第2話 ノート
まずは相手を知るところから始まる。
一目惚れから始まったため、相手の趣味など全く情報がない。そこで一つのメモ帳を取り出す。
蒼さんの一挙一動すべてを逃さず記録する。行動から人柄の予測を立てられるようになる。
これを蒼さんノートと命名。もはやストーカーの域に近いことは重々承知の上の行動である。
さらに神は味方している。蒼さんの席は前から二番目そしてその斜め後ろに居る僕がいるつまり……蒼さんを見ていても周りからは黒板を見ているようにしか見えない。
今この授業中にも視界に蒼さんが入っている。至福……!! ありがとう神様!!
この蒼さんノートの最初は何になるだろうか、
「あっ……書いておこう……」
『あくびが可愛い蒼さん。』
***
正直に言おう。蒼さんは正直言って怖い。しかしちゃんと可愛い。しっかりと身なりに気を使っているのが分かる。身だしなみもしっかりしている。髪も綺麗に手入れされていて、つやつやで何か良い香りがする。
……もう完璧なストーカーになっているな……
それにしても蒼さんの情報が足りない。最初の自己紹介やらなんやらで誕生日とかその辺はリサーチ済みだ。あと英語が苦手ということも分かった。
「──じゃあ、蒼さん。ここに入る単語は何ですか? 教科書を見れば書いてありますから、答えてみなさい?」
「………………………………」
何も言わないだと!? だんだん眉間にしわが寄って来てる! そんなに先生を睨まないほうがいいと思うのだが。先生も困り始めてるぞ!?
「……ディ……ドゥウェ?……ドゥウェロップ……?」
「違います。このくらいは読めるようにしておきなさい。中学でも出てきたと思いますが。」
あっ……蒼さん落ち着いて!? なんかもはやドス黒いオーラが見えるような気もするんだが!? 落ち着いて~? 怖いよ~? 落ち着くんだ蒼さん~!!
『英語が嫌いな蒼さん。(先生をめっちゃ睨んでいた)』
***
──国語はつまらないということだろうか? 国語の先生の読み上げが始まってからずっと、うとうとしている。可愛い。
可愛いが、授業中に寝ては先生に怒られてしまうのではないか? と、ふと思う。しかも前から二列目。すぐに寝てることを注意される。
起こしてあげるべきなのか!? だがしかし、この蒼さんをずっと見ていたい!
樹の心情は荒れていた。このままでは蒼さんの成績が下がってしまう。蒼さんの未来を良くするためには起こすべきだろう。
しかもしれっと話しかけることも可能。話しかけても起きないならボディータッチも致し方ないことだ。口実も十分実行に移しても何ら問題ない。
だが目の前には眠たいのを我慢してるが、もはやまったく我慢できていない蒼さんがいる。ならばここは起こさず、うとうとしてる蒼さんを眺めながら寝るまで見守るのが最善ではないのか?
正直この蒼さんを見ていたい。だがしかし! と、頭の中で戦争が始まる。
争っている中斜め前からゴンっという音が聞こえる。
──寝た。
『国語は眠たくなっちゃう蒼さん。』
──あの勢いだと頭痛いと思うな……
情報……蒼さんはパソコンは得意なのだろうか? いつもあんまり動いていないけど大丈夫だろうか。今日はタイピングの練習だからどれほどできるか分かる!
「うっ……動き出した……」
…………おっそ。まさかここまでとは、だいぶ苦手だぞ!? これは間に合うのだろうか? 時間内に課題が終わらないのではないだろうかという速さだ!
何故か物凄く険悪な表情でパソコンを睨んでいる。手も震えでしている。
落ち着いて蒼さん学校で台パンはダメだ! みんなびっくりしちゃうから! 抑えるんだ!
──違う……この瞬間、己の魂が叫んでいるかのように電気が走った。
怒っているのではない。固まってしまったんだ!! きっと『ヴァ』とか『ぢ』みたいなやつをどうやって出すのか分かっていないんだ。どうする、助けに行くか? いや少し遠いか、
「おい、これってどうやって出すんだ?」
「そ、それはこうやって──」
普通に聞いた。
あいつ……蒼さんを狙っているのか? 要注意だな。
『パソコン苦手な蒼さん。』
──あいつ、話しかけられてうらやましい。
***
体育……正直やりたくない。なんたって持久走だからだ。だがしかし体育着素晴らしい!運動の時間の蒼さんは髪を結ぶ。何かこう、グッとくるものがある。
蒼さんは体育が得意だ。身体測定ではどの記録も高かった。きっと結果はA判定だろう。
「よーい、スタート」
最初からゆっくりと走る。最初から頑張れば後がキツくなる。女子とのスタート位置は距離的な問題により違う。男子の方が距離が長いため女子の後ろからのスタートとなる。
この速さ、このスピードで走っていれば──
──来た!この足音、リズムからして蒼さんだ!
もはや意味ないが、抜かれる際には息を止めて余裕感をかもし出す。
これは追い抜く時の方が『俺、余裕です。』感は出るが、蒼さんを追い抜くことは無いだろう。
その後も何回か抜かれる度には息を止めて余裕感をかもし出す。
さすがに距離的な問題もあり女子が終わって男子の応援をし始める人もチラホラと現れる。
──皆同じ考えか、どれだけ余裕そうに走るか、ここが違いとなってくる。そろそろ蒼いさん達の視界に入ってくる頃だろう。
横を颯爽と走り抜けていく影が一気に増える。皆ペースを上げたのだ。
こいつら、今から上げても遅いと思わないのか!?
この時点で速い奴はあと一周とかになっている。注目の目はそちらの運動出来る男子に行く、ならば上げる必要は無い!
──あれは蒼さん!? 見られているだと!?
ペースを結局変え最後ばてた樹だった。
『運動神経が良い蒼さん』
「ゴール最後の方だったからみんな見てたぞ? もちろん蒼さんも見てたぞ。良かったな!」
「──ゼェゼェ言いながら走ってくる格好は好印象にはならないよ。」
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