第3話 やられ役から脇役へ……

「おい!拉致だよこれ!王子が誘拐に協力するってどうなってんだ!?」

「まぁまぁ……落ち着いて欲しいサーペンタイン子爵」

「今縄を解いてやるからさ、いやごめん本当に」


 まだ学校の授業があるというのに、俺は特待クラス全員から(無論セリスも含む)奇襲を受け捕縛され、拉致されてしまったのである。流石に10人相手に逃げる事などできるわけが無く、そのまま縛られて運ばれた先は……学園内の敷地、その隅の納屋を改装したらしい工房であった。


 黒板に刻まれ魔法陣やらその説明、今まさに何かを作っているらしいビーカーや多種多様な液体……俺はここが何なのか知っていた。


「ようこそ、対魔人戦力研究会へ、改めて名乗らせて貰うよギニス、部長のナル・ワーナビだ」


 わざとらしい身振り手振りで一礼して、改めて名乗るナルに、俺は苛立ちながら縄を解かれながらも座らされた椅子で足を組んだ。



『対魔人戦力研究会』……略称『対魔研』


 後々ナル達一年特待生と、さらに追加メンバーを含め結成される『英雄部隊』の前身となる部活である。本来ならば、一章にて俺を倒したナルが、特待生皆を鍛える為に発足する部活であるが、この世界で魔人を倒したのは俺ことギニスである。


 だから立ち上げの期間に少しズレがあり、この一年選抜と被ったのだろう。原作やソシャゲ版では、一章エピローグにて活動が始まるのだ。


「そして、キミにはこの研究会への入会をーー」

「断る」

「そうかことわーーいや早くないか!?」


 無論断った、絶対に駄目だ、入ってはいけないと、こればかりは流石に断りを入れた。


 対魔研、並びに英雄部隊はすでに人員も、入るべきキャラクターも決まっている……俺が入った事で主要な、メインストーリーに関わるキャラが溢れ出して入らないなんて事になったら駄目だと、即座に断り工房から出ようと立ち上がった。


「待て、待ってくれギニス!?頼む、対魔研に入ってくれないか!?」


 さっさと逃げようとしたが、なんとナルが縋るように俺の制服の裾を握って引き込みに掛かったのだ。なんだ一体!?どうなっている!?俺は苛立ちながらも尋ねてみる事にした。


「はぁ!?いや、俺は必要無かろうが、お前ら特待でやってたら良かろうに!!何故!?」

「キミが魔人を退けたし!僕も倒したからだろう!!十分にキミを勧誘する理由にならないか!?」


 妥当である、確かに特待組からしたら主席の主人公ナルを殴り倒し、ナルが勝てなかった魔人を退けた奴なんか、戦力としても仲間としても引き入れたかろう。しかしだ……。


「あのなぁ、お前と俺が戦ったらもう俺は勝てんし!あの時は隙をついただけだし!魔人とやった時はズルして戦ったんだよ!そうでもしなきゃ、お前ら特待組やあんな化け物に勝てるわけなかろうが!」


 もういい、ここで言ってしまおう、俺は真実を吐いた。ナルに勝ったのはあくまで隙をつけたからで実力ではないと、魔人と戦った時も禁忌の装備は口にしなかったが、ズルをしたから勝てたのだと……。セリスやユリウス含めた、この対魔研の工房に居る特待全員に向けて俺は言い放った。


「最近じゃあ、俺の事誰もが一年最強だ、学年最強だなんて揶揄うがな……所詮俺は殴り合いができるだけの、才能が無い魔法使いでしかない……殴り合いの技術だって魔人には通用しない人間の技だ……俺を引き入れたところでーー」

「それでも、キミは勝っただろう……僕や魔人に……」


 そうして真実を吐き散らして尚、主人公こいつは、俺を認めていたのである。


「前の魔人の襲撃だってそうだ、僕は何もできなかった、自分で言うのもだけど……大魔導師の孫として様々な魔法を修めた僕が、皆を守るだけで精一杯だった、あのままキミが来なければ僕も、クラスの皆も死んでいたさ……学校すら失ってたかもしれないんだ」


 やめろ、マジでやめてくれ……そもそもお前の世界なのに、主役が活躍する場面を、メインヒロインを結局奪ったのは俺なのに……そんなに綺麗な言葉と視点で言ってくれるなと、俺は胸が痛くなって来た。


「キミの力が必要だギニス……どうか対魔研に入ってはくれないか?」

「……あのなぁ、だから……俺は……」


 これなら、俺に負けた事やセリスの事を逆恨みして復讐しに来てくれた方がマシだった。追放した仲間にざまぁされる勇者のように、散々バカにした下級クラスに返り討ちにされる貴族のように。


 あれだけ無様を晒そうと、台本と違う敗北を重ねても、こいつは何事もなかったと立ち上がって、どこまでも『主人公』であろうとしているのだ。


「駄目かな……ギニスくん?」


 セリスからも、駄目かと尋ねられる。俺は背を向けて、工房の扉のドアノブに手をかけた。


「俺は魔人とやり合ったのはあの一度だけだし、勝てたとも思っちゃいない……アンタら特待の様な才覚も持ち合わせちゃいない……」

「そうか……」

「籍は置かんが……知りたい事があったら教えてやる、役に立つかも分からんけどな」


 それだけを伝えて、俺は対魔研の工房から出てドアを閉めた。校舎に向かってゆっくり歩き出し、対魔研の工房から見えない位置まで行き……誰もいない事を確認して俺は………。


「がぁあぁあぁああああ!!は、恥ずかしい!!馬鹿か!!アホか!?何が、知りたければ教える!?籍は置かない!?何言っちゃってんの!?厨二病再発もいいとこだよ!!こんな、偉そうな違う技術で強いキャラムーブしやがって俺はァアぁああ!!」


 唸った、悶えた、自己嫌悪した。


 土壇場も土壇場で気分が良くなってしまったんだ、あのまま黙って出てれば良かったのだ。『知りたければ教えてやる』なんて台詞言っていいのは師匠キャラなりライバルキャラなんだよ!!それをこんな、一章でくたばる筈だったキャラが何を偉そうにと俺は、芝生で悶えて後悔した。


 悶えて芝生を転がってどれだけ経過したか……晴天の空を見上げながら俺は考える、俺は一体何がしたいのかと……。


 最初はギニスというキャラに憑依し、キャラの境遇と死を変えたいだけだった。ただそれだけ……主人公に成り代わるだとか、仲間の誰かの立場を奪うとか、考えてすら居なかった。ただ生きよう、生きてなんとか運命を乗り越えて、その後は適当に暮らせたらいいなって思ってたのに。


 そんなにこの世は都合よくできちゃあいない、罪には罰が下るし、因果応報と言うやつだ。父を叩きのめし、兄を殴り倒して爵位を簒奪し……主人公からはメインヒロインを奪って原作には無い黒星を刻み込み、活躍の場を奪った。


『お前はやりすぎたのだ、その責任を取らなければならない、ただの脇役では終わらせない』


 そう原作者かみさまが指をさして言った様にも思えた。


「まずは……選抜からだな、やってやるよ……しっかり責任取って最後までストーリー繋げてやろうじゃないか」


 最早俺は『やられ役』でも無くなってしまった。ならば『脇役』として、役をしっかり張ってやろうじゃあないか、決心を決めた俺は……とりあえずちゃんと授業を受ける為、上級教室へ駆け足に戻るのだった。

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