第2話 面通しだ!やられ役!!
「くっそー……面倒な事に……」
「いいじゃないか、学園始まって以来初めての上級クラスで選抜選手入りだろ?誇りなよ」
俺の気持ちも知らないで……アラクは俺が一年選抜の選手になった事を打ち明けると、何を悩む、誇れ喜べと笑った。何しろ、特待クラスから選手に選ばれるのが常な学園の歴史の中で、初めて上級から選ばれたという例を刻んだらしい。
そう言う『初めて』や『異例』は主人公の特権でしょうよ……追放された奴とか、今まで弱かった最底辺クラスの覚醒した奴とか……顔を机に伏せて身の丈に合わないイベントを引き受けてしまった事を俺は後悔した。しかし、参加しなければ他に出来るやつも居ないし、メインストーリーが丸ごと消失するので参加せねばならない。
ただ、メインストーリーを進めるだけでは駄目……こうして改変に対しての尻拭いはこれから先も起こりそうだと予感しながら、俺はよしと一つ決意して立ち上がった。
「とりあえず、特待組に挨拶しに行くか……ナルや王子とは一緒に参加するわけだし」
特待の参加する2人には改めて挨拶しておこう、それと他に出なかった特待組にも面を通しておく事にした。
「応援するよ、学年最強の晴れ舞台をね?」
「それ、マジで言うのやめてくれ、本当に……」
『学年最強』
ナルを殴り倒し、魔人を退けた事から俺はクラスメイト達からそう呼ばれる事が多くなった。馬鹿馬鹿しい話である、ナルに勝てたのは一度だけ、それもナルの油断を突いただけでまともにやり合ったら勝てない。
魔人ヴラディクとの戦いも、奇襲と炎蛇のブレスレットによるドーピングから速攻を成功させ無ければ、俺はバラバラの惨死体になっていた。
所詮は偽りの称号……だから俺は、そう呼ばれるのが嫌いだった。何より思い出してしまう。
『お前は強い……けど、花が無い』
『中量級日本最強は水瀬……しかし観客は……』
『強くなければプロにはなれない……けど、強いだけがプロじゃない』
『階級を下げれたらなぁ……キミは中途半端だ』
頭を掻いて歯軋りをして、壁を殴りそうな苛立ちが襲う……しかし堪える、息を吐いて、吸って堪えて苛立ちを鎮めていく。そうして歩いて、一年の特待クラスへ辿り着いた。
休み時間かつ、移動教室でもなかったらしい。一年生特待10名全員が、今は談笑したり予習をしたりと、各々の時間を過ごしていた。
「あ、ギニスくん」
そんな俺の、入り口前からの視線に気付いたのか、セリスがこちらを見て席を立って近づいて来た。そしてセリスが、俺を呼んだ事により、特待クラスの皆が一斉に俺へ視線を向けた。怖ぇよ、皆同じタイミングすぎて俺は慄いた。
「どうしたの、何か用?」
「ああ……ちょっと面通しにな、選抜に出る事になったから特待組に挨拶に来た」
「え!じゃあ本当にギニスくんが出てくれる事で決まったんですね!?」
まだ、特待クラスには連絡が行ってなかったようだ。セリスが驚き歓喜と期待を声色に纏わせて、わざとらしく言う様に俺は苦笑する。それを聞いて次に近づいてきたのは、王子ユリウス、そして主人公ナルだった。
「そうか、我々の推薦を受けてくれるのかギニス」
「互いに色々あったけど……一学年代表として、共に頑張ろう」
王子ユリウスも、主人公ナルもなんとも気持ちよく俺を仲間と扱うのか。ナルに至ってはせめて少しくらい『お前なぞ認めるか』と言ってくれた方が気持ちが楽なんだけどなぁ、それ程にこの主人公はやはり、一度軌道がずれてもしっかり持ち直せるメンタルを持った主人公なのだ。
まぁ、それはそれとして……。
「ああ、その……その前にさ、最終確認にも来たんだわ、コイノスと話をさせてくれ」
ドアを塞ぐ形になったセリス、ユリウス、ナルに退いて貰い、俺は席に着いて項垂れている俺よりも輝く金髪の少年の前に立った。
「コイノス……一つ聞くが、俺を推薦して選抜を辞退するのは本気なんだな?」
俺と同じ、魔法学園の生徒らしからぬガタイのいい肉体を持つコイノスは、その肉体に反して縮こまりながら、自信を失った弱気を感じる眼差しを向けて言った。
「申し訳無い……今の俺にはユリウスや、学園の期待に応えれる事はできない……王子を守れなかった俺には」
「コイノス……あれは仕方がなかった、運が悪かったんだ……」
会話した瞬間、俺は分かってしまった。これは駄目だと、コイノスの心は折れてしまっている。俺はこの覇気のない声色を、弱々しい雰囲気を知っていた。現世のジムで、試合に負けて、引退を決めた先輩たちや……アマチュアで負けてやる気をなくした門下生……もう戦いたくない、それと同じ雰囲気であった。
この状態になったら、時間でしか解決できない……いかに厳しく叱っても逆効果だ。ゆっくりと、彼が立ち直るまで沢山の時間が必要になるだろう。
「分かった……コイノス、お前の代わり俺が、選抜代表として戦ってくるよ」
こんな状態の奴を、ふざけんなだの、責任から逃げるななんて言えない。俺はコイノスに右手を差し出して握手を求めた。
「すまない……ギニス、ユリウスもナルも、申し訳ない」
コイノスも手を差し出してきて、俺はしっかりその手を握った。握り返すコイノスの手に力が入ってないあたり、余程魔人襲撃の時にユリウスを守れなかった事は心にキテいるらしい。
「うん、じゃあ折角だな……ギニスにもついでに入って貰うのはどうだ?」
「あぁ、確かにそれがいいかもしれないな」
そうして選抜試合への決意を決めた矢先だった、ナルとユリウスの会話に俺は一気に不穏な影を感じた。あ、これまずい奴だ、すぐさまこの特待教室から出て行かねばならないと。
「では、俺は教室に戻るよコイノス……失礼させて……」
「まぁ待てよギニス」
「待ちたまえよサーペンタイン子爵」
2人の手が、それぞれ俺の左右の肩をガシリと掴んで帰すまいと捕まえて来た。待て待て待て待て……この流れはヤバいやつじゃあないか?俺は振り払おうにも払えない2人の手に歩みを阻まれてその場に止まってしまった。
「こうしてキミも僕たち特待と同じ場所に立つんだ、それに……魔人を退けたという実績もある」
「どう?僕たちの活動に参加しないか、対魔人戦力研究会に……」
「失礼します!」
それはマジで勘弁してくれ!絶対に入ったらダメだ!俺はそのまま数メートル先の特待クラスの出入り口に走ったのだがーー。
「「逃すなぁ!!」」
「「「「「「「了解!!!」」」」」」」
「ごめんギニスくん!!」
四方八方から、男女問わず8名が、逃げようとした俺に飛びかかってきた。おいこらコイノス、お前さっきの躁鬱じみた態度はどうした?セリス何でキミまで乗り気なんだよ……。
「た、助けてアラクーー」
そんでもって、俺が追い詰められたらまず助けを呼ぶのはアラクなんだなってくらいに一番信頼している事を、俺は今更になって気付いたのだった。
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