第二章 一年選抜交流試合編

第1話 一年選抜だ!やられ役!!

 第一章を終えてしばらく……学園には平和が訪れた。その後起こったことをまず、語る事にしようか。


 魔人襲撃イベントにより、本来ならばナルは貴族の爵位と勲章を貰うのだが、これはナルが特待生共々返り討ちにされ、俺が介入し、手柄を奪った形になってしまった。


 先に擁護しておくが、あれは本当に状況とタイミングが悪かったのだ。あの時点のナルでも『廃棄の血族』の魔人が3〜4人同時に襲撃しても倒せるくらいには強い。


 その介入でナルは、今でもただの一人の学生であり『大魔導師の孫』である。しかし、この改変は不幸中の幸いながらいい方向に進んだ。


 というのも、ナルの祖父エブリス自体がそれを望んでおらず、エブリス自身も、そして孫にも貴族社会や政治への介入を決してさせない事を条件に、このベラム王国に腰を下ろしている設定がある。あくまで相談役として国王と知古の関係はあったが、決して爵位も褒賞もエブリスは貰わなかった。


 が、原作では魔人化したギニスこと俺を、ナルが討ち倒した功績が広まってしまい、ナルは英雄として讃えられ『仕方なく』爵位や勲章を手に入れてしまった。祖父エブリスはこれに怒り国王に説明を求めれば、あまりに目撃者が多すぎたが故に何もしなければ国民からの不信を買うとなり、こればかりはエブリスも『仕方なし』とならざるを得なかった。


 これによりナルは、その力を利用しようとする輩による権力闘争、そしてナルを危険視する他国の者達から狙われて、そこから起きる事件や戦いに巻き込まれるのがこの『賢者無双』の大体のストーリーの流れとなる。


 そしてナルは、廃棄の血族との戦いに備えて仲間達……特待一年生を自ら鍛え上げる事となり、それが廃棄の血族対策部隊『英雄部隊ブレイブスクワッド』という部隊を立ち上げる事態まで発展する。


 この時与えられたナルの爵位が厄介となり、方々から仕事を回されるは貴族が抱え込みに近づこうとするわで、動き回る羽目になるのだが……これが爵位と勲章を手にしてない事により無くなった。


 むしろ、魔人との戦いに敗北した事から純粋に力をつける為、特待生一年生と自らも一緒に鍛え上げるという、少年漫画的な流れで特訓を詰む展開に変わったのだ。まぁ、少しタイミングが遅くなるが、この流れならいずれ『英雄部隊』も作られると思われる。


 因みに……俺が魔人を退けた事は緘口令が引かれ、ナルのような事態にはならなかった。恩賞は支払われて懐は潤ったが都合がいいな本当……強制力を多少なりに感じた。


 そうして……入学式を経て決闘イベント、さらに襲撃イベントと、濃密な一ヶ月と数日が経過し、メインストーリー第二章が始まる中、俺ことギニス・サーペンタイン(水瀬光太郎享年25歳)は……。


「単刀直入にーー」

「お断りします」

「ワシまだ何も言っとらんよ!?」

「一年選抜でしょ?特待から選べばよろしいでしょう、校長先生」


 マーティン校長から呼び出しをくらい、話をする前に断りを入れた。


ーーー


 説明しよう、選抜交流試合とは……第二章メインストーリーの根幹となる学校行事である。正確な名称は『三カ国同盟学園選抜交流試合』で、これはベラム王国と同盟を結んでいる二つの国の学校、そしてこの国の様々な学校から選りすぐりの才能達が選ばれ鎬を削る大会である。


 現世ならば国体……学生オリンピックに準ずる催し物となる。で、この大会の特徴として『参加できるのは一年生だけ』と言う事から『一年選抜』とも呼ばれている。


 一年選抜に選ばれる、それだけでも大変名誉な事であり、もしも活躍すれば優秀な人材として同盟下の国からも引く手数多、人生の栄華を約束される大会である。


 これまたナルの無双の為に開かれる様な大会……と、見せかけて重要なイベントなのだ。そこにはナルが参加して、他の枠にも特待生が入るわけだがーー。


「じゃが……その特待組からキミに推薦が来ておるのだよ、武術競技の枠にとのう?」

「武術ならば、特待に近衛部隊の倅でユリウス様の護衛についているコイノスが居るでしょう」


 特待組から俺に、推薦が来やがったのである。


 一年選抜は、それぞれの学校の一年から3人が代表として選ばれる。その三人の代表それぞれが『魔法競技』『武術競技』『知力競技』にて他国、更には自国内他校の生徒と競い合うわけだが……原作ラノベで当校からは主人公のナル、王子ユリウス……そして今俺が名前に出したキャラクター、特待生の1人コイノス・ストラトスが選出される筈だった。まぁ、その学年の成績トップ10位に与えられている特待生という資格、その中から選ばれるのが当たり前だろう。


 コイノスはユリウス王子の父、つまり今のベラム国王を守護する近衛部隊に所属する騎士を父に持つ、故に父に小さなこれから鍛えられていて、魔法学園では珍しく剣術や徒手格闘にも通じている確かな実力を持つ少年だ。


 やがては父と同じ騎士を目指しており、ユリウスの学校内における護衛役であり、友人としても信頼されていて、ソシャゲ版でも上から2番目のレアリティのユニットとして使用可能だった。俺は使った事ないな……確か上位互換が居たし。


「そのコイノスは、先の魔人襲撃でユリウスを守れず自信を失っておる……今の自分では無様を晒すとな……コイノス自身もキミを推薦しておる1人なのじゃよ」

「じゃあ適当な奴でいいじゃあないですか、探せばいるでしょ、この学園の一年で……」

「お主以外の一年に……この学舎で武の競技を成し遂げれる者は、それこそコイノス以外居らん」


 そのコイノス本人からも推薦が来ていた、適当に選べと言ってはみたが、コイノス以外ならもうお前しかやり切れる一年は居ないと校長は断ずる。


「じゃあ……武の競技だけ参加なしは……」

「三枠参加が絶対じゃ、その時点で参加自体ができないんじゃよ」


 じゃあ、武の競技だけ不参加という都合のいい事はできない。流石に三枠が埋めれないならば選抜にその学校は参加させない……それが選抜の決まりらしい。それは困る、もしもここにナルが参加しなければ、それこそ重要な出会いがあるのに、また俺のせいで無くなるなんてあってはならない事。


 都合良くメインストーリーに関わらずフェードアウトするのはまだまだ先になる様だ、俺が心中で諦めてため息を吐いた瞬間、校長の困り顔が笑顔に切り替わった。


「出てくれるようじゃな?」

「期待に応えれる成績は、出せるかわかりませんよ?」

「期待させてもらうよ、一年最強の魔法使いよ」

「校長……それ、マジやめてください……」


 あくまで腕っぷしが強いだけ、魔法が出来るわけじゃあないから『一年最強』なんて程遠いし、過ぎた名前だと校長に釘を刺す。


 こうして俺は、一章でメインストーリーからフェードアウトする予定が崩れ、第二章のメインキャラとして舞台に上がる事が決まってしまったのであった。

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