第15話 一章クリアだ、やられ役。

「知ってる天井だぁ……」

「キミ、結構余裕あったりする?」


 医務室の天井を見るのは2回目である、美形に覗き込まれたのは初めてだが、そこはセリスが覗き込むなりするのではとお約束は期待してもいいだろうと、寝返りを打ち俺はげんなりと溜息を吐いた。


「どれくらい寝てた?」

「もう夕方さ、生徒は避難して帰ってて……今居るのは僕たちぐらいさ」


 朝方から夕方まで眠るとは、炎蛇のブレスレットの反動はこれでもマシになっているのかもしれない。実際、初めて戦いで使ったが多用は出来ないと、切り札である事を改めて自覚した。


「キミは魔力が底をついて気を失ってたけど……キミが襲撃者を退けたの?」

「…………」

「ナルの証言をさ、壁越しに聞いたけど……相手は廃棄の血族の魔人なんだって?」

「……さぁな」

「凄いじゃん、もう一年最強名乗ったら?」

「やぁめろ、マジで……まともにやり合ったら勝てねぇよ、特待クラスに」


 禁忌の装備を使ってようやく相手と並び立てたんだ、ズルをしてるだけで威張れる訳もない。しつこいアラクに俺は勘弁してくれと言ってケープで身体を包み込み、これ以上は何も話さんと態度で示した。


 静寂がしばらく続く……それを終わらせたのは医務室を開ける扉の音であった。


「ギニス・サーペンタインは起きているか?」


 明るさが伺える、それでも真面目な話があると低い声が俺達に掛けられた。また寝返りを打ち、誰かと確認した。


「貴方は……」

「キミとは初めて対面するね、私はウェル・マグヌス……一年生特待クラスの担当教諭だ」


 赤髪オールバックの偉丈夫……名前を聞いて俺はベッドから上半身を起こして姿勢を正して対面し、一礼をした。


 ウェル・マグヌス……自ら名乗った通り、ナル達一年生特待クラスの担任である。ユニットにはなっておらず、ラノベ、漫画、ソシャゲを通して特待クラスの教室で授業を行い、時には事件を説明して注意をしたり、ホーム画面でログインボーナスや取り忘れのプレゼントやイベントを報せてくれたりする案内キャラ的存在。


 俺とは縁が無い教師がここに来た理由なぞ一つだろうな、まぁ当事者だからさっさと話は終わらせたいものだと、来るだろう話にしっかり説明できるよう、寝起き眼も意識も覚醒させる。


「特待生を襲った襲撃者について教えてもらいたい」

「はい、分かりました」


ーーーー


 俺はウェル先生に、語れる全てを語った。何があったか、魔人の特徴、対峙した際の感想……襲撃して来た魔人、ヴラディク・アロンソの素性は現世の知識から知ってはいるが、その辺りは言わないように気を付けて、口が滑ればそれこそ詰められかねない。


「だいたい……こんなところで」

「そうか、ありがとう……やれやれ、まさか特待生は王子もナルも含めしばらく休養とはな……」

「あの、ナル達は?」

「病院だ、キミと違って怪我が酷い……まぁ、ナルがすぐに自分を治して皆の治療に回ってるとは聞いたよ」


 ボロは出さなかった……と、思いたい。しかしナルを含め特待生全員、俺達と居たセリス以外が倒されてしまうなんて……物語の改変の影響は凄まじいと改めて実感が襲ってくる。


 だが……これでもう、メインストーリー1章にあたる部分から正真正銘、俺は抜け出す事ができたのだと安堵した。他にイベントは無い、ウェル先生が立ち去った病室で俺は、一つ背伸びをして立ち上がった。


「付き添いさせて悪いなアラク、帰ろうか」

「大丈夫なの?歩ける?」

「心配するなよ、もう大丈夫……セリスは?」

「流石に遅くなりそうだから帰らせたよ、

何だ、看病して欲しかったんだ?」

「寝起きに見るなら女の子の顔がいいだろ」

「同感だ、さすが学年最強」

「マジでやめろ」


 こっちは一気に攻めて退けたとはいえ、本来なら勝てない相手にズルしてなんとか帰って貰ったんだ、学年最強などと烏滸がましい。最強はナル・ワーナビ、主人公ただ1人でいい……まだ足がふらつくのを踏ん張って抑え、俺はアラクと帰路についた。


ーーーー


 こうして……今度こそ本当に、俺ことギニス・サーペンタイン(水瀬光太郎享年25歳)は『異世界転生賢者のチート無双〜大魔導師の孫に転生した俺のハーレムライフ〜』の、第一章を、生き延びて突破する事ができた。


 ナルと衝突した時は、どこかで暗殺されるかもと恐怖を感じたが、この手のキャラの負けた後における、現実逃避からの八つ当たりどころかむしろ自身を見直す展開になっていたあたり、流石は主人公でメンタルも強いと勝手に感服してしまった。


 さて……これから二章に入る。ギニス・サーペンタインの出番は……。


『一切無い』


 当たり前だ、1章で死ぬキャラだからな。if覚醒イベントももう終わったし、他のキャラのイベントでも出番は無くなった!つまり俺は晴れて自由の身になったわけだ……悠々自適に、その日その日を好きに生きてメインストーリーを離れよう。


 後は主人公のナルが、仲間の特待生とやがてナルの下に集う英雄達が全て終わらせてくれるさ……低レアキャラの出番はもう無いのだから。


 ーーと……そんな都合のいい話がある訳も無く、俺ことギニス・サーペンタインは、まるで改変の責任を取れと言わんばかりに、渦中に引き込まれて行く。


 そして始まる、メインストーリー第二章で、いよいよ俺はそんな本筋から抜け出せなく成る程の事態に、関わる事になるのだった。

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