第13話 ボス戦だ!やられ役!!

『業風』ヴラディク・アロンソ……。


 この世界における敵勢力『廃棄の血族』に連なる1人であり、魔人族とエルフの混血の少年。


 ホワイトブロンドの髪に真紅と翠玉のオッドアイを持つこの少年は、その生まれから迫害を受け両親と共に『棄てられた大地』へ移住したが、先の戦いで戦った両親を英雄達に殺され、復讐の為廃棄の血族に参加した魔法使い。


 そして……原作版第一章では、力を与えて暴走するギニスをけしかけて、ナルの力を推し量るキャラクターであり、直接対決はまだ先のボスエネミーである。


 俺が更生した場合のif覚醒イベントの中では一章時系列でナルが同じように戦う事となるが、それでもストーリーは変わらずナルは圧勝して撤退する。


 その筈が……ナル以外の特待生が全滅する事態に陥ってしまっている事に俺は驚愕した。


「ああ、キミの友達やクラスメイトが邪魔だからかな?」


ヴラディクは笑いながら、足元に居た特待生の1人を足蹴にして退かしながら言う。


「勇敢ではあるが……キミとの力の差を理解していなかったんだ、彼らは一致団結のつもりが邪魔をしていたわけだね、だから今でも本気を出せない……」

「皆を悪く言う事は……許さない!」

「図星だろ?難儀な事だなぁ……」


 仲間が邪魔?どう言う事だと、俺はよろしくない頭で必死に考える。いかに魔人とはいえ特待生9人、ナルも居てどうしてこうも無惨な様を晒しているのかと……。


 原作と違う事は、ナルが校長に呼ばれ合流と言う形になる事と、セリスが居るか居ないか……それだけでここまで変わるかと俺は原作、ソシャゲの場面を掘り返して思い出して、何があったのかと考え……。


 そして、今まさにヴラディクが言っていた台詞によって気付いた。


「そうだった……この時点では、ナルと他9名の特待生の差が酷く開いていた!」


 重要な事であった……ナルの強さを基準にしていたから忘れていた!確かに、この場に居ないセリス含めた特待生含め他9名は『歴代特待生で最高の才能』と言う設定はあったが、その中でも主人公ナル・ワーナビは飛び抜けてチートであった。


 全員が全員ナル並の力を持っていると錯覚を俺は起こしていたのだ!ソシャゲではそれこそさっさとレベル上げできるし、原作ではナルの無双に隠れているが、彼らの活躍もしっかり書かれている為、そればかりが印象に残っていた!


 特待生組が力をつけるのはそれこそ、この襲撃イベントを超えた『第二章』からだ!ナルが新たな部活を立ち上げて、知識交換や交流により高めあい、特待生達はナルに追いついていくのを俺の頭からすっかり消え去っていたのである!


 さらに……決闘沙汰による呼び出しだ……本来、この場面は『ナル1人が闘い、特待生全員が背後に避難して見守る』と言う状況となるのが原作の戦闘場面である。


 しかし、ナルが俺との決闘沙汰により呼ばれた事で、襲撃の場面には出くわさなかった……代わりに合流までの間、ユリウス王子含めた6名がまず勇敢に奮戦……それが最初の爆発になるのだろう。


 後は爆発に駆けつけたナル、エリシス、ジプシー3人組が合流し、そのまま戦闘に入った……が、倒れ伏した6名を守りながら、さらにエリシスとジプシーが居るという状況は、ナルにとっては『全力を出せば巻き込んでしまう』という状況となる。


 そして、現在に至る……つまり大ピンチの他ならなかった。


「因果応報ってやつ?くそ……また俺がやらかしてる……」


 主人公を倒してしまった報いか?代償か?本当に因果は巡るなと俺は、ローブのポケットを弄り『それ』を取り出した。


「このまま脇役で、さっさと降りるのは駄目だと、責任を取れと神様が言ってんのか……原作者様がよ」


 サーペンタイン家が守っていた『禁忌シリーズ』の装備『炎蛇のブレスレット』を見て、原作改変の罰だなと俺は自嘲しつつも、それを右手に通した。


 微かな酩酊感が身体を襲うが、しっかり立ち上がり、俺はヴラディクとナルの対峙する最中に走り出した。


「まぁいい、やがて英雄となる血筋を絶やせるのだから……死ね!ナル・ワーナビ!!」


 今にもトドメを刺そうと杖を振るうヴラディク、息を切らすナルの背中を俺は飛び越える!流れる魔力を人智を超えた力に変える禁忌の装備が、明らかに人を超えた、そして俺自身の規格を超えた脚力を、跳躍を生み出す!ヴラディクの視線が俺に向き、驚きに染まる最中ーー。


「っしゃああああああーーー!」


 足の竦みも、恐怖も、酩酊も打ち消すように叫び、俺は右拳をヴラディクの頭部に振り下ろした。


「はうっ!?」


 左のこめかみに拳がめり込み、衝突事故の如くヴラディクの頭部が揺れて地面に肉体が叩きつけられて、さらにバウンドした。まず、人間の力ではあり得ない光景、高く跳ね上がったヴラディクの肉体は、さらに地面を二転三転してうつ伏せに倒れた。


「ギ、ギニス!?何故ここに!!」

「構うな!俺がこいつを引きつけるから特待生全員、安全な場所に引っ張っていけ!お前ならできるだろナル!」


 簡潔に、出来る事を指示して俺は倒れるヴラディクに向かって歩き出した。炎蛇のブレスレットが、俺の魔力を吸いきり魔法酔いが発症するまで……鍛え上げた俺なら3分までなら戦える!その間にナルを、特待生達を安全な場所に避難させるまで俺がこいつと戦うしかない!


「ふ、ふ……今のは効いたよ、酷いじゃないかギニスくん?」


 ヴラディクが立ち上がる、効いていると吐かしながら効いていない様子で、右に曲がった頭部を自ら両手で掴み、骨を鳴らして真っ直ぐに戻すパフォーマンスをして見せた。


「残念だよ、我々と戦う道を選んだんだーー」

「しゃあっ!!」


 台詞など聞かず、俺はそのまま踏み込み、左のボディを叩き込む!しかし、その攻撃は不可視の障壁が阻み鉄の打ち付けたような音を響かせた。


「少しくらい聞いてくれてもよくないかい?あと、もうキミの拳も蹴りも届かないよ?この基礎防壁魔法マジックシールドは、余程の力でないとーー」

「おおおっ!!」


 魔法の障壁?それがどうした、こちとら魔法よりも格闘これの方が強いんでな!これに賭ける他無いんだよ!その一念を証明するかの如く、ヴラディクの身体が後退した。


「なにっ!?」


 防壁魔法にヒビが入り、そして拳が突き抜けて、ヴラディクの腹部にめり込んだ!


「ぶぁあはぁあ!?」

「っしゃあああ!!」


 ボディで止まった身体に、俺の肉体が反応する!殴れ、殴り倒せ!きめてしまえ!ここしかない!!そのまま思い切り右のストレートを振り抜けば、ヴラディクの顔面が崩壊した。


 しかし手ごたえが無い!ヴラディクの肉体が霧散して消えていき、その姿は更に奥へと現れた。


「いやいや、力押しで破るなんて……キミ本当に魔法使い?」

「生憎、殴ったり蹴ったりのが得意だ」

「なんでこの学校に通ってるのさ……」


 ごもっともである、残念ながらストーリーに従う必要なければ通ってないがなと悪態を吐き、そろそろかと俺はブレスレットを外した。


「で、どうするよ、まだやるか魔人?」


 ナルも、特待生も皆退避した。流石主人公、この数十秒で魔法なり何なり使って引き上げたのだろう。


「いや……ここまでにしておくよ、時間切れみたいだしね?」


 何やら金属のぶつかる音と喧しい声が聞こえる。衛兵がやっと来たかと俺は安堵の息を漏らしそうになったが飲み込み、何も仕掛けて来ないかヴラディクを注視し続けた。


「多大な収穫が得られたよ、大魔導師の孫、それを打ち倒す殴り合いの強い貴族とはね……また会おう、その時は我々廃棄の血族が、世界を手にする時だがね……」

「やかましい、さっさと尻尾巻いて逃げとけ」


 紫色の風が渦を巻き、ヴラディクの身体を包み込みやがて一際強い風を吹かせて、消えていった。いかにもな立ち去り方しやがって、ちょっとカッケーじゃあねぇかと、奴の立っていた場所を見て俺はようやく安堵の息を吐いて仰向けに倒れた。


「メインヒロインと婚約して……主人公殴って……活躍奪って……やらかしにも程があるな……あーあ……」


 ギニスが、俺が生き残るために、原作の設定や展開をいくつ壊したか分からない。いよいよもう、取り返しがつかない事をしてしまったが、もう知らんと俺は何もかも放り投げたくなった。


 疲れた、魔法酔いが酷いし寝とこう、それがいいやと俺はそのままゆっくり目を閉じたのだった。

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