たとえ君がこわくても
天然無自覚難聴系主人公
第1話 出会い
高校 入学の春のこと。ここから新たな生活がスタートするという思いを胸に、正門を前にする。横から同じ新入生であろう二人の女子が歩いてくる。彼女達との最初の出会だった。
春風が そっと髪をなびかせ、黒く艶やかな髪がふわりと踊る。明るく笑いとても楽しそうで、とても眩しく見えた。
とても可愛く、とても綺麗で、歩く姿は美しく容姿端麗でとても優雅に正門をくぐって行く。
それは一瞬のことだった。ただ目の前を通った一瞬も、長く感じた。目が自然と引き付けられ離せなくなる。この瞬間。僕は恋に落ちた。その容姿に惹かれた。人生で初の一目惚れ。この恋は実らせたい。一人で思いを募らせた。
***
──それから一ヶ月。全く進展も起きない中すでにだいぶ時間が経っている。
──まずいな…声もあんまりかけられていないし……
彼、白石 樹の心中はもはやあの子のことで一杯一杯だった。
お近づきになりたいが、きっかけがない状況であり、無理に喋りかけに行こうとしても周りにいる女子に阻まれ話しかける機会がない。複雑な心境の中ついついため息をこぼしていると、
「蒼さんに話しかけれたか?」
話しかけることができていればこんなに表情は暗くないだろう。
それを踏まえた上で、なお毎日聞いてくるなんとも性格の悪いこの男は 諌山 遊星。中学からの付き合いで男友達を作るうえではかなり役立ったが、
「ウザいなお前。話しかけられれば今頃ニヤついてるだろうね」
「でも何で蒼さんなんだ? ちょっと怖くない?恋に落ちるなら大体茜ちゃんの方だろ?」
遊星の言う茜ちゃんとは本名、碧桐 茜。僕の好きな蒼さんとは対照的でいつでも明るく活発に動いていそうな一軍女子である。
だが、これは大多数の人が言ってるだけで、実際に恋に落ちたのは緋村 蒼さんのほうである。
これは誰が何といおうとも揺るがない絶対的なものである。
確かに現男子の中でアンケートでも取ろうものなら茜さんは堂々の一位だろう。しかし僕の好きな人は蒼さんである。だが、誤算もあった。
「一ヶ月経って分かったけど、何と言うか蒼いさん……」
「怖い、だろ?」
当たりだろ? と言わんばかりのドヤ顔で見てくる。確かに、多少威圧的であろうとは思う。
正門の前では優雅に見えたが、言葉使いは良いとは言えるものではない。少し見ていると睨まれる。少し後をつけると睨まれる。まったくもって好感が得られない。謎の多い人だ。
だが僕はそこがいいと思う。あの目付き、とても良い……身長が低いせいか、近くで睨まれる時は、下手な上目ずかいみたいでなんだか癒される。
口は悪いが、それはそれで助かるところもある。
などと遊星に蒼さんの良さを説明したが、「お前って、変態M野郎だったんだな」っといわれる始末。
「まぁ、蒼さんも見た目は悪くないし、そろそろ敵が動き出すかもだよね~ ……いや、別に俺は知らんぞ? 今のは俺の予想だから。 ……だからそんな顔すんな。」
──まずいぞ。まったく敵を考えていなかった。
何分か熟考し、顔つきが変わる。それは今までの遠くから見て満足し、ほっこりしているいつもの顔つきではなかった。臨戦態勢。初恋をかなえる。彼女欲しいという夢と欲望から来る、確固たる信念。
「──遊星。僕は行動を起こすよ。」
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