにいるんだよ。アンタみたいなキモイやつが、」
キモイやつ……好意を抱く人にこんなことを言われては身が持たない。これ以上嫌われないように、何とかしてこの状況を打破しなければならない。
「……僕の家、こっちにあるんですけど?」
「…………」
さすがに無理があったか……?
大きな賭けである。もしこのまま嘘が通れば疑いは晴れるだろう。
しかし、相手はこの地域に住んでいる。こんなやつ見た事ないぞ? と、なれば疑い晴らすことは出来ず、さらに疑われるか警戒されて蒼さんに近づけなくなるだろう。
真っ直ぐと見つめられる。見定められていると言った方が良いだろう。普通ならばこれ程密着し、見られたら心臓が持たないだろう。
そう、今はある意味今までに無いほどドキドキしている。段々と蒼さんの力が弱くなっていく。安堵。とてつもない開放感、それと同時に違うドキドキが高鳴る。
「──そうだったのか……?」
行けた!? これが通用するのか!?
「そうなんですよ。普段は家から出ないので、あまり会う機会がなかったんですが、クラスも同じですし、これからはよろしくお願いします。」
誤解を解く&相手に認知された。勝った……! だいぶお近づきになれたのでは!?
「……ところで、その……そろそろ脚をどかしてくれるとありがたいのですが。見えそうだし……」
「……ふぁっ! ご、ごめんなさい!」
蒼さんってそんな声出るんだ……死んでも悔いは無い……
「綺麗な脚ですね。」
見えそうで見えないギリギリのラインを攻められ、胸ぐらを掴まれゼロ距離となりついに変態をあらわにした。
「えっ、あっ、変態か。」
一瞬にしていつも通りの目つきとなる。レアな蒼さんを見れた。
「違います。変態じゃありません。」
「いや、発言からして変態だろ?」
何とも言えない。変態の自覚は無いが傍から見れば変態なのだろうな。薄々分かってはいたが、それを蒼さんに言われるとは思っていなかった。
「……そうなのかもしれません。」
「面白いね。樹くんは」
少し話してみて分かったけど決して蒼さんは怖くない。クールと言うやつだ。そして名前を覚えてくれていた。こられは大きなことだと思う。
認知すらされていなかったらここで自己紹介しなければならないからな。
「蒼さんも案外話しやすいですね。もっと怖いにとかと思ってました」
「よく言われる。こんなんだから友達も茜みたいに上手く作れないし、そもそも怖くて話しかけれないから」
──怖くなんてない。初めて君を見た日、とても綺麗だった。笑った顔は可愛くて怖いとは思わなかった。
ただ僕のヘタレでこうして話すまでが長くなってしまったが、怖くて話しかけれないことは無い。
「先生を睨むのはあんまり良くないと思うけどね。」
「英語はしょうがないと思うの。だって何言ってるか分からないし……睨んでるんじゃなくてあれは困惑の表情だから」
本当にヘタレだな僕は……こうして話せてるだけで凄い、
楽しく話しながら帰れていることに浮かれていた時だった。
「──イッテーな、おい。イチャイチャしながら歩くなよ。周りも見えねーのかよ?」
めんどくさいやつらにぶつかっちゃったな……
「すいません。気をつけます。」
「すいませんじゃないんだよ怪我でもしたらどうするんだよ」
「そう虐めてやるなよ〜……お前なんか文句あんのか?」
蒼さん!? めっちゃ不機嫌そうな顔してる……早く終わらせたいけど、面倒な人たちだな。
「おい? 文句あんのかって聞いてるんだよ!」
一人の男がつき飛ばそうと腕を伸ばす。
「触るんじゃねーよ。気持ち悪い。」
言った〜! 言ってしまった!! また面倒な方向に……いや、蒼さんが突き飛ばされるよりかはマシだけども。
「女だからって調子乗ってるんじゃねーぞ!」
「蒼さん逃げ──」
それはもう美しかった。真っ直ぐと伸びた脚。色白な脚が目の前を切り裂く。
それまた綺麗に蹴り飛ばされたことだ。振り上げた事によりチラリと見えるスカートの中、これほど素晴らしい一蹴りがあっただろうか。思わず感嘆の声をもらす。
「わーーお……」
強いな……あんまり蒼さんを怒らせてはいけないな、こうはなりたくない。
「強いね……僕の出る幕は無さそうだ。」
「お前もまた変態なことしたらこうなるから。」
今日何色の履いてるか分かってしまった事は黙っておこう。
「こいつ強すぎんだろ!? いっ、行くぞ!」
キングオブ引き立て役。素晴らしいモブだった。華麗に助け出す事は出来なかったが、助けられたし距離は縮まっただろう。
「助かったよ、ありがとう。」
「どういたしまして。これからはちゃんと周りをに気をつけなさい。」
やっぱり、全然怖くないじゃん。優しいよ蒼さんは。
「なんかあったらまた、助けてください。」
「嫌」
少し調子に乗っていたようだ……確かにそうなるよな。当たり前の反応だ。
「家まだ先なの? 私の家もう着くけど」
住所特定完了。これで今日のミッションは全て終わった。
「そのちょっと行ったとこに住んでるんだよ」
この嘘がバレないことを祈るしかないな。バレたら終わり。嫌われてしまうだろう。
「あー、あの60円でコンポタ買える自販機の辺り?」
いや分からんて。確かに安いけど……
この辺じゃ有名なのか? もしや探りを入れている? ここで答えられなければ疑われてしまうのか!?
「今ままで見かけもしなかったからなお前のことを。もうちょい奥か?」
「そうだねもうちょい奥のとこだね」
完全に不味い状況である。ここら辺の事はあまり知らない。60円のコンポタなど全く知らなかった。
少し無理があった。だがしかし問い詰められた時、あれ以外なんと答えれるのか。
今後が大変になってしまったが収穫は十分。このまま上手く解散する。
「んじゃ、またな」
「ま、また明日じゃあね」
挨拶してしまった!!またって言ってくれた!!今日はいい日になった。
「──こっから家に行くの遠いな……」
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